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FEATURES PLAYLIST REVIEWS

FYOC Favorites 2022

今年もFYOCに関わってくれたみんなのフェイバリットを集めました。今回はひとまず音楽編。まぁ本当にいろいろありますけど相変わらずイケてる新譜やまだ聴いたことない復刻ものなんかを探してる時間やそれを聴いてる時間はなにより有意義です。死ぬまでどのくらいの音楽に出会えるか分かりませんが一枚でも多くの素敵なレコードに出会えますように。最近はほんと素直にそう思います。

アメリカ、イギリス、スペイン、ベルギー、ドイツ、オーストラリア、日本…世界中の音楽家達のニューリリースから知られざるマイナーガレージ復刻盤、偉大なプロデューサーの宅録発掘音源に海賊ラジオのミックステープなどなど2022年FYOCのお気に入りです。それでは年末年始の暇時間にでもぜひ。

“やりきれないことばっかりだから、レコード、レコード、レコード、レコード、レコード、レコード、レコード、レコード、レコード、レコード、レコード、レコード、レコードを聴いている、今日も” ECD「DIRECT DRIVE」

Naomie Klaus / A Story Of A Global Disease

昨年末にフランスのレーベルBamboo ShowsからカセットでリリースされていたベルギーのプロデューサーNaomie Klausによる1stアルバムをスペインのエクスペリメンタル系レーベルAbstrakceがアナログリリース。ダビーなレフトフィールド・ポップにゆるいラップが乗る「Tourism Workers (Arrival)」などはLeslie Winerに通ずるところも。

Lucrecia Dalt / ¡Ay!

コロムビア出身で今はベルリンで活動するエレクトロニック・アーティスト。夢の中を彷徨う幽幻なサウンドテクスチャーとラテンのリズム、Don the Tiger 「Matanzas」の隣に置きたい独創的なモダン・エキゾチカ。南米で撮られた2022年映画『メモリア』における記憶の旅路のサウンドトラック、もしくは架空の街に想いを馳せるスリープウォーカーの頭の中、エレクトロニクスとフォークロアのこれ以上ない完璧な融合。

Act Now / Louis Adonis/Wow Factor

メルボルンのポストパンク・バンドTotal CountrolのJames VinciguerraとF INGERSなどの活動でしられるエレクトロニクス・アーティストTarquin Manekによるコラボシングル。ダビーなリズム・プロダクションにフリー・フォームなクラリネットをフィーチャーした遊び心溢れるミュータント・テクノ・ダブ。ジャングルっぽいリズムに流れ込むSide1もいいがBasic ChannelとJohn LurieがコラボしたみたいなSide2が至高。Yl Hooiをはじめオーストラリアのアンダーグラウンドはとても面白い。

MOBBS / Untitled

NTSのレギュラーも務めるサウスロンドンのDJ/プロデューサー、2017年以来のフルレングス。粗くざらついた質感のサウンドテクスチャーをベースに真っ暗な地下で鳴るインダストリアルなダンスホール、トラップ、ドリルなど14トラック。去年がSpace Africa「Honest Lobor」なら今年の気分は間違いなくこれ。ダンスホール・リディム集「Now Thing 2」のレーベル”Chrome”からのリリース。

IC-RED / GOODFUN

最高にSickな音を届ける詳細不明のラップデュオ、アムステルダムの”South of North”からリリースされたカセット作品。チカラの抜けたダルそうなラップとアブストラクトな電子音にポストパンク的DIYサウンド、Love JoysとThe Slitsが共演したみたいな奇跡の格好良さ。なんのルールにも囚われず鳴らされた音楽からしか聴こえないクールな佇まいに加えてひとつひとつの音選びには並外れたセンスが光る。

Jabu / Boiling  Wells(Demos 2019-22)

ブリストルのアーティスト・コレクティヴ Young Echoの3人組がひっそりとリリースしたデモ音源集。この作品で鳴らされるエコーまみれの甘美なトリップホップはこんな時代にもメランコリックでドリーミーな音楽が有効であることを教えてくれる。シンプルなドラムマシンに反響して溶け合うヴォーカルとシンセサイザー、現実に向き合うためにたまには音楽に逃避するのもいい。

V.A. / Ghost Riders

Rising StormからNora Guthrieまで収録した名作コンピ「Sky Girl」やオーストラリア現行エクスペリメンタル・ダブYl Hooiのアナログリリースなどで知られる”Efficient Space”からまたしても最高コンピレーション。トワイライトなフィーリングを軸に超マイナー・フォーク~ガレージを17曲、アートワークから曲順まで拘られた丁寧な作りに感動。夏の終わりのように儚く美しい、プリミティブな録音物からしか体験し得ないムードを忍ばせた素晴らしい1枚。ラスト3曲の流れはいつ聴いてもぐっときます。

