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FUN THEATER THREE vol.4

1

ダンジョンズ&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り

ジョナサン・ゴールドスタイン監督
ジョン・フランシス・デイリー監督
@T・ジョイ横浜

TRPG『ダンジョンズ&ドラゴンズ』を映画化した作品。
吟遊詩人エドガンは組織ハーパーの一員として世のため人のため日々戦い続けていたが、悪敵に妻を殺され組織を抜け泥棒稼業に。死者を甦らせることのできる“よみがえりの石版”の存在を知り、奪取を計るも失敗し牢獄に。しかし、脱獄してかつての仲間たちと共に再び石版を巡る冒険に挑む。

監督のひとり、ジョン・フランシス・デイリーは1985年生まれ。TVドラマ『フリークス学園(原題Freaks and Geeks/1999〜2000年放映)』で本人と同じ14歳の主人公サムを演じていたことでその存在は知っていたけれど、トム・ホランド主演のMCU『スパイダーマン:ホームカミング』に脚本で参加していたことで、役者以外にも脚本や監督をしていることを初めて知ったのだった。
役者以外にも、といっても『フリークス学園』の印象が個人的にめちゃくちゃ大きいだけで、現在に至るキャリアを見れば普通に立派な監督、脚本家である。最近だとDCの映画『ザ・フラッシュ』に脚本で参加している。

TRPGと聞いて、80年代以降のいわゆるナードというかオタク的な嗜好の持ち主が部屋に集まり嗜むテーブルゲーム、という映画やドラマ(『フリークス学園』でも登場する)で描かれてきたお決まりの姿以外は何も知らない筆者だが、映画は大変楽しめた。
すっきりした脚本と見応え充分な映像、そして活き活きと動き回る役者たちによる素晴らしい冒険活劇だ。

主人公エドガンを演じるクリス・パインと、その仲間の戦士ホルガ役の『ワイルド・スピード』シリーズでお馴染みミシェル・ロドリゲスはとても好きな役者なので、ふたりを一緒に見れてとてもうれしい。とにかくかわいくてかっこいい。
それだけでも満足なのに、敵役でヒュー・グラントが出ているのがまさにもうけもので、見た人なら誰もが思うであろうポール・キング監督『パディントン2』の時と同じく最高な役どころ。この人は卑劣な悪役を演じると、ダン・デュリエと雰囲気が似る気がする。
エドガンの娘役クロエ・コールマンを見るのは気付けばこれで三作目で、『ガンパウダー・ミルクシェイク』『マリー・ミー』と続いて今回もやっぱり頼りになるというか、やたらしっかりしてる子どもというキャラクター。さすがに現代の大人のダメすぎぶりはどうなのか? と少し思った。

映画は丁寧な語りのテンションと自然に親近感の湧く距離感があって、監督ふたりの過去作品『お! バカんす家族』と『ゲーム・ナイト』でもこれは同じ。
今回はTRPG原作のファンタジー企画ものと思いきや、やっぱりピーター・ボグダノヴィッチみたいなアメリカのコメディ映画ならではの気持ちの良さがある。
話がすっと広がって、始めと終わりで縁がぴったり合うようきれいに折り畳まられる。テーブルに置かれたナプキンのような折り目正しい佇まい。

今作は過去二作で少し感じたジャド・アパトー的な世界観からはひとつ頭抜けたようなところがあって、思ったのは、エドガンとホルガが組むパーティーにはあとふたり、魔法使いのサイモンとティーフリングのドリックという仲間がいるのだが、この存在が大きい気がする。
これまでとは違う若い世代のキャラクターが描かれていて、最近でいうと同じく魔法冒険譚のNetflixドラマ『プリンセス・マヤと3人の戦士たち』に出てくるキャラクターに通じるようなセンスがある。
大変なことは色々あるけれど、異常な執着や安易なひらき直りには陥らない、温かでディープなフラット感覚がいい。

2

悪魔の往く町

エドマンド・グールディング監督
@シネマヴェーラ渋谷

1946年発行のウィリアム・リンゼイ・グレシャム著『ナイトメア・アリー』を映画化した1947年公開作品。
カーニバルで働く駆け出しマジシャンのスタン。同僚の占い師から知り得た読唇術と持ち前の才覚によって全てを手に入れようとするが……。

リメイクというのか、同じ原作小説を映画化したギレルモ・デル・トロ監督による『ナイトメア・アリー』が去年公開された。
デル・トロ監督版はスタン以外の主要登場人物のキャラクターが原作より立体的に描かれていて、全体としてちょっと怖くて哀しいお伽話のような、いつものデル・トロ映画になっている。

で、こちらはというと、デル・トロ監督版と違ってキャラクターや各エピソードは割と原作をなぞった作り。
ただ、最後の最後で話のオチがごく普通のラブロマンスに変えてあって、これではせっかくの素晴らしい役者や美術も結局なんだったんだ、というシラけた気持ちに多少なる。

というのも、この原作小説というのが、タイトルそのまま悪夢の小路でトリコ状態になってしまう色々と強烈な物語で、ある種の救いもまるでなく、しかし、それが面白いところでもある所謂濃い作品なものだから、小説と映画は別ものとはいえ、つい原作を基準に考えてしまう。

3

港々に女あり

ハワード・ホークス監督
@シネマヴェーラ渋谷

1928年公開作品。酒と喧嘩にめっぽう強い水夫のスパイクは大男。世界中どの港にも女がいる。と、そのはずがまるでふるわない。そんな時、クールな水夫のビルと出会う。初めこそいがみ合うふたりだったが、じき意気投合し兄弟の契りを交わすのであった。しかし、スパイクがゴディバという女と出会うことで……。

基本的に飲んで暴れて歌って絆を深める、ハワード・ホークス定番の男の子讃歌。
定番といっても、この初期サイレント時代からその後40年近くも、型だけでなく質の高さも変わらないことに単純に驚いてしまう。

ただ、その男の子讃歌もさすがに素朴すぎて前半はやや退屈気味。
しかし、中盤過ぎルイーズ・ブルックスの登場で一気に引き込まれた。
ルー・リードとメタリカによるアルバム『ルル』の原作戯曲『パンドラの箱』の映画化で主人公ルルを演じたルイーズ・ブルックス。
今作の評判がそのきっかけになったそうだが、今見ても先鋭的なまでのモダンな雰囲気に納得してしまう。

主人公のスパイクとビルも素晴らしい。
スパイクを演じるヴィクター・マクラグレンのボートネックシャツでのスラリとした立ち姿のかっこいいこと。
気は優しくて力持ち、強面だけど芯は温かい人物像。トッド・ブラウニング監督『三人(原題The Unholy Three)』でもヘラクレスという役でそんなキャラクターを演じている。この映画はラストがとてもいい。
その相棒ビル役のロバート・アームストロングがまたかっこいい。撫で付けた前髪とニヒルな笑顔がなんとも魅力的だ。ジョセフ・ゴードン=レヴィットと少し似てると思った。

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FUN THEATER THREE vol.3

1

バニシング・ポイント

リチャード・C・サラフィアン監督
@ストレンジャー

70年代アメリカ。名はコワルスキーという車の運び屋がデンバー〜サンフランシスコを15時間で、という賭けをして出発する。スピード違反で警察に追われ敷かれた包囲網が徐々に迫るも、止まらず爆走し続ける姿を描いた作品。劇中でコワルスキーが運転する車は、クエンティン・タランティーノ監督『デス・プルーフ』で登場するダッジ・チャレンジャー。

1971年公開作の4Kリマスター記念リバイバル上映ということで見てきた。
映画を映画館で見るのと、DVDやVHSあるいはインターネット配信で見るのも楽しさは変わらない。映画を見るのはいつでもどこでも楽しい。
ただ、当たり前だけれど映画館ならではの楽しみというのがやっぱりあって、『バニシング・ポイント』はまさにそれに当てはまる映画だと思う。
上映時間90分くらいで、社会における個人のリアリティに触れるような寓意的な物語。
イメージ、時間、音楽が多層に重なりつつ、全体像がコンパクトに感じるもの。
要はアメリカン・ニューシネマだったりするわけだけれど、そうした幻惑的だったり詩的なふくらみのある映画を映画館で見るのは本当に楽しい。
この感じは音楽をレコードで楽しむのと似てるとも思う。

映画と音楽でいえば、UKのプライマル・スクリームというバンドがこの映画『バニシング・ポイント』をそのままタイトルにしたアルバムを1997年に発表している。
そのアルバムからの先行シングル『コワルスキー』では、実際にこの映画から台詞がサンプリングされている。
映画からのサンプリングというアイデアは、バンドのヴォーカル担当ボビー・ギレスピーの自伝『Tenement Kid』によると、ビッグ・オーディオ・ダイナマイトからの影響によるものとのこと。
そのビッグ・オーディオ・ダイナマイトはセルジオ・レオーネ監督作品からサンプリングをしていて、引用元に選んだ映画と彼等の距離感というか、UKの音楽好きがモチーフにしたものがどちらも架空のアメリカを幻視したような映画、というのが興味深い。

