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2022年アガった日本語ラップ15選

テキスト:藤井優

舐達麻 / BLUE IN BEATS

「BUDS  MONTAGE」以来2年ぶり?くらいの待ちに待ちまくったシングルがリリースされましたね。その間彼らにも色々ありましたが、この曲で全部捲った感じありません?トラックもリリックも更に進化した感じがあって堪りません!

DJ TATSUKI / TOKYO KIDS feat.IO & MONYHORSE

2022年のハイライトはこの曲で決まり!
トラックはもちろんのことIOもMONYHORSEもかましててブチ上がりでした。REMIXもあるけど個人的にはこっちの方がアガります。
とあるライブでIOのバースだけ本人が歌ってましたが盛り上がり方エグかったので文句なし!

OMSB / LASTBBOYOMSB

今年はOMSBの新作めちゃくちゃ聴いたなー。
色んなプレッシャーもあっただろうけど、あれ出せちゃうんだから流石ですよ。「大衆」なんて暫くこんな名曲出ないんじゃないかくらいの代物なんですが、個人的にはこの曲も好きでした。どこまでもヘッズなOMSB格好良すぎ!

OZROSAURUS / REWIND feat.ZORN

個人的永遠のヒーローOZROによる耳疑うくらい衝撃だった新曲のリリース!声とかフロウとか、もうね。格好良いですよ。本当に。しかもZORNのレーベルに参加とのことで、これからまた色々活動が見れるのかと思うと楽しみですね。もしアルバムとか出したら…期待してます!

AWICH / どれにしようかな

アルバム「QUEENDOM」も聴きましたね。ひたすらに。武道館も本当に良かったです。2〜3日思い出してニヤニヤしてたくらい余韻がありました。姐さん、アリーナ決まったらすぐ駆けつけます!

KANDYTOWN / CURTAIN CALL

2023年3月でその活動を終了する彼らによるラストアルバム、その名も「LAST ALBUM」の幕開けとなるこの曲。このマイクリレーも後少しかと思うとめちゃくちゃ寂しい気持ちが襲いかかってきます。もちろん3月の武道館、行かせていただきます!

C.O.S.A. / LEAVE ME ALONE feat.JJJ

ワンマンライブも格好良かったC.O.S.A.によるEPからこの曲を。「COOL KIDS」ももちろんだいぶ聴きましたね。こういう歌モノのサンプリングに弱いんで好きでした。ラッパーとして父親としての覚悟みたいのが感じれて沁みます。韓国ドラマのサンプリングもあったりで良いです。

ZORN / IN THE NEIGHBORHOOD

さいたまスーパーアリーナも大成功に終わったZORNによる新作から。ブレずにフッドスターを貫いてるのは相変わらずで「日本一韻踏むパパ」はパンチライン過ぎ!

ZOT ON THE WAVE / CRAYON feat.FUJI TAITO

個人的にM-1並みのイベントになってるラップスタア誕生からFUJI TAITOのこの曲が好きでした。
あの番組も色んなスターを輩出していて本当すごいなと思いますが、今年はどうなりますかねー。楽しみです!

TOKYO GAL / AS YOU ARE

こちらもラップスタア誕生に出演していたTOKYO GALの一曲。彼女の半生だと思うんですが、ミックスやシングルマザーとして生きてきた彼女が書くことで言葉の重みが感じれて良かったです。ラッパーに限らず性別は関係なくなっていると思うので、これからの活躍に期待!

WILYWNKA / KEEP IT RUNNIN’ feat. MFS

2022年に出たWILYWNKAの新作から。
参加してるMFSに絶賛どハマり中で、彼女のソロ曲も良いんですが、この曲の彼女のバースのフローが堪らない!「楽観的なMUSIC RIDER」ってなんだよ!格好良すぎ!

SOCKS / OSANPO

犬好き角刈り個性派ラッパーのEPから。
ギャグラップっぽいけどスキルフルだし、歯切れのいいラップが耳心地良いです。
動物愛、犬愛が溢れ出てる愛犬家必聴の良曲です!

¥ELLOW BUCKS / DELLA WAYA feat.CITY-ACE & SOCKS

¥ELLOW BUCKSによるアルバムから。
ギャングスタ・ラップっぽいトラックに三者三様の乗り方でカマしてる良曲。ワンマンライブ行きたかったなー。

JIN DOGG / 雨の日の道玄坂

どんなトラックでも様になっちゃうなって思ったJIN DOGGによるシングル。
ホーンなトラックが良いし、声格好良いですよね。映画の出演も決まったみたいなので、そちらも要注目です。

ELLE TERESA / BBY GIRLLL

もし僕がギャルだったらアンセムになっているであろう1曲。HOOKが良い!
「パジャマは脱いでドレスに着替えたいわ」ってパンチラインにヤラれてました!

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FYOC Favorites 2022

今年もFYOCに関わってくれたみんなのフェイバリットを集めました。今回はひとまず音楽編。まぁ本当にいろいろありますけど相変わらずイケてる新譜やまだ聴いたことない復刻ものなんかを探してる時間やそれを聴いてる時間はなにより有意義です。死ぬまでどのくらいの音楽に出会えるか分かりませんが一枚でも多くの素敵なレコードに出会えますように。最近はほんと素直にそう思います。

アメリカ、イギリス、スペイン、ベルギー、ドイツ、オーストラリア、日本…世界中の音楽家達のニューリリースから知られざるマイナーガレージ復刻盤、偉大なプロデューサーの宅録発掘音源に海賊ラジオのミックステープなどなど2022年FYOCのお気に入りです。それでは年末年始の暇時間にでもぜひ。

“やりきれないことばっかりだから、レコード、レコード、レコード、レコード、レコード、レコード、レコード、レコード、レコード、レコード、レコード、レコード、レコードを聴いている、今日も” ECD「DIRECT DRIVE」

Naomie Klaus / A Story Of A Global Disease

昨年末にフランスのレーベルBamboo ShowsからカセットでリリースされていたベルギーのプロデューサーNaomie Klausによる1stアルバムをスペインのエクスペリメンタル系レーベルAbstrakceがアナログリリース。ダビーなレフトフィールド・ポップにゆるいラップが乗る「Tourism Workers (Arrival)」などはLeslie Winerに通ずるところも。

Lucrecia Dalt / ¡Ay!