Yosa Peit / Phyton

ドイツのシンガー、プロデューサーが2020年にリリースした1stアルバムをUKのインディーレーベルFireがDLコード付のホワイトカラー・ヴァイナル仕様でリイシュー。ジャンクでロウなブレイクビーツにNeneh Cherryを彷彿とさせる妖麗なボーカルが絡む「Anthy」は必聴。

Rosalia / Motomani

フラメンコ、レゲトン、バチャータ、R&B、ヒップホップ、、、、をアヴァンギャルドに折衷したエキセントリックな超ポップアルバム。サンプルにも使われたBurialをはじめ、Arthur Russellなんかの意外なとこまで古今東西ジャンルレスな影響元をぶち込んだ変態的センス炸裂のプレイリストと併せて聴くと楽しさ倍増。ミニマルなフレーズの反復と魔法のチャント「Chicken Teriyaki」,Frank Ocean風バラード「Hentai」など、こんなイカれた音楽が世界中で聴かれているなんて最高だしアートワークもやばい。

V.A. / Pause for the Cause : London Rave Adverts 1991-1996, Vol.1~2

世界各地に埋もれたオブスキュアな音源を発掘&リリースするロンドンのレーベルDeath Is Not The End。本作は、90年代にロンドンの海賊ラジオで流れていたアンダーグラウンドなレイヴパーティの告知CMをミックスした超マニアックな内容。当時のロンドンクラブミュージックシーンの熱気を追体験できる最高のドキュメント。

V.A. / Pure Wicked Tune: Rare Groove Blues Dances & House Parties, 1985-1992

Death Is Not The Endからもう一作。本作は、80年代中頃から90年代初頭にサウス~イースト・ロンドンの小規模なダンスパーティーでプレイされていたDIYなカセット音源をコンパイルしたミックステープ。ソウルやファンクなどのレアグルーヴをサンプリングし、サイレンやトーストを加えレゲエマナーに仕上げた独自のサウンドは、新たなジャンルの誕生を予感させるものだったが、90年代初頭のクラブ・ミュージックの台頭の中で埋もれてしまったそう。UKのサウンドシステムカルチャーの隠れた一面を窺い知れる貴重な音源集。

Dawuna / EP1

ブルックリンのシンガーDawuna、2021年「Glass Lit Dream」も良かったけどこの最新EPも相当やばい。鼓膜の内側にグッとくるくぐもった音質のインナー・ソウル・バラードを3トラック、前作からあったビートの実験性を残しながらもNearly Godの内省とD’Angeloの官能を同時に感じさせるようなメロディとボーカル、無二の存在感。

Slauson Malone / for Star(Crater Speak)

我らがSlauson Maloneの2022年ニューEP。各楽器が去勢されたように静かなアンサンブルを奏でるSmile #8 (Je3’s Eextendedd Megadance Version for Star)(see page 182) 、Loren Connorsまで想起させるダークなアンビエント・ノイズSsmmiillee ##55の2曲を収録。マッドな質感を残しながらもタイトル通りのスピリチュアルな展開に次作への期待も高まるばかり。

Beyonce / Rennaissance

先行シングル「BREAK MY SOUL」が出た時から興奮しっぱなしだったけどアルバム冒頭Kelman Duran参加&Tommy Wrght Ⅲサンプルの「IM THAT GIRL」でブチ上がり、「ARIEN SUPERSTAR」まで息継ぎ出来ませんでした、かっこよすぎ。Kendrick LamarのDuval Timothy参加の新作でも思ったけどアンダーグラウンドと結びつきながらも圧倒的な作家性と表現のスケール感を崩さないバランス感覚はさすがとしか。

quinn / quinn

Standing On The Corner、Slauson Maloneをフィバリットに挙げる17歳のラッパー/プロデューサー。絶妙な音の汚し方に脱臼したようなギター、変調したボイスサンプルのコラージュなどSOTCライクな要素は至るところに。しかし本作のハイライトは「been a minute」や「some shit like this」で聴けるロウなボーカルと内省的な胸をうつメロディにこそきっとある。

Babyfather , Tirzah / 1471

Dean Bluntの別名義Babyfather、Tirzahと DJ Escrowをフィーチャーしたニューソング。突然止まったり、つんのめったりするバグを起こしたワンループにTirzahのドリーミーなヴォーカルか乗るわずか104秒の素晴らしいUKソウル。Dean Blunt名義でリリースされたアコースティックな新曲「death drive freestyle」も要チェック、こっちは歌声が滲みる。