コワルスキーは黄色いショベルカーを並べたバリケードに追突して自死する。
タイトルそのままに、そこであっさり映画は終わる。
炎上した車から転がるタイヤのようなゆったりとしたエンディングは、演奏を終えたバンドがはけたステージみたいな雰囲気がある。
今回とても印象に残ったのが、コワルスキーが最初から最後まで誰のことも自らは決して傷つけようとしない姿だ。
傷つけようしないだけでなく、コワルスキーは道中で出会う人々と基本的に温かい交流を持つ。
コワルスキーはみんなと同じように孤独だけれど、普通に人と話し、普通に人に親切なのだ。

2

WANDA / ワンダ

バーバラ・ローデン監督
@目黒シネマ

1970年公開のアメリカ映画。監督以外に脚本、主演もバーバラ・ローデンによるもの。日本劇場公開は初とのこと。

『WANDA』を見た後に『バニシング・ポイント』を振り返ってみると、『バニシング・ポイント』の放つロマンが良くも悪くもいっそう際立って感じる。
同時代アメリカの放浪や車の運転といったロードムービーとして共通点はあれど、『WANDA』のそれはロマンとは全くの別ものに思える。
覚めない白昼夢のようでいて、最初から最後まで醒めたまま現実でしかない。
アニエス・ヴァルダ監督『冬の旅』同様にカレン・ダルトンを引き合いに出したくなる。

序盤で主人公ワンダが、路上の売店で買うソフトクリームがとっても美味しそうだった。
この場面ではワンダがひとり取り残されてしまうのだが、ロングショットで映し出される眩しくて儚げな情景が素晴らしい。

3

エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス

ダニエル・クワン監督
ダニエル・シャイナート監督
@T・ジョイ横浜

現代アメリカでコインランドリーを経営する中国移民である中年女性が、夫を通じて多元宇宙マルチバースの存在を知ることに。経営や娘との関係に問題を抱えつつ、混沌を極め崩壊が迫る宇宙にバランスをもたらす救世主として果たして彼女は目覚めることができるのか? という物語。
第95回アカデミー賞で7部門を受賞した。

キー・ホイ・クァンが出演する映画が撮影されている……と知った時はとても驚いた。
そしてそれ以来とても楽しみにしていた作品。
というのは、S・スピルバーグ監督『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』でのキー・ホイ・クァンは自分にとって特別に印象的な存在だったから。
自分と変わらない(ように見えた)人間が、当たり前のように西洋文化の大人達の中に混じっている姿がずっと自分の中に残っている。

今作でキー・ホイ・クァンはミシェル・ヨー演じる主人公エヴリンの夫であり、マルチバースをナビゲートする役どころ。
影響元として連想してしまうウォシャウスキー姉妹監督『マトリックス』のモーフィアスのようであり、ナビ兼サポート役として考えてみると『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』の時と似た役どころでもある。
そんな彼の劇中での台詞「Be kind!!」には、この世界においての断固たる決意表明としてグッとくるものがあった。

映画が怒涛のマルチバース展開を経て収束し、微笑んでしまうラストシーン後のエンドクレジットで、ルッソ兄弟のプロデューサーとしての参加を知った。
そこで頭に浮かんだのが、ルッソ兄弟がMCU仕事以前に監督として参加していたTVドラマ『コミ・カレ‼︎(原題Community)/2009-2015』だ。
というのも、『コミ・カレ‼︎』でもマルチバースを扱ったエピソードがあるのだ。
そのエピソードはルッソ兄弟の監督によるものではないのだけど、そもそも『コミ・カレ‼︎』というドラマ自体が引用やパロディなどいわゆるネタ的な要素に満ちた自己言及性の高い作りで、『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』で描かれた多元宇宙のような、と言える現代の混沌とした世界観を反映したドラマ作品なのだ。

“Chaos already dominates enough of our lives. The universe is an endless raging sea of randomness. Our job isn’t to fight it, but to weather it together, on the raft of life.
A raft held together by those few, rare, beautiful things that we know to be predictable”
『Community』S3-4

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FUN THEATER THREE vol.2

1

ブラックアダム

ジャウム・コレット=セラ監督

T・ジョイ横浜のDolby Cinemaで鑑賞。
ジャウム・コレット=セラ監督とロック様ことドウェイン・ジョンソン主演による前作『ジャングル・クルーズ』をめっぽう気に入っていたところ、新作もこの組み合わせと知ってとても楽しみにしていた。
『ジャングル・クルーズ』はディズニーランドのアトラクションを映画化したものだったが、『ブラックアダム』はDCコミックスの映画化だ。
今回ドウェイン・ジョンソンが演じるのは主人公ブラックアダム。この人物とにかくやたらと強くて基本的な能力はスーパーマンとほぼ同じと思われる。しかし、過去に何やら事情があり、単にヒーローとは括れない異質な存在だ。そんなブラックアダムを中心に取り巻く人々や組織による三つ巴で物語は進んでいく。
この物語構造だが、考えてみると『ジャングル・クルーズ』とまんま同じだ。
今作は中東を思わせる色使いの劇中美術がとてもよかったが、これも南米ジャングルが舞台だった『ジャングル・クルーズ』と非西洋文化圏のセンスという点で同じ。
ついでに言うと、映画の尺もほぼ同じだったりする。
現在に至るキャリアを通して、ジャウム・コレット=セラ監督の作品は独特の安定感があるように思う。ちょっと気になる掴みのアイデアがあって、内容は超ド派手な娯楽大作とはいかない予算感の出来具合ではあるのだけれど、それがちょうど良い感じというか、かといって単に地味な映画とは括れない不思議な魅力がある。
作品の安定感ということで連想して考えてみると、リチャード・リンクレイター監督のように作家性を感じるでもなく、ジェームズ・マンゴールド監督のようなツウ好みの職人気質とも違うのがジャウム・コレット=セラ監督で、風通しの良さというかちょっとした語り口の品の良さが独特な気がする。
これまでのミステリー、サスペンス路線に前作からファンタジー要素が加わったことで、作品のスケール感が開けたような、いつもの鑑賞後のほんのり痛快な味わいがグッと増したように思う。この路線は個人的にとても好みなので、今後も是非この方向で映画作りを期待したい。
『ブラックアダム』続編の制作は考えられてないようだけど、新作『Carry-On』と制作(企画?)中らしい『ジャングル・クルーズ2』が楽しみだ。

ちなみに初のDolby Cinema体験だったが、そもそもの館内空間がとてもいい。どの席からもスクリーンがよく見えそうなゆとりある座席配置。正直、シネコンの上映室はこれが基準になって欲しい。売りである画質も音質も言うことなしでDolby Cinema最高だ。

2

ヨーヨー

ピエール・エテックス監督

1965年フランス映画。シアター・イメージフォーラムで鑑賞。
ヨーヨーとは、軸に紐を巻きつけ回転させて遊ぶあの玩具のヨーヨー。それがこの映画の主人公の名前だ。ヨーヨーは生まれながらのサーカスの道化で、彼の自伝のようなコメディドラマである。
物語はサーカスを原点に展開しているものの、映像表現自体は映画への愛に満ち溢れてるのが面白い。
例えば、物語は1920年代を舞台にして始まる。ここでの映像は1920年代の映画のように、つまりサイレント映画のように撮られている。最初、何も知らずに見た自分は「ジャック・タチみたいな映画なのか」と勘違いしそうになった(実際にピエール・エテックス監督にとってジャック・タチは作家としての父であるようだ)。
物語の時代が進み、主人公を取り巻く社会状況は常に変わっていく。そこには戦争の時代もあり、どんな時代でもとにかく生きていく人々の姿が、サーカスといったエンターテインメントのありようを通して描かれるところなど、とても胸に沁みるものがある。
この“父と戦争とエンターテインメント”ということで、Netflixオリジナル映画『ギレルモ・デル・トロのピノッキオ』を連想したが、ショービジネスの舞台裏が描かれるところでは、トリュフォー監督『アメリカの夜』のような可笑しさがある。
映画全体を通して見ると、ヨーヨーという架空の人物の自伝的映画のようで、アーティストであるピエール・エテックス監督自身の姿が浮かびあがってくるようであり、夢と現が溶け合うラストシーンの儚さに心打たれてホロリとした。
コメディと言ってもどこか控えめで詩的な作品で、エンターテインメントもの映画の大傑作だと思う。

〈ピエール・エテックス レトロスペクティブ〉全国順次公開中。
http://www.zaziefilms.com/etaix/

3

RRR

S.S.ラージャマウリ監督

T・ジョイ横浜のDolby Cinemaで鑑賞。
『バーフバリ』の監督による話題の新作。舞台は1920年代イギリス植民地のインド。ふたりの男があることをきっかけに出逢う。前世は兄弟かとばかりに意気投合するも、互いに背負った宿命によりその絆は引き裂かれてしまう。だがしかし、物語は運命の急展開を迎えて怒涛のクライマックスに雪崩れ込むのであった。
あらすじは典型的な兄弟仁義そのものだけれど、それをブルース・リーの『ドラゴン怒りの鉄拳』やジャッキー・チェン『プロジェクトA』といった作品と地続きな時代設計に、『ミッション: インポッシブル』シリーズばりに派手なサスペンス展開を織り交ぜ、クエンティン・タランティーノ監督『イングロリアス・バスターズ』のようなダイナミックな伝奇アクション映画として仕立て上げている。
上映時間3時間(!)という長さを感じさせない問答無用のスペクタクルの連続と、それらを次から次へと捌いていく演出力がとにかくお見事。自分が見た回で、終映後に客席から拍手が起きたのも納得の出来映え。

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FEATURES REVIEWS

2022年アガった日本語ラップ15選

テキスト:藤井優

舐達麻 / BLUE IN BEATS

「BUDS  MONTAGE」以来2年ぶり?くらいの待ちに待ちまくったシングルがリリースされましたね。その間彼らにも色々ありましたが、この曲で全部捲った感じありません?トラックもリリックも更に進化した感じがあって堪りません!