コロムビア出身で今はベルリンで活動するエレクトロニック・アーティスト。夢の中を彷徨う幽幻なサウンドテクスチャーとラテンのリズム、Don the Tiger 「Matanzas」の隣に置きたい独創的なモダン・エキゾチカ。南米で撮られた2022年映画『メモリア』における記憶の旅路のサウンドトラック、もしくは架空の街に想いを馳せるスリープウォーカーの頭の中、エレクトロニクスとフォークロアのこれ以上ない完璧な融合。

Act Now / Louis Adonis/Wow Factor

メルボルンのポストパンク・バンドTotal CountrolのJames VinciguerraとF INGERSなどの活動でしられるエレクトロニクス・アーティストTarquin Manekによるコラボシングル。ダビーなリズム・プロダクションにフリー・フォームなクラリネットをフィーチャーした遊び心溢れるミュータント・テクノ・ダブ。ジャングルっぽいリズムに流れ込むSide1もいいがBasic ChannelとJohn LurieがコラボしたみたいなSide2が至高。Yl Hooiをはじめオーストラリアのアンダーグラウンドはとても面白い。

MOBBS / Untitled

NTSのレギュラーも務めるサウスロンドンのDJ/プロデューサー、2017年以来のフルレングス。粗くざらついた質感のサウンドテクスチャーをベースに真っ暗な地下で鳴るインダストリアルなダンスホール、トラップ、ドリルなど14トラック。去年がSpace Africa「Honest Lobor」なら今年の気分は間違いなくこれ。ダンスホール・リディム集「Now Thing 2」のレーベル”Chrome”からのリリース。

IC-RED / GOODFUN

最高にSickな音を届ける詳細不明のラップデュオ、アムステルダムの”South of North”からリリースされたカセット作品。チカラの抜けたダルそうなラップとアブストラクトな電子音にポストパンク的DIYサウンド、Love JoysとThe Slitsが共演したみたいな奇跡の格好良さ。なんのルールにも囚われず鳴らされた音楽からしか聴こえないクールな佇まいに加えてひとつひとつの音選びには並外れたセンスが光る。

Jabu / Boiling  Wells(Demos 2019-22)

ブリストルのアーティスト・コレクティヴ Young Echoの3人組がひっそりとリリースしたデモ音源集。この作品で鳴らされるエコーまみれの甘美なトリップホップはこんな時代にもメランコリックでドリーミーな音楽が有効であることを教えてくれる。シンプルなドラムマシンに反響して溶け合うヴォーカルとシンセサイザー、現実に向き合うためにたまには音楽に逃避するのもいい。

V.A. / Ghost Riders

Rising StormからNora Guthrieまで収録した名作コンピ「Sky Girl」やオーストラリア現行エクスペリメンタル・ダブYl Hooiのアナログリリースなどで知られる”Efficient Space”からまたしても最高コンピレーション。トワイライトなフィーリングを軸に超マイナー・フォーク~ガレージを17曲、アートワークから曲順まで拘られた丁寧な作りに感動。夏の終わりのように儚く美しい、プリミティブな録音物からしか体験し得ないムードを忍ばせた素晴らしい1枚。ラスト3曲の流れはいつ聴いてもぐっときます。

Yosa Peit / Phyton

ドイツのシンガー、プロデューサーが2020年にリリースした1stアルバムをUKのインディーレーベルFireがDLコード付のホワイトカラー・ヴァイナル仕様でリイシュー。ジャンクでロウなブレイクビーツにNeneh Cherryを彷彿とさせる妖麗なボーカルが絡む「Anthy」は必聴。

Rosalia / Motomani

フラメンコ、レゲトン、バチャータ、R&B、ヒップホップ、、、、をアヴァンギャルドに折衷したエキセントリックな超ポップアルバム。サンプルにも使われたBurialをはじめ、Arthur Russellなんかの意外なとこまで古今東西ジャンルレスな影響元をぶち込んだ変態的センス炸裂のプレイリストと併せて聴くと楽しさ倍増。ミニマルなフレーズの反復と魔法のチャント「Chicken Teriyaki」,Frank Ocean風バラード「Hentai」など、こんなイカれた音楽が世界中で聴かれているなんて最高だしアートワークもやばい。

V.A. / Pause for the Cause : London Rave Adverts 1991-1996, Vol.1~2

世界各地に埋もれたオブスキュアな音源を発掘&リリースするロンドンのレーベルDeath Is Not The End。本作は、90年代にロンドンの海賊ラジオで流れていたアンダーグラウンドなレイヴパーティの告知CMをミックスした超マニアックな内容。当時のロンドンクラブミュージックシーンの熱気を追体験できる最高のドキュメント。

V.A. / Pure Wicked Tune: Rare Groove Blues Dances & House Parties, 1985-1992

Death Is Not The Endからもう一作。本作は、80年代中頃から90年代初頭にサウス~イースト・ロンドンの小規模なダンスパーティーでプレイされていたDIYなカセット音源をコンパイルしたミックステープ。ソウルやファンクなどのレアグルーヴをサンプリングし、サイレンやトーストを加えレゲエマナーに仕上げた独自のサウンドは、新たなジャンルの誕生を予感させるものだったが、90年代初頭のクラブ・ミュージックの台頭の中で埋もれてしまったそう。UKのサウンドシステムカルチャーの隠れた一面を窺い知れる貴重な音源集。

Dawuna / EP1

ブルックリンのシンガーDawuna、2021年「Glass Lit Dream」も良かったけどこの最新EPも相当やばい。鼓膜の内側にグッとくるくぐもった音質のインナー・ソウル・バラードを3トラック、前作からあったビートの実験性を残しながらもNearly Godの内省とD’Angeloの官能を同時に感じさせるようなメロディとボーカル、無二の存在感。

Slauson Malone / for Star(Crater Speak)

我らがSlauson Maloneの2022年ニューEP。各楽器が去勢されたように静かなアンサンブルを奏でるSmile #8 (Je3’s Eextendedd Megadance Version for Star)(see page 182) 、Loren Connorsまで想起させるダークなアンビエント・ノイズSsmmiillee ##55の2曲を収録。マッドな質感を残しながらもタイトル通りのスピリチュアルな展開に次作への期待も高まるばかり。

Beyonce / Rennaissance

先行シングル「BREAK MY SOUL」が出た時から興奮しっぱなしだったけどアルバム冒頭Kelman Duran参加&Tommy Wrght Ⅲサンプルの「IM THAT GIRL」でブチ上がり、「ARIEN SUPERSTAR」まで息継ぎ出来ませんでした、かっこよすぎ。Kendrick LamarのDuval Timothy参加の新作でも思ったけどアンダーグラウンドと結びつきながらも圧倒的な作家性と表現のスケール感を崩さないバランス感覚はさすがとしか。

quinn / quinn

Standing On The Corner、Slauson Maloneをフィバリットに挙げる17歳のラッパー/プロデューサー。絶妙な音の汚し方に脱臼したようなギター、変調したボイスサンプルのコラージュなどSOTCライクな要素は至るところに。しかし本作のハイライトは「been a minute」や「some shit like this」で聴けるロウなボーカルと内省的な胸をうつメロディにこそきっとある。

