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Àdá Irin / Navy Blue

Àdá Irin / Navy Blue [ Freedom Sounds ]
2020.02

ロサンゼルス生まれのプロスケート・ボーダー、Sage ElsesserことNavy Blueによるデビュー作。内省的なメロディのサンプルと最小限の乾いたビート、そして自分自身に語りかけるような淡々としたラップが織りなす空気はガス・ヴァン・サントの初期青春映画の様でもあり何も起こらないロードムービーのサウンドトラックのようにも感じる。

この作品に流れる”親密さと仄暗さ”は前向きでいることやエモーショナルであることが正義と近しい言葉で語られる暮らしのなかで何よりも心を明るく照らしてくれている。特にKAが参加したエチオピアン・ジャズサンプルの 「In Good Hands」 から Chet Baker のようなジャズ・ヴォーカル曲 「ode2mylove」 の2曲を含む終盤4曲に流れるメランコリックなムード、それこそがこの作品の一番の魅力であるに違いない。

ある人にとってはまったく意味のないものがある人にとってはとても重要だったりする。わずか29分、11の日記のような曲たちを聴き終えるころにはNavy Blueというすこし気障な名前にも愛着が湧く。本当に仲の良い友達にだけ教えたくなる作品に久しぶりに出会えた。

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Buck / Brainstory

Buck / Brainstory [ Big Crown ]
2020

ケヴィン&トニーのマーティン兄弟とドラムのエリックによるカリフォルニア州出身の三人組。ぱっと聴きSoulやJazzといった様々な音楽の影響を受けていそうだが、そのどれとも言えない音。

音楽というのがSoul、Jazz、Funk、Rock、Folk etc..に象られたドーナツだと想像して、そのドーナツの穴から静かに溢れ出たような暗闇で煌めく音。それはpsychedelicであり、ここ10年程のこうしたグループに共通して見られる音だ。
特にBrainstoryの場合は、ケヴィンの歌声による遠い乾いた視線と、全体のほんのり明るい雰囲気が相まって醸し出す愛らしさがとても素晴らしい。そのバンドサウンドはひたすら趣味がよく、例えばA-3 「Sorry」 では、コズミックなシンセ音によるワンショットリフ、ヴィンテージリズムボックスのようなピッピコトコトコのドラムセクション、さらに脇からパウワウギターが品良く愛嬌を添え、それらが仲間のように連れ立って揺れ進んでいく。
そして歌。全ての感情を投げ出してしまった後に残ったものだけで紡がれたメロディラインは、結局のところ立ち上がってあてもなく歩き続けるしかない現実に直面している人々の背中をそっと後押しして、ぐっと勇気付けてくれる。

Sorry / Brainstory
部屋の壁にはJohn Coltrane / Blue Trainのポスター
BrainstoryによるJohn Coltrane / Impressionsのカバー

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Louis Wayne Moody High / V.A. [ Numero Group ]

Louis Wayne Moody High / V.A. [ Numero Group ]
2020.04

シカゴの超優良再発レーベル”Numero Group”からまたしても素晴らしいコンピレーションがリリース。『Louis Wayne Moody High』-架空のハイスクール「ルイ・ウェイン・ムーディ高校」の失われた1967年卒業年鑑をテーマに10代の失恋や夏の思い出が歌われるやせるなくも淡い哀愁を帯びたティーン・ガレージが14曲収録。

日本では”トワイライト・ガレージ”と表現されること多分ほとんどだと思いますが、米国のレコードフェアなんかではその手のシングル盤には”Moody”と書かれていてこちらの呼び名の方が一般的。所謂60年代のガレージ・バンドと比べるとフォーキーな楽曲が多く、間違ってもシャウトしないヴォーカル、マイナーキーの哀愁を感じるメロディやオルガンのフレーズ、さえない見た目(七三多めですね)、、、など様々な要素がありますがその極北とも言える作品といえば、The Rising Stormの『Calm Before…』。マサチューセッツの進学校に通うおぼっちゃま達が卒業記念に500枚製作した唯一のLPは繊細さとノスタルジー、自分達を橋の上から見下ろすアートワークさながらのアンリアルな感覚が同居した奇跡的な1枚。

そして今回リリースされる『Louis Wayne Moody High』はそんな黄昏ていて悲観的で物憂いなガレージ・ソングを14曲収録したコンピレーション・アルバム。ほとんどのアーティストがシングルのみを残した超マイナー・バンド。『Shutdown 66』『Teenage Shutdown vol.3』など過去にもトワイライト・ガレージの聖典ともいうべき作品はありましたが今作も同様に語られるべき素晴らしい内容。