DJ TATSUKI / TOKYO KIDS feat.IO & MONYHORSE

2022年のハイライトはこの曲で決まり!
トラックはもちろんのことIOもMONYHORSEもかましててブチ上がりでした。REMIXもあるけど個人的にはこっちの方がアガります。
とあるライブでIOのバースだけ本人が歌ってましたが盛り上がり方エグかったので文句なし!

OMSB / LASTBBOYOMSB

今年はOMSBの新作めちゃくちゃ聴いたなー。
色んなプレッシャーもあっただろうけど、あれ出せちゃうんだから流石ですよ。「大衆」なんて暫くこんな名曲出ないんじゃないかくらいの代物なんですが、個人的にはこの曲も好きでした。どこまでもヘッズなOMSB格好良すぎ!

OZROSAURUS / REWIND feat.ZORN

個人的永遠のヒーローOZROによる耳疑うくらい衝撃だった新曲のリリース!声とかフロウとか、もうね。格好良いですよ。本当に。しかもZORNのレーベルに参加とのことで、これからまた色々活動が見れるのかと思うと楽しみですね。もしアルバムとか出したら…期待してます!

AWICH / どれにしようかな

アルバム「QUEENDOM」も聴きましたね。ひたすらに。武道館も本当に良かったです。2〜3日思い出してニヤニヤしてたくらい余韻がありました。姐さん、アリーナ決まったらすぐ駆けつけます!

KANDYTOWN / CURTAIN CALL

2023年3月でその活動を終了する彼らによるラストアルバム、その名も「LAST ALBUM」の幕開けとなるこの曲。このマイクリレーも後少しかと思うとめちゃくちゃ寂しい気持ちが襲いかかってきます。もちろん3月の武道館、行かせていただきます!

C.O.S.A. / LEAVE ME ALONE feat.JJJ

ワンマンライブも格好良かったC.O.S.A.によるEPからこの曲を。「COOL KIDS」ももちろんだいぶ聴きましたね。こういう歌モノのサンプリングに弱いんで好きでした。ラッパーとして父親としての覚悟みたいのが感じれて沁みます。韓国ドラマのサンプリングもあったりで良いです。

ZORN / IN THE NEIGHBORHOOD

さいたまスーパーアリーナも大成功に終わったZORNによる新作から。ブレずにフッドスターを貫いてるのは相変わらずで「日本一韻踏むパパ」はパンチライン過ぎ!

ZOT ON THE WAVE / CRAYON feat.FUJI TAITO

個人的にM-1並みのイベントになってるラップスタア誕生からFUJI TAITOのこの曲が好きでした。
あの番組も色んなスターを輩出していて本当すごいなと思いますが、今年はどうなりますかねー。楽しみです!

TOKYO GAL / AS YOU ARE

こちらもラップスタア誕生に出演していたTOKYO GALの一曲。彼女の半生だと思うんですが、ミックスやシングルマザーとして生きてきた彼女が書くことで言葉の重みが感じれて良かったです。ラッパーに限らず性別は関係なくなっていると思うので、これからの活躍に期待!

WILYWNKA / KEEP IT RUNNIN’ feat. MFS

2022年に出たWILYWNKAの新作から。
参加してるMFSに絶賛どハマり中で、彼女のソロ曲も良いんですが、この曲の彼女のバースのフローが堪らない!「楽観的なMUSIC RIDER」ってなんだよ!格好良すぎ!

SOCKS / OSANPO

犬好き角刈り個性派ラッパーのEPから。
ギャグラップっぽいけどスキルフルだし、歯切れのいいラップが耳心地良いです。
動物愛、犬愛が溢れ出てる愛犬家必聴の良曲です!

¥ELLOW BUCKS / DELLA WAYA feat.CITY-ACE & SOCKS

¥ELLOW BUCKSによるアルバムから。
ギャングスタ・ラップっぽいトラックに三者三様の乗り方でカマしてる良曲。ワンマンライブ行きたかったなー。

JIN DOGG / 雨の日の道玄坂

どんなトラックでも様になっちゃうなって思ったJIN DOGGによるシングル。
ホーンなトラックが良いし、声格好良いですよね。映画の出演も決まったみたいなので、そちらも要注目です。

ELLE TERESA / BBY GIRLLL

もし僕がギャルだったらアンセムになっているであろう1曲。HOOKが良い!
「パジャマは脱いでドレスに着替えたいわ」ってパンチラインにヤラれてました!

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FEATURES PLAYLIST REVIEWS

FYOC Favorites 2022

今年もFYOCに関わってくれたみんなのフェイバリットを集めました。今回はひとまず音楽編。まぁ本当にいろいろありますけど相変わらずイケてる新譜やまだ聴いたことない復刻ものなんかを探してる時間やそれを聴いてる時間はなにより有意義です。死ぬまでどのくらいの音楽に出会えるか分かりませんが一枚でも多くの素敵なレコードに出会えますように。最近はほんと素直にそう思います。

アメリカ、イギリス、スペイン、ベルギー、ドイツ、オーストラリア、日本…世界中の音楽家達のニューリリースから知られざるマイナーガレージ復刻盤、偉大なプロデューサーの宅録発掘音源に海賊ラジオのミックステープなどなど2022年FYOCのお気に入りです。それでは年末年始の暇時間にでもぜひ。

“やりきれないことばっかりだから、レコード、レコード、レコード、レコード、レコード、レコード、レコード、レコード、レコード、レコード、レコード、レコード、レコードを聴いている、今日も” ECD「DIRECT DRIVE」

Naomie Klaus / A Story Of A Global Disease

昨年末にフランスのレーベルBamboo ShowsからカセットでリリースされていたベルギーのプロデューサーNaomie Klausによる1stアルバムをスペインのエクスペリメンタル系レーベルAbstrakceがアナログリリース。ダビーなレフトフィールド・ポップにゆるいラップが乗る「Tourism Workers (Arrival)」などはLeslie Winerに通ずるところも。

Lucrecia Dalt / ¡Ay!

コロムビア出身で今はベルリンで活動するエレクトロニック・アーティスト。夢の中を彷徨う幽幻なサウンドテクスチャーとラテンのリズム、Don the Tiger 「Matanzas」の隣に置きたい独創的なモダン・エキゾチカ。南米で撮られた2022年映画『メモリア』における記憶の旅路のサウンドトラック、もしくは架空の街に想いを馳せるスリープウォーカーの頭の中、エレクトロニクスとフォークロアのこれ以上ない完璧な融合。

Act Now / Louis Adonis/Wow Factor

メルボルンのポストパンク・バンドTotal CountrolのJames VinciguerraとF INGERSなどの活動でしられるエレクトロニクス・アーティストTarquin Manekによるコラボシングル。ダビーなリズム・プロダクションにフリー・フォームなクラリネットをフィーチャーした遊び心溢れるミュータント・テクノ・ダブ。ジャングルっぽいリズムに流れ込むSide1もいいがBasic ChannelとJohn LurieがコラボしたみたいなSide2が至高。Yl Hooiをはじめオーストラリアのアンダーグラウンドはとても面白い。

MOBBS / Untitled

NTSのレギュラーも務めるサウスロンドンのDJ/プロデューサー、2017年以来のフルレングス。粗くざらついた質感のサウンドテクスチャーをベースに真っ暗な地下で鳴るインダストリアルなダンスホール、トラップ、ドリルなど14トラック。去年がSpace Africa「Honest Lobor」なら今年の気分は間違いなくこれ。ダンスホール・リディム集「Now Thing 2」のレーベル”Chrome”からのリリース。

IC-RED / GOODFUN

最高にSickな音を届ける詳細不明のラップデュオ、アムステルダムの”South of North”からリリースされたカセット作品。チカラの抜けたダルそうなラップとアブストラクトな電子音にポストパンク的DIYサウンド、Love JoysとThe Slitsが共演したみたいな奇跡の格好良さ。なんのルールにも囚われず鳴らされた音楽からしか聴こえないクールな佇まいに加えてひとつひとつの音選びには並外れたセンスが光る。