Babyfather , Tirzah / 1471

Dean Bluntの別名義Babyfather、Tirzahと DJ Escrowをフィーチャーしたニューソング。突然止まったり、つんのめったりするバグを起こしたワンループにTirzahのドリーミーなヴォーカルか乗るわずか104秒の素晴らしいUKソウル。Dean Blunt名義でリリースされたアコースティックな新曲「death drive freestyle」も要チェック、こっちは歌声が滲みる。

Quelle Chris / Deathfame

デトロイトのヒップホップ・プロデューサー/ラッパーによる7作目。「Feed The Heads」、「Cui Prodest」あたりの埃っぽいローファイなビートとダビーなサウンド・プロダクション、「King in Black」のスクリューされたトリップホップ、Sun Raのヴォーカル曲のようなピアノ小曲「How Could They Love Something Like Me?」など、いわゆるオルタナティブと形容されるヒップホップ作品にはやや食傷気味だった自分にも相当刺さった。Pink Siffu、Navy Blue参加。

Warm Currency /  Returns

シンプルであることはとても重要、例えばギターひとつとっても和音を鳴らすのか短音で弾くのかそれだけでも大きく違う。シドニーのデュオWarm Currencyのデビューアルバムで展開される極限まで削ぎ落とされた静謐なフォーク・ミュージックは生活音や自然音を効果的にコラージュしリスナーにあらゆる情景を浮かばせる。この研ぎ澄まされた静けさはKali Malone、もしくはMaxine Funkeやalastair galbraithのファンにも届くだろう。

Big Thief / Dragon New Warm Mountain I Believe in You

フォーク・ミュージックの歴史を無意識的に受け継いでいるかのような軽やかさとリアルな生活と地続きのサウンド。人間同士の繋がりがまだバンド・ミュージックにおいて魔法を起こし得るのだと教えてくれる真ん中に集まったミニマムなバンド・アンサンブル、それとは一転90年代初頭のニール・ヤングのようにハードなギターとレヴォン・ヘルムさながらのタイム感を持ったドラミングが印象的な来日公演も素晴らしかった。

Sam Esh / Jack Of Diamonds/Faro Goddamn

アメリカのアウトサイダー・ギタリストSam Eshの音源集、オリジナルは90年代にリリース2本のカセットテープ。とにかく乾ききったサウンドとあまりにプリミティブな演奏が衝撃的なストリート・ブルース。荒々しくかき鳴らされるワンコードの反復と独自の言語(?)のハウリングによる異形のミニマル・ミュージック。

Born Under A Rhyming Planet / Diagonals 

Plus 8 から90年代前半にシングルを数枚リリースしている Jamie Hodge による未発音源集。恥ずかながらはじめて存在を知りましたがもう最高の音しかつまっていないピュアでソウルフルな電子音楽、スウィングするドラムマシンによるジャズテクノ「Menthol」「Fate」「Hot Nachos with Cheese~」、微睡みのダウンテンポ「Siemansdamm」、繊細なリヴァーヴ処理とシンセが煌めくコズミックな「Handley」、エクスペリメンタルなビートとアンビエントな雰囲気を纏った「Intermission」など全曲最高。

Valentina Magaletti / A Queer Anthology of Drums

Al WottonとのHoly Tongueの新作も素晴らしかった打楽器奏者、デジタルオンリーだった2020年作がアナログリリース。ヴィブラフォンやトイピアノ、フィールド音を絡めながら打楽器のインプロヴィゼーションを展開する密林的エクスペリメンタル・パーカッション作品。呪術的な反復はときにMoondogやCanまで想起させる、いま一番刺激的なサウンドを届けてくれるパーカッショニスト。

CHIYORI × YAMAAN / Mystic High

メンフィス・ラップとアンビエント、ありそうで意外となかった最高の組み合わせ。音の快楽性に加えてポップな歌メロもあって年始はこれと宇多田ヒカル「BADモード」、Cities Aviv「MAN PLAYS THE HORN」ばかりリピート。とりわけ本作のアンビエント的メロウネスとメンフィス・ラップ由来のチープな質感による気持ちよさは中毒的。

V.A. / SUBLIMINAL  BIG  ECHO

今年1番のサイケデリックな音盤!ジャパニーズ・アンダーグラウンド音楽家11組がDUBをテーマに持ち寄った脳みそトロける12トラック。Hair Stylisticsの超ドープなスロー・ダブからTOXOBAMへの流れがいつ聴いても最高。TOXOBAM「HOT GOTH」のリリースで知られる”SLIDE MOTION”から。

Hallelujahs / Eat Meat, Swear an Oath

ラリーズのオフィシャル・リリースは事件だったが日本のサイケデリック・ロックにおいてはこれも忘れちゃいけないはず、ハレルヤズ86年作実に25年ぶりのリイシュー。Galaxie 500をはじめとするスローなサイケデリック・ギターロックに先んじて鳴らされたいま聴いても新鮮な楽曲達。フィジカルでは手に入れづらい状態が続いていただけに嬉しい再発です。リリース元は日本のアンダーグラウンド音楽を多数リリースするアメリカのBlack  Editionsで来年はWhite Heaven 「Strange Bedfellow」のリイシューも予定されている。

Charles Stepney / Step on Step

シガゴの伝説的プロデューサー、アレンジャー、作曲家Charles Stepneyによる70年代宅録音源集。チープなヴィンテージ・リズムボックスとアナログシンセをメインにホーム・レコーディングならではの親密さを感じさせる23トラック。Angel Bat DawidやJeff Parkerなどをリリースするシガゴの名レーベルInternational Anthemのナイスワーク。

HiTech / Hitech

デトロイトの天才Omar Sの”FXHE”からリリースのゲットー・テクノ・デュオ。ハウス、トラップ、フットワークなど多彩なビートを操り夜の街をクルーズする洒脱なシティ・ミュージック。メロウなシンセもフィメール・ヴォーカルも絶妙にちゃらくならなくてそこが良い。これがきっと都会の音楽。

