「狂ってる?そうね世界がね フフッ」
なんとも不敵な笑みで教師が課した俳句40句の創作という夏休みの宿題。主人公の桜子と瑞穂はそんな狂った課題に辟易としながらもある方法でクリアしようとする。それは5文字と7文字のテキトーな言葉が書かれた色違いの付箋をランダムにひくというもの。しかし当然そんな方法ではすぐには上手くいかず、2人は旅に出れば俳句が出来るはず!と思い立ち、家庭の事情から離れて暮らす桜子の母のもとへと家出をはかる。
10時間の道中も2人は俳句を作りつづける。はじめはなんの意味ももたなかった言葉の羅列は母親のもとに近づくにつれ少しずつ意味を持ち始め、3つの付箋から偶然に生まれていた俳句はやがて2つの付箋になり、そして目的地にたどり着く頃にはオリジナルの一句が完成する。真似事から始まった俳句が車窓から見える風景の移り変わりとともに、少しずつ変化していく。その移り変わりはまるでミニマルテクノのようにさりげなく、創作の喜びに気づく彼女達の感情が見事に表現されている。なにかを作ることの面白さや感動、それに出会った瞬間のきらめきが最高純度で描かれているのだ。
象徴的な長い橋や深い森、暗く長いトンネルを抜け、その先に待っている母親。何日いてもいいよという母親に対して、桜子は凛とした横顔ですぐに帰ることを告げる。理不尽なおばあちゃんや話を聞いてくれないおとうさん、そんな厳しい日常にあえて帰ろうとする桜子。世界はいつも狂ってる、きっと狂ってない世界なんてどこにもないのかもしれない。だけど桜子は俳句と出会い、風景はどんな風にも変えることが出来ると知った。ひと夏の少女達の成長譚を通して、表現することの根っこにあるものまで描いてみせた、音楽、映画、漫画、文学…あらゆるアートに人生を救われたことのある全ての人に届いてほしい作品です。