Jabu / Boiling  Wells(Demos 2019-22)

ブリストルのアーティスト・コレクティヴ Young Echoの3人組がひっそりとリリースしたデモ音源集。この作品で鳴らされるエコーまみれの甘美なトリップホップはこんな時代にもメランコリックでドリーミーな音楽が有効であることを教えてくれる。シンプルなドラムマシンに反響して溶け合うヴォーカルとシンセサイザー、現実に向き合うためにたまには音楽に逃避するのもいい。

V.A. / Ghost Riders

Rising StormからNora Guthrieまで収録した名作コンピ「Sky Girl」やオーストラリア現行エクスペリメンタル・ダブYl Hooiのアナログリリースなどで知られる”Efficient Space”からまたしても最高コンピレーション。トワイライトなフィーリングを軸に超マイナー・フォーク~ガレージを17曲、アートワークから曲順まで拘られた丁寧な作りに感動。夏の終わりのように儚く美しい、プリミティブな録音物からしか体験し得ないムードを忍ばせた素晴らしい1枚。ラスト3曲の流れはいつ聴いてもぐっときます。

Yosa Peit / Phyton

ドイツのシンガー、プロデューサーが2020年にリリースした1stアルバムをUKのインディーレーベルFireがDLコード付のホワイトカラー・ヴァイナル仕様でリイシュー。ジャンクでロウなブレイクビーツにNeneh Cherryを彷彿とさせる妖麗なボーカルが絡む「Anthy」は必聴。

Rosalia / Motomani

フラメンコ、レゲトン、バチャータ、R&B、ヒップホップ、、、、をアヴァンギャルドに折衷したエキセントリックな超ポップアルバム。サンプルにも使われたBurialをはじめ、Arthur Russellなんかの意外なとこまで古今東西ジャンルレスな影響元をぶち込んだ変態的センス炸裂のプレイリストと併せて聴くと楽しさ倍増。ミニマルなフレーズの反復と魔法のチャント「Chicken Teriyaki」,Frank Ocean風バラード「Hentai」など、こんなイカれた音楽が世界中で聴かれているなんて最高だしアートワークもやばい。

V.A. / Pause for the Cause : London Rave Adverts 1991-1996, Vol.1~2

世界各地に埋もれたオブスキュアな音源を発掘&リリースするロンドンのレーベルDeath Is Not The End。本作は、90年代にロンドンの海賊ラジオで流れていたアンダーグラウンドなレイヴパーティの告知CMをミックスした超マニアックな内容。当時のロンドンクラブミュージックシーンの熱気を追体験できる最高のドキュメント。

V.A. / Pure Wicked Tune: Rare Groove Blues Dances & House Parties, 1985-1992

Death Is Not The Endからもう一作。本作は、80年代中頃から90年代初頭にサウス~イースト・ロンドンの小規模なダンスパーティーでプレイされていたDIYなカセット音源をコンパイルしたミックステープ。ソウルやファンクなどのレアグルーヴをサンプリングし、サイレンやトーストを加えレゲエマナーに仕上げた独自のサウンドは、新たなジャンルの誕生を予感させるものだったが、90年代初頭のクラブ・ミュージックの台頭の中で埋もれてしまったそう。UKのサウンドシステムカルチャーの隠れた一面を窺い知れる貴重な音源集。

Dawuna / EP1

ブルックリンのシンガーDawuna、2021年「Glass Lit Dream」も良かったけどこの最新EPも相当やばい。鼓膜の内側にグッとくるくぐもった音質のインナー・ソウル・バラードを3トラック、前作からあったビートの実験性を残しながらもNearly Godの内省とD’Angeloの官能を同時に感じさせるようなメロディとボーカル、無二の存在感。

Slauson Malone / for Star(Crater Speak)

我らがSlauson Maloneの2022年ニューEP。各楽器が去勢されたように静かなアンサンブルを奏でるSmile #8 (Je3’s Eextendedd Megadance Version for Star)(see page 182) 、Loren Connorsまで想起させるダークなアンビエント・ノイズSsmmiillee ##55の2曲を収録。マッドな質感を残しながらもタイトル通りのスピリチュアルな展開に次作への期待も高まるばかり。

Beyonce / Rennaissance

先行シングル「BREAK MY SOUL」が出た時から興奮しっぱなしだったけどアルバム冒頭Kelman Duran参加&Tommy Wrght Ⅲサンプルの「IM THAT GIRL」でブチ上がり、「ARIEN SUPERSTAR」まで息継ぎ出来ませんでした、かっこよすぎ。Kendrick LamarのDuval Timothy参加の新作でも思ったけどアンダーグラウンドと結びつきながらも圧倒的な作家性と表現のスケール感を崩さないバランス感覚はさすがとしか。

quinn / quinn

Standing On The Corner、Slauson Maloneをフィバリットに挙げる17歳のラッパー/プロデューサー。絶妙な音の汚し方に脱臼したようなギター、変調したボイスサンプルのコラージュなどSOTCライクな要素は至るところに。しかし本作のハイライトは「been a minute」や「some shit like this」で聴けるロウなボーカルと内省的な胸をうつメロディにこそきっとある。

Babyfather , Tirzah / 1471

Dean Bluntの別名義Babyfather、Tirzahと DJ Escrowをフィーチャーしたニューソング。突然止まったり、つんのめったりするバグを起こしたワンループにTirzahのドリーミーなヴォーカルか乗るわずか104秒の素晴らしいUKソウル。Dean Blunt名義でリリースされたアコースティックな新曲「death drive freestyle」も要チェック、こっちは歌声が滲みる。

Quelle Chris / Deathfame

デトロイトのヒップホップ・プロデューサー/ラッパーによる7作目。「Feed The Heads」、「Cui Prodest」あたりの埃っぽいローファイなビートとダビーなサウンド・プロダクション、「King in Black」のスクリューされたトリップホップ、Sun Raのヴォーカル曲のようなピアノ小曲「How Could They Love Something Like Me?」など、いわゆるオルタナティブと形容されるヒップホップ作品にはやや食傷気味だった自分にも相当刺さった。Pink Siffu、Navy Blue参加。

Warm Currency /  Returns

シンプルであることはとても重要、例えばギターひとつとっても和音を鳴らすのか短音で弾くのかそれだけでも大きく違う。シドニーのデュオWarm Currencyのデビューアルバムで展開される極限まで削ぎ落とされた静謐なフォーク・ミュージックは生活音や自然音を効果的にコラージュしリスナーにあらゆる情景を浮かばせる。この研ぎ澄まされた静けさはKali Malone、もしくはMaxine Funkeやalastair galbraithのファンにも届くだろう。

Big Thief / Dragon New Warm Mountain I Believe in You

フォーク・ミュージックの歴史を無意識的に受け継いでいるかのような軽やかさとリアルな生活と地続きのサウンド。人間同士の繋がりがまだバンド・ミュージックにおいて魔法を起こし得るのだと教えてくれる真ん中に集まったミニマムなバンド・アンサンブル、それとは一転90年代初頭のニール・ヤングのようにハードなギターとレヴォン・ヘルムさながらのタイム感を持ったドラミングが印象的な来日公演も素晴らしかった。

Sam Esh / Jack Of Diamonds/Faro Goddamn

アメリカのアウトサイダー・ギタリストSam Eshの音源集、オリジナルは90年代にリリース2本のカセットテープ。とにかく乾ききったサウンドとあまりにプリミティブな演奏が衝撃的なストリート・ブルース。荒々しくかき鳴らされるワンコードの反復と独自の言語(?)のハウリングによる異形のミニマル・ミュージック。

Born Under A Rhyming Planet / Diagonals 

Plus 8 から90年代前半にシングルを数枚リリースしている Jamie Hodge による未発音源集。恥ずかながらはじめて存在を知りましたがもう最高の音しかつまっていないピュアでソウルフルな電子音楽、スウィングするドラムマシンによるジャズテクノ「Menthol」「Fate」「Hot Nachos with Cheese~」、微睡みのダウンテンポ「Siemansdamm」、繊細なリヴァーヴ処理とシンセが煌めくコズミックな「Handley」、エクスペリメンタルなビートとアンビエントな雰囲気を纏った「Intermission」など全曲最高。

Valentina Magaletti / A Queer Anthology of Drums

Al WottonとのHoly Tongueの新作も素晴らしかった打楽器奏者、デジタルオンリーだった2020年作がアナログリリース。ヴィブラフォンやトイピアノ、フィールド音を絡めながら打楽器のインプロヴィゼーションを展開する密林的エクスペリメンタル・パーカッション作品。呪術的な反復はときにMoondogやCanまで想起させる、いま一番刺激的なサウンドを届けてくれるパーカッショニスト。

CHIYORI × YAMAAN / Mystic High

メンフィス・ラップとアンビエント、ありそうで意外となかった最高の組み合わせ。音の快楽性に加えてポップな歌メロもあって年始はこれと宇多田ヒカル「BADモード」、Cities Aviv「MAN PLAYS THE HORN」ばかりリピート。とりわけ本作のアンビエント的メロウネスとメンフィス・ラップ由来のチープな質感による気持ちよさは中毒的。