OMSB / Alone

think god以来、7年ぶりのフルレングス。2020年以降多くの人が考えただろう当たり前の大切さとかありふれた幸せ、不味いたこ焼きを食ったり暇持て余して公園行ったりする「One Room」の日常はそんな当たり前を特に美化するわけなく淡々と少しだけユーモラスに切り取っている。人それぞれの日常にそれぞれの孤独が転がっている、そんな当然のことを教えてくれる。

Whatever The Weather / Whatever The Weather

朝のしんとした空気には静謐なアンビエント”25℃”、ドリルンベースの“17℃”は帰りの電車で、寒くなってからはメランコリックなシンセ・トラック“10℃”が肌にあう。Loraine Jamesアンビエント名義のデビュー作はアーティスト名通り、温度や湿度を感じさせるようなエレクトロニック・ミュージックであらゆるシチュエーションで良く聴いた。渋谷CIRCUS公演も最高だった。

V.A. / To Illustrate

レゲトンにインスパイアされたクラブ・ミュージックやダウンテンポ、UKベースの変種などbpm100前後で展開される低いテンポの先鋭的エレクトロニック・ミュージックをwisdom teethがコンパイル。大阪のabentisによるアンビエントなフィールを持ったダンスホール「Bicycle」、同じモードのFactaとYushhの「Fairy Liquor」、韓国のsalamandaのメロウなダブ・ステップ「κρήνη της νύμφης」あたりが個人的には白眉。

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The Oz Tapes / 裸のラリーズ 発売記念リスニング・パーティー @渋谷WWW X

会場内BGMはMJQ。気のせいかさりげなくDUB Mixが施されてるような。お香も焚かれていい雰囲気。ステージ向かって正面の壁一面はスクリーンが張ってあって、両端には水谷孝本人のものと思われるギターとアンプが設置されている。ステージ向かって右にビグスビー付きの黒いFenderテレキャスターとギターアンプGuyatone 2200。向かって左はやはりビグスビー付きの赤いGibson SGとこちらもキャビのみ右と同じGuyatoneで、ヘッドがMarshallというセット。

MJQにフェードインする形でオープニングアクトYoshitake EXPEの演奏がスタート。エレキギターによるインストで、明快なテーマが数珠繋ぎに切れ目なく展開していく素晴らしい演奏。
どこまでも伸び続けるようなサスティーン音に我知らずうちに浸りきっていると、突然照明が激しく点滅し同時に大音量のフィードバックギターが鳴り響いた。それまでの顕微鏡を覗き込んでいたようなピースフルな雰囲気が一転、ドレによるダンテ神曲のあの世界に。軽く恐怖を感じた。地響きのような大音量ではあるけども超重低音のそれではなく、中低音に焦点の合ったボコっとした音像で、下腹部~胸のすぐ下あたりを中心に全身へ振動が響き渡って気持ちがいい。身体が揺れて思わず踊り出したくなる。
The Velvet UndergroundのQuine Tapesのような親近感と、この時点ではまだ原石の輝きというか、ならではの愛らしさと激しさの眩惑感で満ちていて、The Original Modern Loversのような瑞々しさ。凶暴でありながら素朴で懐かしい音を奏でるバンドのこの圧倒的な個性は、やはりリーダー水谷孝の資質によるものなのだろうか。曲がレコードA面最後の“白い目覚め”になると、正面スクリーンに水谷孝とバンドの写真の数々が投影されて、胸がいっぱいに。写真は過去何度となく目にしてきたものだが、とにかくかっこいい。常に気品というか可憐さみたいなものがあって、これまでも目にするたびに思ってきたことだが、やっぱりいつ見てもかっこいい。

裸のラリーズといえばノイズギター。とまずはなるけれど、同じくノイズギターと形容されるようなUSオルタナ、或いはUKシューゲイザー、そのどちらとも違うものだと個人的には思う。
特にThe Oz Tapesでは、後の’77 Liveともまた違う剥き出しのバンドの姿が収められていて、The Velvet Underground、Jimi Hendrix、60年代後期サンフランシスコのサウンドetc…、それらが渾然一体となってこちらに向かって転がってくるようなグルーヴ感がかっこいい。サイケデリアという視点から考えてみると、アシッドなロックからMJQまでを横断する開かれたセンスは、今こそ広く聴かれるべきものがあると思う。Trad Gras Och StenarとShin Jung-hyeonと並べておきたくなるこのレコードの再発レーベルの大元がLight in the Attic Recordsというのに納得だ。

本公演はリキッドライトが全編に渡ってステージ上スクリーンに映し出される演出がなされていて、これがとても素晴らしかった。繰り返すリズムと響き渡るエコーに映像空間がリンクして意識がフラクタル状に溶けていくような、そんな音楽の醍醐味がたっぷり味わえた。さらに久保田麻琴によるライブMix、会場の音が本当に素晴らしく、まるで生きているかのようなバンドサウンドで、レコードを聴いて改めてあの場の凄さを実感した。

ラスト曲でステージ左右に設置されていたギターアンプがオン。
バンド演奏のフィードバック音がもつれ重なり混じりあって回転し続ける音像がとてもかっこよかった。

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Slauson Malone / for Star (Crater Speak)

あぁこれは最高の音だ。再生すると聴こえてくるサーフェイスノイズ、そして奥からは丸みを帯びたベースにアナログな質感のシンセサイザーとボイスサンプル。それらの完璧な鳴り、汚れ具合と配置、ただそれだけで何にもかえ難い魅力がある。Slauson Malone 久しぶりのEPに収録の 「smile #8 」にはまずそのサウンドの生々しさやられてしまった。前作ではアコースティックギターを多用していたが今回はベース、ということなのだろうか?とにもかくにも主旋律を奏でるベースギターのミュートされた絶妙な軋みはもうそれだけで充分気持ちが良い。前作からの変化といえばレコードのクラックルノイズが全編でなっていることも大きい。BurialといいCaretakerといいレコードノイズに魅了される人達の音楽に共通してある幽玄な仄暗さは2曲目のssmmiillee ## 55にたっぷりとつまっている。BurialはもちろんLoren Connorsまで想起させるノイズにまみれた甘美なダークアンビエントは間違いなく彼の新しいスタイルになるだろう。即完売だった12inchの再プレスを熱望!!これはレコードで聴きたいよね。

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Are You Experienced『Rくん』?