トワイライトガレージの聖典 ” Shutdown 66 ” 卒業アルバム風ジャケット

The Rising Stormの再発も手掛けたArf! Arf!からリリースのコンピ「NO NO NO」にも収録の未練たらたらの失恋ガレージThe Invaders”I Was a Fool”、インディアナのガールズ・グル―プThe ShadesによるShangri-Lasライクな”Tell Me Not To Hurt”、13th Floor Elevatersで知られるTexasの名門レーベルInternational ArtistsからシングルもリリースしているThe Chaynsによるフォーキー・ガレージ”See it Though”、夏の終わり系メロディのソフト・サイケデリアThe Frost”Behind the Closed Doors of Her Mind” 、そして最後に収録されているThe Shy-Guysの”Goodbye to You”は数年前にYou Tubeで発見して以来、個人的Wantだった1枚で最高のバンド名とSummer Sounds級の完璧なルックス、謎のリヴァーヴがかかったスネアとじめっとしたオルガンがトワイライト好きのハートを射止めるナイスな1曲。

すでにストリーミングでの配信が始まりましたがNumeroのアナログ盤は毎回装丁が凝りまくり。今作もレーベルインフォでは卒業アルバムを模した革製の造りになっているみたいですし
おそらく詳細なブックレットもつくはず。当時メンバー写真や貴重なバイオグラフィを読みながらあらゆる妄想を膨らませて聴くことをおすすめします。

  1. $1,000,000 War Babies – Hey Little Boy
  2. The Invaders – I Was a Fool
  3. “D” and the Sugar Cane Factory -Fade Sun, Fade
  4. The Shades – Tell Me Not to Hurt
  5. The Werps – Voodoo Doll
  6. Female Species – Tale of My Lost Love
  7. Chayns – See It Through
  8. Yellow Hair – Somewhere
  9. The Islanders – King of the Surf
  10. The Fastells – So Much
  11. The Frost – Behind the Closed Doors of Her Mind
  12. Bob Kirk – Summer Winds
  13. The Weejuns Ready C’Mon Now
  14. The Shy Guys – Goodbye to You
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Omae – Wagamama / Ryu Tsuruoka

Omae – Wagamama / Ryu Tsuruoka [ PEOPLES POTENTIAL UNLIMITED ]
2020.02

横浜生まれのメロウな手口のシンセ歌手(トークボクサー)、ムードにこだわる音楽家。
PPUからのリリースとなったシングルは危険な甘さのトークボックス・バラード、ダブルサイダー。

一億総メロウ化が進んだこの国には珍しい場末のクラブが似合う本気のメロウで悪そうな奴から音楽ナードまで老若男女がきっと恋に落ちる。アーバンとかメロウとかそういう言葉はここまで艶っぽい音楽にだけ使われるべきと夢想する、遊びたりない夜のサウンドトラックに最適な2曲。

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Military Genius / Deep Web

Military Genius / Deep Web [ TIN ANGEL ]
2020.03

カナダのカルト・ポストパンク・バンドCrack Cloudのメンバー、Bryce CloghesyによるソロプロジェクトMilitary Genius。80年代ニューヨーク・アンダーグラウンドへの憧憬をKing Klure以降のジャズ&アンビエント感覚でコラージュしたサイケデリックな魅力に溢れた1枚。

Arthur Russell『World of Echo』やLalaajiを想起させる
ヴィブラフォン入りの甘美なアンビエント・トラック「Reflex」、インダストリアルなビートと深いリヴァーブのサックスによるリンチ的世界「The Runner」、先行曲としてリリースされた「L.M.G.D」はLounge RizardsやGrayあたりを連想させるコールドファンクでかなり格好いい。本作のハイライトとなる「When I Close My Eyes」はPeter Zummoが参加したSuicideの未発表曲といわれても疑わない漆黒のダーク・ロカビリーで裸のラリーズを引用したDirty Beachesの傑作『Badlands』に匹敵する闇の深さと空虚さがある。

ある時期『ツイン・ピークス』の観すぎで自分が暮らしている町の出来事すべてに何か不穏な匂いを感じていた、このレコードから流れるサイケデリックな陶酔感もそれに似たとても危険な香りがする。いずれにせよ平日の昼間、散歩道のBGMには全く不向きな音楽だ。

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Flanafi / Flanafi

Flanafi / Flanafi [ Boild Records ]
2020.01

J Dilla以降のビートに対する、ロックからのミュータントな回答。アメリカのAvant PopデュオPulgasのギタリスト、Simon Maltinesによるソロプロジェクトの第1作目。ほぼ全ての楽曲が彼の演奏によるもので、スライ譲りの密室ファンクにエクスペリメンタルなギターが絡む、アフターJ Dilla的異端プログレッシヴ・ソウル。

例えるならD’Angeloのステージに、酔っぱらったフランクザッパが乱入して散々だったけどあの感じが忘れられないDirty Projectors好きのインディキッズ。エクスぺリメンタルな要素も勿論魅力だが、絶妙なポップネスといい塩梅のヴィンテージ感覚が同居するサウンドはなかなか中毒性が高い。漫画太郎風のアートワークはきっと賛否が分かれるところ。

J Dilla “Last Donut of the Night” の カバー ( guiter: Simon Maltines )