V.A. / SUBLIMINAL  BIG  ECHO

今年1番のサイケデリックな音盤!ジャパニーズ・アンダーグラウンド音楽家11組がDUBをテーマに持ち寄った脳みそトロける12トラック。Hair Stylisticsの超ドープなスロー・ダブからTOXOBAMへの流れがいつ聴いても最高。TOXOBAM「HOT GOTH」のリリースで知られる”SLIDE MOTION”から。

Hallelujahs / Eat Meat, Swear an Oath

ラリーズのオフィシャル・リリースは事件だったが日本のサイケデリック・ロックにおいてはこれも忘れちゃいけないはず、ハレルヤズ86年作実に25年ぶりのリイシュー。Galaxie 500をはじめとするスローなサイケデリック・ギターロックに先んじて鳴らされたいま聴いても新鮮な楽曲達。フィジカルでは手に入れづらい状態が続いていただけに嬉しい再発です。リリース元は日本のアンダーグラウンド音楽を多数リリースするアメリカのBlack  Editionsで来年はWhite Heaven 「Strange Bedfellow」のリイシューも予定されている。

Charles Stepney / Step on Step

シガゴの伝説的プロデューサー、アレンジャー、作曲家Charles Stepneyによる70年代宅録音源集。チープなヴィンテージ・リズムボックスとアナログシンセをメインにホーム・レコーディングならではの親密さを感じさせる23トラック。Angel Bat DawidやJeff Parkerなどをリリースするシガゴの名レーベルInternational Anthemのナイスワーク。

HiTech / Hitech

デトロイトの天才Omar Sの”FXHE”からリリースのゲットー・テクノ・デュオ。ハウス、トラップ、フットワークなど多彩なビートを操り夜の街をクルーズする洒脱なシティ・ミュージック。メロウなシンセもフィメール・ヴォーカルも絶妙にちゃらくならなくてそこが良い。これがきっと都会の音楽。

OMSB / Alone

think god以来、7年ぶりのフルレングス。2020年以降多くの人が考えただろう当たり前の大切さとかありふれた幸せ、不味いたこ焼きを食ったり暇持て余して公園行ったりする「One Room」の日常はそんな当たり前を特に美化するわけなく淡々と少しだけユーモラスに切り取っている。人それぞれの日常にそれぞれの孤独が転がっている、そんな当然のことを教えてくれる。

Whatever The Weather / Whatever The Weather

朝のしんとした空気には静謐なアンビエント”25℃”、ドリルンベースの“17℃”は帰りの電車で、寒くなってからはメランコリックなシンセ・トラック“10℃”が肌にあう。Loraine Jamesアンビエント名義のデビュー作はアーティスト名通り、温度や湿度を感じさせるようなエレクトロニック・ミュージックであらゆるシチュエーションで良く聴いた。渋谷CIRCUS公演も最高だった。

V.A. / To Illustrate

レゲトンにインスパイアされたクラブ・ミュージックやダウンテンポ、UKベースの変種などbpm100前後で展開される低いテンポの先鋭的エレクトロニック・ミュージックをwisdom teethがコンパイル。大阪のabentisによるアンビエントなフィールを持ったダンスホール「Bicycle」、同じモードのFactaとYushhの「Fairy Liquor」、韓国のsalamandaのメロウなダブ・ステップ「κρήνη της νύμφης」あたりが個人的には白眉。

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FEATURES REVIEWS

The Oz Tapes / 裸のラリーズ 発売記念リスニング・パーティー @渋谷WWW X

会場内BGMはMJQ。気のせいかさりげなくDUB Mixが施されてるような。お香も焚かれていい雰囲気。ステージ向かって正面の壁一面はスクリーンが張ってあって、両端には水谷孝本人のものと思われるギターとアンプが設置されている。ステージ向かって右にビグスビー付きの黒いFenderテレキャスターとギターアンプGuyatone 2200。向かって左はやはりビグスビー付きの赤いGibson SGとこちらもキャビのみ右と同じGuyatoneで、ヘッドがMarshallというセット。

MJQにフェードインする形でオープニングアクトYoshitake EXPEの演奏がスタート。エレキギターによるインストで、明快なテーマが数珠繋ぎに切れ目なく展開していく素晴らしい演奏。
どこまでも伸び続けるようなサスティーン音に我知らずうちに浸りきっていると、突然照明が激しく点滅し同時に大音量のフィードバックギターが鳴り響いた。それまでの顕微鏡を覗き込んでいたようなピースフルな雰囲気が一転、ドレによるダンテ神曲のあの世界に。軽く恐怖を感じた。地響きのような大音量ではあるけども超重低音のそれではなく、中低音に焦点の合ったボコっとした音像で、下腹部~胸のすぐ下あたりを中心に全身へ振動が響き渡って気持ちがいい。身体が揺れて思わず踊り出したくなる。
The Velvet UndergroundのQuine Tapesのような親近感と、この時点ではまだ原石の輝きというか、ならではの愛らしさと激しさの眩惑感で満ちていて、The Original Modern Loversのような瑞々しさ。凶暴でありながら素朴で懐かしい音を奏でるバンドのこの圧倒的な個性は、やはりリーダー水谷孝の資質によるものなのだろうか。曲がレコードA面最後の“白い目覚め”になると、正面スクリーンに水谷孝とバンドの写真の数々が投影されて、胸がいっぱいに。写真は過去何度となく目にしてきたものだが、とにかくかっこいい。常に気品というか可憐さみたいなものがあって、これまでも目にするたびに思ってきたことだが、やっぱりいつ見てもかっこいい。

裸のラリーズといえばノイズギター。とまずはなるけれど、同じくノイズギターと形容されるようなUSオルタナ、或いはUKシューゲイザー、そのどちらとも違うものだと個人的には思う。
特にThe Oz Tapesでは、後の’77 Liveともまた違う剥き出しのバンドの姿が収められていて、The Velvet Underground、Jimi Hendrix、60年代後期サンフランシスコのサウンドetc…、それらが渾然一体となってこちらに向かって転がってくるようなグルーヴ感がかっこいい。サイケデリアという視点から考えてみると、アシッドなロックからMJQまでを横断する開かれたセンスは、今こそ広く聴かれるべきものがあると思う。Trad Gras Och StenarとShin Jung-hyeonと並べておきたくなるこのレコードの再発レーベルの大元がLight in the Attic Recordsというのに納得だ。

本公演はリキッドライトが全編に渡ってステージ上スクリーンに映し出される演出がなされていて、これがとても素晴らしかった。繰り返すリズムと響き渡るエコーに映像空間がリンクして意識がフラクタル状に溶けていくような、そんな音楽の醍醐味がたっぷり味わえた。さらに久保田麻琴によるライブMix、会場の音が本当に素晴らしく、まるで生きているかのようなバンドサウンドで、レコードを聴いて改めてあの場の凄さを実感した。

ラスト曲でステージ左右に設置されていたギターアンプがオン。
バンド演奏のフィードバック音がもつれ重なり混じりあって回転し続ける音像がとてもかっこよかった。

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COLUMN FEATURES REVIEWS

Are You Experienced『Rくん』?

君は『Rくん』を聴いたことがある?というか体験したことがある?ないならいますぐ bandcampで買おう。黒バックにゴシック体の怪しいジャケット、匿名的なタイトル。きっと検索には引っかからないだろう。東京で活動するシンガーソングライター、ダニエル・クオン(Daniel Kwon)による変名プロジェクトである本作は2013年リリース当時、超局所的にではあるが多くの賞賛と驚きを生んだ。少なくとも僕の周りの数少ない音楽好きはそうだった。

はじめて聴いたのは立川の珍屋というレコード屋だったと思う。ハーシュノイズのような雨音、街の雑踏や波の音、サイレン、ナレーション、校内放送などが次々とコラージュされていくエクスペリメンタルで一聴して偏執的な拘りを感じるポップアルバムに思わずレコードを掘る手も止まった。録音は当時ダニエル・クオンの職場であった小学校と自宅スタジオで行われたらしい。子供の遊び声や給食放送らしき献立の紹介に合唱などあどけない小学生の声は多くの曲で聴くことが出来るし、グランドピアノやヴィブラフォン、ティンパニなどの音楽室の楽器達が本作にはよく登場する。

僕はこのアルバムに出会ってからというもののしばらくは『Rくん』の世界から抜け出せなくなってしまった、いまでもたまに聴くとやはりなんだか危うい気持ちになる。危うい気持ちというのは、あんまり深入りしちゃいけないのにどうにも抑えがきかない感じというか、つまりとにかく中毒的で気軽に覗いてはいけないものを見てしまった時の様な不思議な魅力がある。とりあえず冒頭の「Rainbow’s End」だけでも聴いてみてほしい、出来れば大きい音でヘッドフォンで。雨音のようなノイズからはじまり、囁かれる”レッツゴー、ワントゥー、レッツゴー、ワントゥー”。ダークで美しい響きを持ったメロディはもちろん、とにかく拘られた録音とミックスからは遊び心を超えた何かやばみを感じさせる。左から流れる不穏なシンセサイザーの持続音を断ち切るように唐突に入るアコギ、右から左へと侵食していく波の音、サイレン、スネアロール…ここまでくればあとはもう音に耳を任せるだけだ。もう一曲選ぶなら「Happy4ever」だろう、ここではまるで映画『インセプション』のように——脈絡のない他人の夢や脳内を漂っているかのような感覚を僅か11分でユーモラスに表現してみせる。