君は『Rくん』を聴いたことがある?というか体験したことがある?ないならいますぐ bandcampで買おう。黒バックにゴシック体の怪しいジャケット、匿名的なタイトル。きっと検索には引っかからないだろう。東京で活動するシンガーソングライター、ダニエル・クオン(Daniel Kwon)による変名プロジェクトである本作は2013年リリース当時、超局所的にではあるが多くの賞賛と驚きを生んだ。少なくとも僕の周りの数少ない音楽好きはそうだった。

はじめて聴いたのは立川の珍屋というレコード屋だったと思う。ハーシュノイズのような雨音、街の雑踏や波の音、サイレン、ナレーション、校内放送などが次々とコラージュされていくエクスペリメンタルで一聴して偏執的な拘りを感じるポップアルバムに思わずレコードを掘る手も止まった。録音は当時ダニエル・クオンの職場であった小学校と自宅スタジオで行われたらしい。子供の遊び声や給食放送らしき献立の紹介に合唱などあどけない小学生の声は多くの曲で聴くことが出来るし、グランドピアノやヴィブラフォン、ティンパニなどの音楽室の楽器達が本作にはよく登場する。

僕はこのアルバムに出会ってからというもののしばらくは『Rくん』の世界から抜け出せなくなってしまった、いまでもたまに聴くとやはりなんだか危うい気持ちになる。危うい気持ちというのは、あんまり深入りしちゃいけないのにどうにも抑えがきかない感じというか、つまりとにかく中毒的で気軽に覗いてはいけないものを見てしまった時の様な不思議な魅力がある。とりあえず冒頭の「Rainbow’s End」だけでも聴いてみてほしい、出来れば大きい音でヘッドフォンで。雨音のようなノイズからはじまり、囁かれる”レッツゴー、ワントゥー、レッツゴー、ワントゥー”。ダークで美しい響きを持ったメロディはもちろん、とにかく拘られた録音とミックスからは遊び心を超えた何かやばみを感じさせる。左から流れる不穏なシンセサイザーの持続音を断ち切るように唐突に入るアコギ、右から左へと侵食していく波の音、サイレン、スネアロール…ここまでくればあとはもう音に耳を任せるだけだ。もう一曲選ぶなら「Happy4ever」だろう、ここではまるで映画『インセプション』のように——脈絡のない他人の夢や脳内を漂っているかのような感覚を僅か11分でユーモラスに表現してみせる。

バンドミュージック、ヒップホップ、テクノ、ハウス…ジャンルを問わず、あるひとりのアーティストの内面や作家性が強烈に出た作品——録音、編集、ミックスをダニエル・クオンがほぼ1人で手がけた本作からは他者との交わりではないところから生まれたアート、それにしかない引力がある。ややラフな質感の穏やかなエンドロール「#9」で彼は日本語でこんな風に歌ってアルバムが終わる。

“金縛りはないよ、ほとんどないんです 頭が真っ白”

bandcampではタイトルが『Love Comedy』に変更されジャケットも差し替えられているが、$5払えばすぐに買える。異国の地の音楽室やアパートで作られたねじれたダークファンタジー、ひっそりとでいいから語り継ぎたい名作だ。

ちなみにCDのブックレットには大島渚をはじめとするスペシャルサンクス欄があって、作品を読み解くヒントにもなりとても面白い。

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Cities Aviv / MAN PLAYS THE HORN

2018年『Some Rap Songs』を最大公約数に連なるエクスペリメンタルな作品群にはMIKEやNavy Blueを筆頭にグッとくるタイトルも多かったが、ここ最近はやや食傷気味だった。そんな中聴いたメンフィスのラッパー Cities Avivのニューアルバム『MAN PLAYS THE HORN』は確かに2018年以降のアンダーグラウンド・シーンとの連なりを感じさせながらも一線を画すオリジナリティ溢れるサウンドが刺激的な一枚だ。

グリッチなサンプルとアブストラクトなビートこそ先述のシーンからの流れを感じさせるもののそこにアンビエント〜ダウンテンポ的なまどろみとメンフィスラップ、ヴェイパーウェイヴ風のざらついた質感をコラージュしたストレンジな音像はどこか懐かしくも近未来的で時代や地域性にクエスチョンマークが浮かぶ未知のサウンド。深海のようなサウンドスケープが印象的な12分間にわたるドリーミーなダウンテンポ「SMOKING ON A BRIGHTER DAY」、リヴァーヴまみれのトリップホップといった趣きの「STREET LAND ON ME」「THE FINAL SPARK」あたりの内省とメロウネスも魅力的だし、「THE SUN THE MOON THE SPA」や「BLEUS TRAVELER」はだらしない昼下がりに最適なドープでサイケデリックなソウルサンプルが美しくとにかく心地よい。

気がつけば快楽的な音楽をのうのうと楽しめるような世界じゃなくなってしまったけれど、こういう時こそ逃避的な音楽は必要だ。一日中スマートフォンと見つめあっても埒があかない。直視出来ない世界と向き合うためにも全26曲82分(デラックス版は35曲115分!)、たまにはレッツトリップといきましょう。

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Mystic High / CHIYORI × YAMAAN

これはめちゃくちゃ気持ちいい!!Hip Hop〜ソウルシンガー CHIYORIとプロデューサーYAMAANによるメンフィスラップとアンビエントにインスパイアされた初の共作アルバム。 

アンダーグラウンドなメンフィスラップ特有のローファイ&チープな質感と浮遊感のあるアンビエント的シンセがどこまでもミスティックハイな気分にされてくれる快楽音楽。80年代のマイナーなシンセウェイヴやPPUが発掘する様なブギー&ソウル、90年代にひっそり作られた宅録テクノ(そしてもちろんメンフィスのアングラなカセット)などで聴けるある人にとっては最高に気持ちいい音、そんなサウンドをひたすら追求したような清々しさと音楽愛に溢れた一枚。初期ワープを想起させるインスト”Intro”にはじまり、全サウナーのアンセムになり得る快楽度数MAXのチルトラック”水風呂”、ミスティックなムードを持った秘境系アンビエントR&B”Nature”、Gラップとアンビエントのありそうでなかっな邂逅”すごい”など散歩にも家聴きにも森林浴にもジャストな全10トラック。クールなアートワークにビデオまで最高です。

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『かけ足が波に乗りたるかもしれぬ』菅野カラン

「狂ってる?そうね世界がね フフッ」

なんとも不敵な笑みで教師が課した俳句40句の創作という夏休みの宿題。主人公の桜子と瑞穂はそんな狂った課題に辟易としながらもある方法でクリアしようとする。それは5文字と7文字のテキトーな言葉が書かれた色違いの付箋をランダムにひくというもの。しかし当然そんな方法ではすぐには上手くいかず、2人は旅に出れば俳句が出来るはず!と思い立ち、家庭の事情から離れて暮らす桜子の母のもとへと家出をはかる。

10時間の道中も2人は俳句を作りつづける。はじめはなんの意味ももたなかった言葉の羅列は母親のもとに近づくにつれ少しずつ意味を持ち始め、3つの付箋から偶然に生まれていた俳句はやがて2つの付箋になり、そして目的地にたどり着く頃にはオリジナルの一句が完成する。真似事から始まった俳句が車窓から見える風景の移り変わりとともに、少しずつ変化していく。その移り変わりはまるでミニマルテクノのようにさりげなく、創作の喜びに気づく彼女達の感情が見事に表現されている。なにかを作ることの面白さや感動、それに出会った瞬間のきらめきが最高純度で描かれているのだ。

象徴的な長い橋や深い森、暗く長いトンネルを抜け、その先に待っている母親。何日いてもいいよという母親に対して、桜子は凛とした横顔ですぐに帰ることを告げる。理不尽なおばあちゃんや話を聞いてくれないおとうさん、そんな厳しい日常にあえて帰ろうとする桜子。世界はいつも狂ってる、きっと狂ってない世界なんてどこにもないのかもしれない。だけど桜子は俳句と出会い、風景はどんな風にも変えることが出来ると知った。ひと夏の少女達の成長譚を通して、表現することの根っこにあるものまで描いてみせた、音楽、映画、漫画、文学…あらゆるアートに人生を救われたことのある全ての人に届いてほしい作品です。

第80回ちばてつや賞佳作受賞作
「かけ足が波に乗りたるかもしれぬ」 コミックDAYS

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FYOC Favorite List 2021

今年はいろいろな形でFYOCに関わってくれた皆様に2021年のお気に入りの作品を選んでもらいました。ニューリリースも再発もあり、アンダーグラウンドなビート・ミュージックから映画、ドラマ、漫画までFYOCらしい独自のリストになったと思います。シーンや時代の流れとは何ら関係なく極私的に選ばれたこのリストであってもなんだか2021年を感じさせてくれるから不思議です。今年はいろんな事情もあり清々しいほどマイペースな更新になってしまいましたが、2022年に向けて色々とワクワクするような企画も準備中、とりあえずはこちらのリストでもって2021年を振り返ってみました。
このページで紹介されている作品にさらに数十曲プラスした(Spotifyにあるものだけです)プレイリストも最下部に貼ってます。正月休みの暇時間のお供にどうぞよろしくお願いします!

Dean Blunt / BLACK METAL 2

元Hype Williamsの片割れによるニューアルバムは全編に腑抜けたギターをフィーチャーしたソフトサイケデリック、もしくは異形のアシッドフォークアルバム。あらゆるものから距離を置くような孤独でくたびれた歌がなにより素晴らしい、前向きさとはかけ離れたある人にとってはとてもひたむきな音楽。

Spotify

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V.A. / SPLINT

ブリストルのネットラジオ局兼インディレーベル“Noods Radio”によるコンピシリーズ第二弾。乱打されるトライバルなパーカッションにスペイン語のフィメールボーカルが乗るミュータントなラガマフィン「Azione Reazione」など、乱暴なダンスホールナンバーに痺れる一本。カセットのパッケージもイケてます。

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Eva Noxious / Anti Todo

チカーノ・フィメール・ラッパーEva Noxiousの音源をオランダのエレクトロレーベル“Bunker”がコンパイル。爆音で聴きたい粗悪なビートと意外(?)にもドリーミーでフローティンな上モノが最高に癖になるG-Funk〜Phonk。あっという間に聴き終わる、全13曲23分。

Space Africa / Honest Labour

NTSのレジデントも務めるマンチェスターのデュオ最新作。最初はダブっぽかった前作の方が好みだったけど、ディープなエレクトロニクス〜ダウンビートを聴かせる今作も聴けば聴くほど良い。アンビエントトラックであってもUKガラージ由来のざらついたストリート感があって何よりそこにグッとくる。

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DRTYWHTVNS / Aloof

“Orange Milk”からリリースされたUSのラッパー兼トラックメイカーのデビュー作。トラップ、エレクトロ、ディスコ、ハウスをミックスしたカラフルでキャッチーなサウンドながら、”資本主義の世の中でインディペンデントな音楽活動を続ける事に対する苦悩”が歌われているというギャップに2021年らしさを感じる。

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KM / EVERYTHING INSIDE

今、飛ぶ鳥を落とす勢いのプロデューサーによるアルバム。このアルバムはリリースされてから今までコンスタントに聴いていた印象なので、個人的に今年1番聴いたんじゃないかなって思います。アルバム通して心地良いんですよね。朝昼晩いつでも聴ける感じ。中でも1、3、4曲目あたりが好きでよく聴いてました。ワンマンライブにも参戦して、人生初の最前列でかなりヘッドバンギンさしてもらいました。これからの活躍にも期待大!

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『逃げた女』ホン・サンス監督

これまでの集大成と思えるような完成度でありつつ、新しいフェーズに入ったかのような清々しさ。ホン・サンスと言えばのズームインはあれど、物語時間軸の入れ替えや繰り返しなど無くとてもシンプル。ひとりのごく個人的な映画のようでいて、この開かれた風通しの良さは一体なんだろうと思う。寂しげな影をひきつつ明るいムードを纏う主演キム・ミニの佇まいが素晴らしい。

Patrick Shiroishi / Hidemi

ロサンゼルスの日系アメリカ人サックス奏者によるエスペリメンタル・ジャズ・アルバム。情感溢れるセンチメンタルなフレーズがミニマル・ミュージック的反復のうえで現れては消える多重録音サックスソロ作。実験的ながらもミニマルなフレーズのループは体を揺らし、ときにエモーショナルなフレーズに心まで揺さぶられます。

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Yl Hooi / Untitled

オーストラリアはメルボルンの地下で活動するアーティスト。詳細はいまいち不明。オリジナルリリースはメルボルンの良質レーベル“ALTERED STATE TAPES”のカセット音源。80年代ダブの質感をアンビエント〜バレアリック以降の感覚でD.I.Yに表現したエクスペリメンタル・ポップ。マッドなビートが気持ち良すぎる「Prince S Version」、Love Joysのメルトダウン・カバー「Stranger」などが白眉。