バンドミュージック、ヒップホップ、テクノ、ハウス…ジャンルを問わず、あるひとりのアーティストの内面や作家性が強烈に出た作品——録音、編集、ミックスをダニエル・クオンがほぼ1人で手がけた本作からは他者との交わりではないところから生まれたアート、それにしかない引力がある。ややラフな質感の穏やかなエンドロール「#9」で彼は日本語でこんな風に歌ってアルバムが終わる。

“金縛りはないよ、ほとんどないんです 頭が真っ白”

bandcampではタイトルが『Love Comedy』に変更されジャケットも差し替えられているが、$5払えばすぐに買える。異国の地の音楽室やアパートで作られたねじれたダークファンタジー、ひっそりとでいいから語り継ぎたい名作だ。

ちなみにCDのブックレットには大島渚をはじめとするスペシャルサンクス欄があって、作品を読み解くヒントにもなりとても面白い。

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FEATURES PLAYLIST

Forge Your Own Tapes vol.4
FYOC’s Exotica Feeling

最近エキゾってよく聞きますが正直しっくりこないものがほとんどじゃないですか。マーティン・デニー〜アーサー・ライマンなどを通過したいわゆるエキゾチカはいまや様々な文脈を経て新しいエキゾ感が生まれているように思います。ヨーロッパ各国のビートミュージックや先鋭的なジャズ作品なんかを聴いているとかつてあったエキゾシチズム=異国情緒的な感性とはまた違った新鮮なフィーリングを呼び起こさるように思うのです。ということで今回は唐突にFYOC的エキゾ特集、最近リリースのものからクラシックまで、2022年に聴くにもジャストな作品を選びました。記事中の楽曲プラスαのプレイリストは最下部に貼ってますのであわせてどうぞ。

Don the Tiger / Matanzas

Crammed Discs, 2018

バルセロナ出身、リディア・ランチやマーク・カニンガムとの共演経験もあるというギタリスト兼伊達男、Adrian De Alfonsoによるソロプロジェクト。Timmy  Thomas meets Serge Gainsbourg(友人談)、もしくは「Rain Dogs」のエレクトロニクス版とも言えそうな郷愁ラテンエキゾチカ。密室的な鳴りのビートとパーカッションが肝なのはもちろん、アンビエント的感覚も内包したシンセ〜エレクトロニクスがなにより最高。本作は2018年リリースの2作目でリリースはなんとCrammed Discsから。街灯を登るお茶目な姿が見れるPVも必見。

Karabrese / Fleischchäs

rumpelmusig, 2021

スイスのプロデューサー/DJ、Sacha Winklerの2021年作「Let Love Rumpel (Part 1)」収録曲。生音+エレクトロニクスの絶妙なトラックの上にゆらゆらと彷徨うバリトンサックスとポエトリーが琴線を刺激、ふいに出てくるスナップやらリコーダー、カリンバもとてもいい塩梅。

Ramuntcho Matta / Écoute

Cryonic  Inc., 1985

Don Cherryとの共演でも知られるフランスの音楽家RAMUNTCHO MATTAによる85年作。bpm100前後のアフロパーカッションにフリーフォームなサックスが被さるMarimbula , 同時代のポストパンク〜ニューウェーブとの共振も感じさせる “Ecoute… ” ” Ibu”などを収録したエスノ・アヴァンジャズの傑作。翌年リリースの『24 Hrs』もあわせて必聴です。

Mamazu / Dada

SABI, 2021

東京拠点のDJ/プロデューサーMamazuによる2019年楽曲。呪術的なパーカッションとチャントが秘境へ誘う瞑想的ダンストラック。土着的サイケデリック感高濃度なオリジナルもナイスだが、エクアドルのプロデューサーNicola Cruzによる Remixも捨てがたい。野外で爆音で聴いたら堪らないだろうなぁ。

Angel Bat Dawid / Black Family

International  Anthem, 2019

シカゴ前衛ジャズシーンから現れたクラリネット奏者/作曲家による初リーダー作品『The Oracle』に収録。地鳴りの様なベースとタイトなドラムのうえを幻想的なクラリネットの旋律がふわふわと浮遊するスピリチュアル・エキゾジャズ。Sun Ra〜Alice Coltrane〜AAOCあたりを確実に継承しながらその先を感じさるモダンなプロダクションが素晴らしい。2020年『LIVE』での熱演も是非。

Bendik Giske /  Cracks

Smalltown Super Sound, 2021

ロシアン・レフトフィールドテクノの才人Pavel Milyakovとの共作アルバムも素晴らしかったノルウェーのサックス奏者。アブストラクトなサックスとパーカッションの反復が生む中毒性と酩酊感、スカスカの『空洞です』をさらに解体して『World of Echo』に一晩漬けたようなミニマル・エクスペリメンタル・ジャズ。

Ultramarine / Breathing

Les Disques Du Crépuscule, 2019

90年代初頭から活動するUKエセックスの二人組による2019年作『Signals Into Space』に収録。最近のMusic From Memoryのカタログとも共振するようなバレアリック〜ダウンテンポ。過去にはロバート・ワイアット、ケヴィン・エアーズ等との共演歴もあるようで、このレイドバック感はカンタベリーからの地続きと思うと腑に落ちるものがありますね。昨年リリースのEP『Interiors』も夢見心地な最高のメロウ・エレクトロニカ。

Mike Cooper / Oceans of Milk and Treacle

Room 40, 2022 

ブリティッシュ・ブルースの偉大なるギタリストにして90年代以降は実験的な音響作品を量産するマイク・クーパーの2022年最新作。ラップスティールギターが持つエキゾフィールと3種のサックスにフィールドレコーディングがコラージュされたエキゾ・アンビエント。ノスタルジックと簡単に言うのは憚られるような音世界はJon Hassellと並べても最早遜色なし。

Moondog / Snaketime Series

Moondog Records, 1956

いまあらためて聴きたいNYストリートから現れた盲目の音楽家による56年第1作目。東洋的な旋律とチャカコポ乾いたパーカッション、赤子や動物達の鳴き声までミックスされた永遠に謎めいたサウンドは何とも似つかないエキゾシチズムを纏っています。

細野晴臣 / 洲崎パラダイス

Speedstar Records, 2017

1956年の日活映画『洲崎パラダイス赤信号』からインスピレーションを得た2017年『Vu Ja De』収録曲。いまは存在しないものへの憧れから生まれるフィーリングがやはりエキゾの本質。この楽曲から漂う不気味さやいかがわしさにはその魅力の全てが詰まっているように感じます。

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FEATURES PLAYLIST REVIEWS

FYOC Favorite List 2021

今年はいろいろな形でFYOCに関わってくれた皆様に2021年のお気に入りの作品を選んでもらいました。ニューリリースも再発もあり、アンダーグラウンドなビート・ミュージックから映画、ドラマ、漫画までFYOCらしい独自のリストになったと思います。シーンや時代の流れとは何ら関係なく極私的に選ばれたこのリストであってもなんだか2021年を感じさせてくれるから不思議です。今年はいろんな事情もあり清々しいほどマイペースな更新になってしまいましたが、2022年に向けて色々とワクワクするような企画も準備中、とりあえずはこちらのリストでもって2021年を振り返ってみました。
このページで紹介されている作品にさらに数十曲プラスした(Spotifyにあるものだけです)プレイリストも最下部に貼ってます。正月休みの暇時間のお供にどうぞよろしくお願いします!