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『ブラック・ウィドウ』ケイト・ショートランド監督

本格アクションを織り交ぜ綴られる登場人物それぞれの距離感、そこから提示される家族像にしみじみ。シリーズものとしての制約やジャンルの枠が、創作物語を成立させていたり、テーマや表現の工夫を生んでいるのではないか。往年の70年代アメリカ映画みたいなコンパクトかつ熱い感動と重ね合わせて観てしまうのは、そうしたところからかもしれないと思う。

BLAWAN / Woke Up Right Handed EP

UKのテクノプロデューサーBLAWANがバチバチに攻め攻めなフロアボムを投下。UKベース、ブリープテクノ、インダストリアル、ポストダブステップなどなどをハードにミックス。「Under Belly」の突っ込みすぎて割れちゃった感じのシンセとか最高。

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99 Neighbors / Wherever You’re Going I Hope It’s Great

昨年リリースしたシングル「GUTS」がとにかく格好良くて気になっていた、アーティスト集団によるアルバム。ラッパー、シンガー、プロデューサーが在籍しているので、曲ごとに魅せる顔が違って、メロウだったり、妖しかったりで1枚通して楽しめるから好きでした。BROCKHAMPTONと比較されがちみたいですが、個人的には格好良ければ何でも良いので、これからも動向を追っていきます!

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『フリーガイ』ショーン・レヴィ監督

現代的な題材や当然のCG映像表現ながら、古典的なアメリカコメディ映画のような愛らしさを感じた。特にライアン・レイノルズ演じるガイとその友人である銀行警備員との間には、とても感動的なバイブレーションがあって、ラストふたりの邂逅においてルネ・クレール監督『自由を我等に』を連想し思わず涙。チャップリンやキートン映画のようにイキイキ楽しい作品。

Leslie Winer / When I Hit You – You’ll Feel It

早すぎたトリップホップ、Leslie Winerの未発曲含むアンソロジー盤。90年代初頭の香りがムンムンする無骨なビートとダンスホール由来のマッシヴなベースラインが耳と腰にグッとくる今まさに最高な音、初出曲「Roundup Ready」だけでもマスト。アートワークだけが少し残念!

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V.A. / Late Night Tales Presents Version Excursion Selected by Don Letts

1978年のジョン・ライドン初ジャマイカ渡航にジャーナリストで近年自身の音源が再発されたビビアン・ゴールドマン(著作『女パンクの逆襲 フェミニスト音楽史』12/23発売)と同行し、フィルムメーカーでTHE SLITSのマネージャーでBig Audio Dynamiteのメンバーでもあるドン・レッツ。その彼の選曲によるJoy Division曲のレゲエDUBカバー含む全曲素晴らしいコンピレーション。

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『ジャングル・クルーズ』ジャウム・コレット=セラ監督

全体の出来というか、設定、脚本等の完成度その他諸々に思う事は色々とありそうなのは確かだとしても、テンポといい美術といい個人的にかなり好み。漫画『タンタン』や小説『エルマーの冒険』を読んだ時のような気持ちになってワクワク楽しんだ。追いつ追われつが螺旋状に広がる物語構造と世界を彩る明暗のコントラスト具合にニール・ゲイマンの小説も連想した。

Brainstory / Ripe EP

今年の夏はほとんど出かけてないから大体これでトリップ、“Big Crown”オール髭面バンドの最新EP。メロウな歌ものも相変わらず素晴らしいがソファーか沈み込んでいくようなドープで陶酔的なインスト曲が堪らなく気持ち良い。サイケデリックで清々しいほどにだらしない最高の一枚。

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『ハイ・フィデリティ』

2020年のHulu作品が今年Disney+で配信されて視聴。原作小説と映画版とは違うトーンで再構成されていて、テーマの切り口などは同じNYが舞台のNetflix『マスター・オブ・ゼロ』と少し似てる。この作品ならではの劇中音楽やレコードの扱いは変わらずとても魅力的で、フランク・オーシャンはかかるし、当然のようにNumeroの再発に親しんでいるような選曲。音楽監修クエストラブ。

Awich / 口に出して

まずは姐さん、祝・武道館!今や日本のHIPHOP界で文字通り最先端にいらっしゃるAwich姐さんのシングル曲にだいぶ食らいました。いやー、格好良い!!ダブルミーニング的な内容のリリックがもう堪りません!今年は2回ライブに行かせて頂いて文句なしに最高だったし、武道館ももちろん参戦予定です。どっぷりハマってます。はい。これからも付いて行きます!

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Wool & The Pants / 二階の男

MAD LOVE Recordsと初台のギャラリーLAID BUGの共同リリース「TWIG EP」収録曲。路上から密林に迷い込んだMoondog的エキゾ・ヴォーカル・ダブ??スローかつ重心低めにクルーズするビートとロウでスモーキーなヴォーカルに高まり、アウトロのサックスで昇天する傑作曲。クールなアートワークの限定10inchは探せばまだ買えるはず。

『わたしの“初めて”日記 Never Have I Ever』

Netflixドラマ。今年シーズン2が配信されて視聴。いわゆるアメリカ学園ドラマで、突然父親を亡くしてしまった10代の主人公を中心に笑いあり涙ありの日々がテンポよく描かれる。製作総指揮がミンディ・カリング(映画『ナイト・ビフォア』でセス・ローゲンにドラッグ詰めをプレゼントしたその妻役の俳優)と知るとより納得感が高まる内容。22年シーズン3配信予定。

Tiziano Popoli / Burn The Night – Bruciare La Notte : Original Recordings 1983 – 1989

イタリアのミニマル・コンポーザー80年代の録音をまとめたコンパイル盤、リリースはRvng Intl.とFreedom To Spendのダブルネーム。ミニマルなシンセ×Roland TR909ドラムマシンによるアヴァンニューウェーブポップ、アンニュイな脱力ヴォーカル入りのIunu-Wenimoなど2021年的にジャストなサウンドも多数。

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LAYA / Bitter

2021年、個人的発掘アーティストはこれ。
ジャケットは派手なのに、曲は全然派手じゃない!音数少なめの今っぽいR&Bなんですが、HOOKが良いのと、ビジュアル含めてドンピシャだったので彼女が1番の収穫でした。昨年には「SAILOR MOON」なる曲をリリースしていたようで、ジャケットとMVがまんま過ぎて、ネタ系かな?なんて聴いてみたら意外に良くて度肝ブチ抜かれました。ひょっとしたら、ひょっとするかもなスター性を秘めてる気が…。要チェケラ!