Dean Blunt / BLACK METAL 2

元Hype Williamsの片割れによるニューアルバムは全編に腑抜けたギターをフィーチャーしたソフトサイケデリック、もしくは異形のアシッドフォークアルバム。あらゆるものから距離を置くような孤独でくたびれた歌がなにより素晴らしい、前向きさとはかけ離れたある人にとってはとてもひたむきな音楽。

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V.A. / SPLINT

ブリストルのネットラジオ局兼インディレーベル“Noods Radio”によるコンピシリーズ第二弾。乱打されるトライバルなパーカッションにスペイン語のフィメールボーカルが乗るミュータントなラガマフィン「Azione Reazione」など、乱暴なダンスホールナンバーに痺れる一本。カセットのパッケージもイケてます。

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bandcamp

Eva Noxious / Anti Todo

チカーノ・フィメール・ラッパーEva Noxiousの音源をオランダのエレクトロレーベル“Bunker”がコンパイル。爆音で聴きたい粗悪なビートと意外(?)にもドリーミーでフローティンな上モノが最高に癖になるG-Funk〜Phonk。あっという間に聴き終わる、全13曲23分。

Space Africa / Honest Labour

NTSのレジデントも務めるマンチェスターのデュオ最新作。最初はダブっぽかった前作の方が好みだったけど、ディープなエレクトロニクス〜ダウンビートを聴かせる今作も聴けば聴くほど良い。アンビエントトラックであってもUKガラージ由来のざらついたストリート感があって何よりそこにグッとくる。

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DRTYWHTVNS / Aloof

“Orange Milk”からリリースされたUSのラッパー兼トラックメイカーのデビュー作。トラップ、エレクトロ、ディスコ、ハウスをミックスしたカラフルでキャッチーなサウンドながら、”資本主義の世の中でインディペンデントな音楽活動を続ける事に対する苦悩”が歌われているというギャップに2021年らしさを感じる。

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KM / EVERYTHING INSIDE

今、飛ぶ鳥を落とす勢いのプロデューサーによるアルバム。このアルバムはリリースされてから今までコンスタントに聴いていた印象なので、個人的に今年1番聴いたんじゃないかなって思います。アルバム通して心地良いんですよね。朝昼晩いつでも聴ける感じ。中でも1、3、4曲目あたりが好きでよく聴いてました。ワンマンライブにも参戦して、人生初の最前列でかなりヘッドバンギンさしてもらいました。これからの活躍にも期待大!

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『逃げた女』ホン・サンス監督

これまでの集大成と思えるような完成度でありつつ、新しいフェーズに入ったかのような清々しさ。ホン・サンスと言えばのズームインはあれど、物語時間軸の入れ替えや繰り返しなど無くとてもシンプル。ひとりのごく個人的な映画のようでいて、この開かれた風通しの良さは一体なんだろうと思う。寂しげな影をひきつつ明るいムードを纏う主演キム・ミニの佇まいが素晴らしい。

Patrick Shiroishi / Hidemi

ロサンゼルスの日系アメリカ人サックス奏者によるエスペリメンタル・ジャズ・アルバム。情感溢れるセンチメンタルなフレーズがミニマル・ミュージック的反復のうえで現れては消える多重録音サックスソロ作。実験的ながらもミニマルなフレーズのループは体を揺らし、ときにエモーショナルなフレーズに心まで揺さぶられます。

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Yl Hooi / Untitled

オーストラリアはメルボルンの地下で活動するアーティスト。詳細はいまいち不明。オリジナルリリースはメルボルンの良質レーベル“ALTERED STATE TAPES”のカセット音源。80年代ダブの質感をアンビエント〜バレアリック以降の感覚でD.I.Yに表現したエクスペリメンタル・ポップ。マッドなビートが気持ち良すぎる「Prince S Version」、Love Joysのメルトダウン・カバー「Stranger」などが白眉。

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『ブラック・ウィドウ』ケイト・ショートランド監督

本格アクションを織り交ぜ綴られる登場人物それぞれの距離感、そこから提示される家族像にしみじみ。シリーズものとしての制約やジャンルの枠が、創作物語を成立させていたり、テーマや表現の工夫を生んでいるのではないか。往年の70年代アメリカ映画みたいなコンパクトかつ熱い感動と重ね合わせて観てしまうのは、そうしたところからかもしれないと思う。

BLAWAN / Woke Up Right Handed EP

UKのテクノプロデューサーBLAWANがバチバチに攻め攻めなフロアボムを投下。UKベース、ブリープテクノ、インダストリアル、ポストダブステップなどなどをハードにミックス。「Under Belly」の突っ込みすぎて割れちゃった感じのシンセとか最高。

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99 Neighbors / Wherever You’re Going I Hope It’s Great

昨年リリースしたシングル「GUTS」がとにかく格好良くて気になっていた、アーティスト集団によるアルバム。ラッパー、シンガー、プロデューサーが在籍しているので、曲ごとに魅せる顔が違って、メロウだったり、妖しかったりで1枚通して楽しめるから好きでした。BROCKHAMPTONと比較されがちみたいですが、個人的には格好良ければ何でも良いので、これからも動向を追っていきます!

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『フリーガイ』ショーン・レヴィ監督

現代的な題材や当然のCG映像表現ながら、古典的なアメリカコメディ映画のような愛らしさを感じた。特にライアン・レイノルズ演じるガイとその友人である銀行警備員との間には、とても感動的なバイブレーションがあって、ラストふたりの邂逅においてルネ・クレール監督『自由を我等に』を連想し思わず涙。チャップリンやキートン映画のようにイキイキ楽しい作品。

Leslie Winer / When I Hit You – You’ll Feel It

早すぎたトリップホップ、Leslie Winerの未発曲含むアンソロジー盤。90年代初頭の香りがムンムンする無骨なビートとダンスホール由来のマッシヴなベースラインが耳と腰にグッとくる今まさに最高な音、初出曲「Roundup Ready」だけでもマスト。アートワークだけが少し残念!

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V.A. / Late Night Tales Presents Version Excursion Selected by Don Letts

1978年のジョン・ライドン初ジャマイカ渡航にジャーナリストで近年自身の音源が再発されたビビアン・ゴールドマン(著作『女パンクの逆襲 フェミニスト音楽史』12/23発売)と同行し、フィルムメーカーでTHE SLITSのマネージャーでBig Audio Dynamiteのメンバーでもあるドン・レッツ。その彼の選曲によるJoy Division曲のレゲエDUBカバー含む全曲素晴らしいコンピレーション。

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『ジャングル・クルーズ』ジャウム・コレット=セラ監督

全体の出来というか、設定、脚本等の完成度その他諸々に思う事は色々とありそうなのは確かだとしても、テンポといい美術といい個人的にかなり好み。漫画『タンタン』や小説『エルマーの冒険』を読んだ時のような気持ちになってワクワク楽しんだ。追いつ追われつが螺旋状に広がる物語構造と世界を彩る明暗のコントラスト具合にニール・ゲイマンの小説も連想した。

Brainstory / Ripe EP

今年の夏はほとんど出かけてないから大体これでトリップ、“Big Crown”オール髭面バンドの最新EP。メロウな歌ものも相変わらず素晴らしいがソファーか沈み込んでいくようなドープで陶酔的なインスト曲が堪らなく気持ち良い。サイケデリックで清々しいほどにだらしない最高の一枚。

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『ハイ・フィデリティ』

2020年のHulu作品が今年Disney+で配信されて視聴。原作小説と映画版とは違うトーンで再構成されていて、テーマの切り口などは同じNYが舞台のNetflix『マスター・オブ・ゼロ』と少し似てる。この作品ならではの劇中音楽やレコードの扱いは変わらずとても魅力的で、フランク・オーシャンはかかるし、当然のようにNumeroの再発に親しんでいるような選曲。音楽監修クエストラブ。

Awich / 口に出して

まずは姐さん、祝・武道館!今や日本のHIPHOP界で文字通り最先端にいらっしゃるAwich姐さんのシングル曲にだいぶ食らいました。いやー、格好良い!!ダブルミーニング的な内容のリリックがもう堪りません!今年は2回ライブに行かせて頂いて文句なしに最高だったし、武道館ももちろん参戦予定です。どっぷりハマってます。はい。これからも付いて行きます!

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Wool & The Pants / 二階の男

MAD LOVE Recordsと初台のギャラリーLAID BUGの共同リリース「TWIG EP」収録曲。路上から密林に迷い込んだMoondog的エキゾ・ヴォーカル・ダブ??スローかつ重心低めにクルーズするビートとロウでスモーキーなヴォーカルに高まり、アウトロのサックスで昇天する傑作曲。クールなアートワークの限定10inchは探せばまだ買えるはず。

『わたしの“初めて”日記 Never Have I Ever』

Netflixドラマ。今年シーズン2が配信されて視聴。いわゆるアメリカ学園ドラマで、突然父親を亡くしてしまった10代の主人公を中心に笑いあり涙ありの日々がテンポよく描かれる。製作総指揮がミンディ・カリング(映画『ナイト・ビフォア』でセス・ローゲンにドラッグ詰めをプレゼントしたその妻役の俳優)と知るとより納得感が高まる内容。22年シーズン3配信予定。

Tiziano Popoli / Burn The Night – Bruciare La Notte : Original Recordings 1983 – 1989

イタリアのミニマル・コンポーザー80年代の録音をまとめたコンパイル盤、リリースはRvng Intl.とFreedom To Spendのダブルネーム。ミニマルなシンセ×Roland TR909ドラムマシンによるアヴァンニューウェーブポップ、アンニュイな脱力ヴォーカル入りのIunu-Wenimoなど2021年的にジャストなサウンドも多数。

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LAYA / Bitter

2021年、個人的発掘アーティストはこれ。
ジャケットは派手なのに、曲は全然派手じゃない!音数少なめの今っぽいR&Bなんですが、HOOKが良いのと、ビジュアル含めてドンピシャだったので彼女が1番の収穫でした。昨年には「SAILOR MOON」なる曲をリリースしていたようで、ジャケットとMVがまんま過ぎて、ネタ系かな?なんて聴いてみたら意外に良くて度肝ブチ抜かれました。ひょっとしたら、ひょっとするかもなスター性を秘めてる気が…。要チェケラ!

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Snoh Aalegla / TEMPORARY HIGHS IN THE VIOLET SKIES

デビュー時からずっと好きでアルバムがリリースされる度に前のめりで聴いてるSNOH AALEGRAの最新作。リードシングルの「LOST YOU」からして格好良さがハミ出てましたが、やっぱり良かったですね。声が最高というかもうツボなんです。以前ビルボードでのライブが中止になってしまったので、いつかは生で拝みたい。

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『つつがない生活』INA

現実に寄り添いながら、現実を飛び越えるような表現。そのバランス感覚が最高。これだけ生活の匂いを感じるマンガがあるだろうか。ストレスは日常でぼとぼとと地面に落とされていく。取り除いていくことは不可能だけど、実はそれを路傍で拾い上げる事がふと救いになることもある。ラストできらめくイヤリングが象徴するようにどこかで続いていく生活がひたすら愛おしい。

http://to-ti.in/product/tsutsukatsu

澁谷浩次 / Lots Of Birds

バンドyumboのリーダー、澁谷浩次初のソロアルバム。ロバート・ワイアット『ロック・ボトム』やルーリード『コニー・アイランド・ベイビー』の隣に並べたいような、1人でこっそりと聴きたくなる親密で静かでユーモラスな11の小さな物語を収録。志賀理江子の写真を使用したアートワークも素晴らしい。

bandcamp

V.A. / Wounds of Love: Khmer Oldies, Vol.1

サウンドシステム導入以前のジャマイカ音楽に焦点をあてたシリーズ『If i had a pair of wings jamaican doowop』が刺さりまくったロンドンの発掘専科Death is not the endのニューリリースは60年代カンボジアン・オールディーズ・コンピレーション。いわゆる辺境ものコンピとは一味違う、気を衒わないセレクトに感銘をうけます。何の変哲もないただの名曲l Love Only Youに涙。

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Ruth Mascelli / A Night At The Baths

ニューオリンズの No Waveパンク、Special Interestのメンバーによるインダストリアル・テクノなソロ1作目。フロア仕様のハードテクノもイカすけどトリッピーなシンセのアンビエントトラックがええ感じで良く聴いた。クールなアートワークはやっぱりStudio Tape Echo。

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bandcamp

Eve Adams / Metal Bird

カナダのポストパンクCrack Cloud界隈から現れたシンガーによるフォーキー・バラッド集。リンチ作品あるいはダグラス・サーク作品に漂う50年代アメリカの妖気に満ちたダークでメランコリックな一枚。Military Geniusによるサイケデリックな味付けのプロデュースも絶妙。

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bandcamp

『僕らのままで We Are Who We Are』

イタリア内のアメリカ、キオッジャ米軍基地で暮らすティーンとそれを取り囲む大人達との青春群像劇。眩い陽光の下を彷徨う主人公フレイザーを追い続ける陶酔的な第一話から一気に駆け抜ける全8話。大人も子供も正しさなんて分からないまま、揺らぎ続ける感情とその一瞬を焼き付けたルカ・グアダニーノの鮮烈作。最高!

『Covid 33』山本美希

いま未来の話を書くこと。たとえその未来が明るい未来でなくとも、そこにあるかもしれないかすかな希望をキャプチャーしようとすること。いまだ感染症が蔓延する2037年を舞台に創作と祈りについての短編20ページ。ランバーロール04に掲載。

http://to-ti.in/product/covid-33

『すばらしき世界』西川美和監督

人生の大半を刑務所で過ごした元ヤクザの男が、還暦を前に出所し、社会復帰のために悪戦苦闘する物語。
生活保護の実態と自己責任論、格差社会とキャンセルカルチャー、息苦しく閉塞的な現代の日本を「すばらしき世界」というタイトルでユーモラスかつ切実に描いた2021年最も心に響いた作品。

カテゴリー
FEATURES

Big Crown Records
–未来のヴィンテージサウンド

ヴィンテージやらレトロやらといったワードは耳にタコ、レコードショップに生息し音楽好きに囲まれて生きているともうちょっとげんなりするほどよく聞くワード。しかし、そんなヴィンテージなサウンドにももちろん色々とあって50’s〜60’sにただただ忠実なだけではなく(意図してか意図せずか)当時の空気感や匂い?みたいなものまで浮かびあがらせ、さらにはそれを現代的にアップデートしてしまう、「一体いつの音楽なんだ?」そんな「?」が浮かぶ不思議なヴィンテージサウンドがごくごく稀にある。そのリアルに血肉化された、ただの真似事とは一線を画すサウンドは私のようないわゆる「ヴィンテージなサウンド」に懐疑的なリスナーにとっても新鮮に響く。

アメリカのブルックリンを拠点にするインディペンデントレーベルBig Crown Recordsはまさにそんなサウンドの宝庫。現行ソウルのリリース&ディープファンクのリイシューなどで知られる名門「Truth & Soul」の消滅後、オーナーであったLee Michelsが2016年に発足して以降、玄人達(あまり使いたくないワードだが)を唸らせる数々のリリース続けている。ようやくアナログリリース(Big Crownのアナログは音いい!)されたチカーノソウルレジェンドSunny & The Sunlinersの最高カバーアルバム『Dear,Sunny』,スウィートソウルの可能性を追求するHoly Hiveの新規軸シングル『I Don’t Envy  Yerterday』,そして『Bye Bye』『Long Day』と立て続けに傑作シングルをリリースしているBrainstoryなど2021年も話題に事欠かないBig Crown Recordsの魅力をいまさらながらご紹介!ページ最下部のプレイリストとあわせてどうぞ。

Brainstory

髭と髭と髭による3人組、ブレインストーリー。まず名前が最高にイカしてる彼らはカリフォルニアのストリートから現れたBig Crown最注目のソウルバンド。 L. A.のまばゆい陽光の下鳴らされるとろけるようなスウィートソウルが中心だが、どれもどこかやるせなく情けない。『インヒアレント・ヴァイス』的煙たいサイケデリック感覚とジャズからの影響も特徴的で1stアルバム『Buck』最終曲”Thank You”なんかはサン・ラがラスカルズの”Groovin”を演奏してるかのような得体の知れなさがなんとも魅力的だ。2021年リリースのニューソング”Bye Bye”はホワイトアルバムさながらの異常なまでにぐしゃっと中域にまとまったサウンドに「バイバーイ」のコーラスが頭にこびりつく大名曲。いま一番キテるのは彼らかも。

Holy Hive

オーセンティックな”いい曲”のオンパレードに見えて、アンサンブルの可能性をひたすらに模索しているようなスウィート・フォーキー・ソウル。これだけでずっと聴いていたくなるようなファルセットボーカルと、とにかくツボを押さえまくったHomer Steinweissのドラミングは最高の一言。あえて名前を出したのは、名だたるビッグネームのバックでも叩いてる事と、Daptonesの諸作品への参加も含め、Big Crownからのリリースに共通するドラムの”良さ”がただの過去への眼差しの焼き直しにならないところ。肝な部分だなと思います。

The Shacks

マルチプレイヤーMax Shragerとシンガー&ベーシストShannon Wiseによるニューヨークの2人組。クロディーヌ・ロンジェの如きミステリアスなヴォーカルの囁きとアメリカンクラシックなバンドサウンドはいつの時代でも「生まれる時代を間違えた」と嘆くティーンに希望を与えるのに充分すぎるサイケデリックな煌めき。アップルのCMに起用されたKinksの脱力カバー”The Strange Effect”も最高だが、気怠い夏のサウンドトラック第1位はこの曲だったはずのプールサイドレゲエ”Hands in Your Pocket”や『Dear Sunny…』収録の”Smile Now , Cry Later”のカバーに滲み出る浮世離れ感がこのバンド最大の魅力だろう。

Bobby Oroza

Big Crownの伊達男、ボビー・オローサはフィンランド生まれのソウルシンガー。レコードコレクションの宇宙から飛び出てきたようなヴィンテージサウンドはまさしくBig Crownな音だが、リヴァーヴのひとつとってみても異常な説得力を持って鳴る未来のローライダー・サウンド。これは真似事ではなくオリジナル、新しさよりもさらに新鮮なのです。常につきまとう甘くディープな哀愁は同郷のアキ・カウリスマキ映画のようでもあり(劇中でも使われた)クレイジー・ケンバンドのような風情まで滲み出る、『This  Love』はEarl Sweatshirtがサンプリング。

79.5

風通しのいいグッドミュージックにESGやPatrick Adams的なNYダンスミュージックの変異性を抽出して、ぽたぽたとスポイトで少しずつ垂らして作り出したような音楽。気怠げながら暗くならない軽やかさをもつキュートさが魅力。Big Crownからは様々なジャンルのリリースがありながら、ニューヨークの土着的なストリート感覚があり、新たな視点をもたらしてくれるような音楽が多く存在していて、映画や小説で目にしたような生活の一部を覗かせてくれるように思う。

Big Crown Records HP
https://bigcrownrecords.com/