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Snoh Aalegla / TEMPORARY HIGHS IN THE VIOLET SKIES

デビュー時からずっと好きでアルバムがリリースされる度に前のめりで聴いてるSNOH AALEGRAの最新作。リードシングルの「LOST YOU」からして格好良さがハミ出てましたが、やっぱり良かったですね。声が最高というかもうツボなんです。以前ビルボードでのライブが中止になってしまったので、いつかは生で拝みたい。

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『つつがない生活』INA

現実に寄り添いながら、現実を飛び越えるような表現。そのバランス感覚が最高。これだけ生活の匂いを感じるマンガがあるだろうか。ストレスは日常でぼとぼとと地面に落とされていく。取り除いていくことは不可能だけど、実はそれを路傍で拾い上げる事がふと救いになることもある。ラストできらめくイヤリングが象徴するようにどこかで続いていく生活がひたすら愛おしい。

http://to-ti.in/product/tsutsukatsu

澁谷浩次 / Lots Of Birds

バンドyumboのリーダー、澁谷浩次初のソロアルバム。ロバート・ワイアット『ロック・ボトム』やルーリード『コニー・アイランド・ベイビー』の隣に並べたいような、1人でこっそりと聴きたくなる親密で静かでユーモラスな11の小さな物語を収録。志賀理江子の写真を使用したアートワークも素晴らしい。

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V.A. / Wounds of Love: Khmer Oldies, Vol.1

サウンドシステム導入以前のジャマイカ音楽に焦点をあてたシリーズ『If i had a pair of wings jamaican doowop』が刺さりまくったロンドンの発掘専科Death is not the endのニューリリースは60年代カンボジアン・オールディーズ・コンピレーション。いわゆる辺境ものコンピとは一味違う、気を衒わないセレクトに感銘をうけます。何の変哲もないただの名曲l Love Only Youに涙。

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Ruth Mascelli / A Night At The Baths

ニューオリンズの No Waveパンク、Special Interestのメンバーによるインダストリアル・テクノなソロ1作目。フロア仕様のハードテクノもイカすけどトリッピーなシンセのアンビエントトラックがええ感じで良く聴いた。クールなアートワークはやっぱりStudio Tape Echo。

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Eve Adams / Metal Bird

カナダのポストパンクCrack Cloud界隈から現れたシンガーによるフォーキー・バラッド集。リンチ作品あるいはダグラス・サーク作品に漂う50年代アメリカの妖気に満ちたダークでメランコリックな一枚。Military Geniusによるサイケデリックな味付けのプロデュースも絶妙。

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『僕らのままで We Are Who We Are』

イタリア内のアメリカ、キオッジャ米軍基地で暮らすティーンとそれを取り囲む大人達との青春群像劇。眩い陽光の下を彷徨う主人公フレイザーを追い続ける陶酔的な第一話から一気に駆け抜ける全8話。大人も子供も正しさなんて分からないまま、揺らぎ続ける感情とその一瞬を焼き付けたルカ・グアダニーノの鮮烈作。最高!

『Covid 33』山本美希

いま未来の話を書くこと。たとえその未来が明るい未来でなくとも、そこにあるかもしれないかすかな希望をキャプチャーしようとすること。いまだ感染症が蔓延する2037年を舞台に創作と祈りについての短編20ページ。ランバーロール04に掲載。

http://to-ti.in/product/covid-33

『すばらしき世界』西川美和監督

人生の大半を刑務所で過ごした元ヤクザの男が、還暦を前に出所し、社会復帰のために悪戦苦闘する物語。
生活保護の実態と自己責任論、格差社会とキャンセルカルチャー、息苦しく閉塞的な現代の日本を「すばらしき世界」というタイトルでユーモラスかつ切実に描いた2021年最も心に響いた作品。

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REVIEWS

澁谷浩次『Lots of Birds』

“時間が限られていたことに
今になって気づいたんだ”

『限られた時間内に』

レコードの針を落とすと穏やかなピアノとヴァイヴ、そのあとに続く軽快なリズムに乗せてそんな風に歌われる。

ボソボソとしたどこかぶっきらぼうにも感じる歌声は喜怒哀楽そのどれとも似つかず、だけれども同時に全てを内包しているような不思議な魅力をはらんでいる。平熱のようでいとどこまでもエモーショナル、たとえばルー・リードやピーター・ペレット、そしてロバート・ワイアット、そんな偉大すぎるヴォーカリストまで思いだしてしまうほどだ。僕は2曲目のIt will be winter soonの歌い出しとスライドギターの始まりを聞いて鳥肌が止まらなかった、というか少し涙目になった。もうすぐ冬が来ることしか話すことがない2人、人と話さずにすむ仕事を見つけてラッキーだという主人公の静かな歌、それがなんでこんなに心に響くんだろう。

仙台を拠点に活動するバンドyumboのリーダー澁谷浩次のソロアルバム『Lots of Birds』のなかで主人公は限られた時間の中、いままで出会ってきた人達を思い出すように、失われていく記憶を日記に書き留めるように歌にしていく。いつ人生が終わるかなんて本当に分からない、最近は特によく考える。そんなことを考えながら思い出すのは昔すこしだけ働いた職場の同僚だったり、いまは連絡先も知らない知り合いやかつての恋人…走馬灯のようにゆっくりと流れていく11の曲、最終曲『あまり知られていない芸術家』を聴き終わる頃には僕はいつも曖昧な記憶の中をふらふらと彷徨っている。

“僕は大勢の芸術家と出会った
成功してる人も居るけど
ほとんどの人は
あまり知られていない”

(中略)

“そんな人たち目の前に集めて
歌を聴いてもらいたいんだ
僕の時間は限られている
誰かに思い出してもらい
全員と語り合うには”

『あまり知られていない芸術家』

1stブレスのレコードはもう中々手に入らないかもしれないが再プレスの予定もあるらしい。出来れば志賀理江子による素晴らしいアートワークと歌詞カードを見ながら向き合ってほしい作品だ。ちなみに僕はレコードもbandcampも買った。家でも移動中もこればかり聴いている。

世界中に熱心なファンを擁するyumbo(ユンボ)のリーダー/シンガーソングライター、澁谷浩次のオリジナルソロアルバム。Maher Shalal Hash Baz(マヘル・シャラル・ハシュ・バズ)のメンバーとしても知られている澁谷によりコロナ禍の東北で録音された邂逅と別離についての11の私的な物語は、この流行病の時代に普遍的に鳴り響く。

参加ミュージシャン;
澁谷浩次 (yumbo)
瀬川雄太 (subtle)
ゲストミュージシャン:元山ツトム (EDDIE MARCON)

カバーフォト:志賀理江子
デザイン:森大志郎

Bandcamp