Quelle Chris / Deathfame

デトロイトのヒップホップ・プロデューサー/ラッパーによる7作目。「Feed The Heads」、「Cui Prodest」あたりの埃っぽいローファイなビートとダビーなサウンド・プロダクション、「King in Black」のスクリューされたトリップホップ、Sun Raのヴォーカル曲のようなピアノ小曲「How Could They Love Something Like Me?」など、いわゆるオルタナティブと形容されるヒップホップ作品にはやや食傷気味だった自分にも相当刺さった。Pink Siffu、Navy Blue参加。

Warm Currency /  Returns

シンプルであることはとても重要、例えばギターひとつとっても和音を鳴らすのか短音で弾くのかそれだけでも大きく違う。シドニーのデュオWarm Currencyのデビューアルバムで展開される極限まで削ぎ落とされた静謐なフォーク・ミュージックは生活音や自然音を効果的にコラージュしリスナーにあらゆる情景を浮かばせる。この研ぎ澄まされた静けさはKali Malone、もしくはMaxine Funkeやalastair galbraithのファンにも届くだろう。

Big Thief / Dragon New Warm Mountain I Believe in You

フォーク・ミュージックの歴史を無意識的に受け継いでいるかのような軽やかさとリアルな生活と地続きのサウンド。人間同士の繋がりがまだバンド・ミュージックにおいて魔法を起こし得るのだと教えてくれる真ん中に集まったミニマムなバンド・アンサンブル、それとは一転90年代初頭のニール・ヤングのようにハードなギターとレヴォン・ヘルムさながらのタイム感を持ったドラミングが印象的な来日公演も素晴らしかった。

Sam Esh / Jack Of Diamonds/Faro Goddamn

アメリカのアウトサイダー・ギタリストSam Eshの音源集、オリジナルは90年代にリリース2本のカセットテープ。とにかく乾ききったサウンドとあまりにプリミティブな演奏が衝撃的なストリート・ブルース。荒々しくかき鳴らされるワンコードの反復と独自の言語(?)のハウリングによる異形のミニマル・ミュージック。

Born Under A Rhyming Planet / Diagonals 

Plus 8 から90年代前半にシングルを数枚リリースしている Jamie Hodge による未発音源集。恥ずかながらはじめて存在を知りましたがもう最高の音しかつまっていないピュアでソウルフルな電子音楽、スウィングするドラムマシンによるジャズテクノ「Menthol」「Fate」「Hot Nachos with Cheese~」、微睡みのダウンテンポ「Siemansdamm」、繊細なリヴァーヴ処理とシンセが煌めくコズミックな「Handley」、エクスペリメンタルなビートとアンビエントな雰囲気を纏った「Intermission」など全曲最高。

Valentina Magaletti / A Queer Anthology of Drums

Al WottonとのHoly Tongueの新作も素晴らしかった打楽器奏者、デジタルオンリーだった2020年作がアナログリリース。ヴィブラフォンやトイピアノ、フィールド音を絡めながら打楽器のインプロヴィゼーションを展開する密林的エクスペリメンタル・パーカッション作品。呪術的な反復はときにMoondogやCanまで想起させる、いま一番刺激的なサウンドを届けてくれるパーカッショニスト。

CHIYORI × YAMAAN / Mystic High

メンフィス・ラップとアンビエント、ありそうで意外となかった最高の組み合わせ。音の快楽性に加えてポップな歌メロもあって年始はこれと宇多田ヒカル「BADモード」、Cities Aviv「MAN PLAYS THE HORN」ばかりリピート。とりわけ本作のアンビエント的メロウネスとメンフィス・ラップ由来のチープな質感による気持ちよさは中毒的。

V.A. / SUBLIMINAL  BIG  ECHO

今年1番のサイケデリックな音盤!ジャパニーズ・アンダーグラウンド音楽家11組がDUBをテーマに持ち寄った脳みそトロける12トラック。Hair Stylisticsの超ドープなスロー・ダブからTOXOBAMへの流れがいつ聴いても最高。TOXOBAM「HOT GOTH」のリリースで知られる”SLIDE MOTION”から。

Hallelujahs / Eat Meat, Swear an Oath

ラリーズのオフィシャル・リリースは事件だったが日本のサイケデリック・ロックにおいてはこれも忘れちゃいけないはず、ハレルヤズ86年作実に25年ぶりのリイシュー。Galaxie 500をはじめとするスローなサイケデリック・ギターロックに先んじて鳴らされたいま聴いても新鮮な楽曲達。フィジカルでは手に入れづらい状態が続いていただけに嬉しい再発です。リリース元は日本のアンダーグラウンド音楽を多数リリースするアメリカのBlack  Editionsで来年はWhite Heaven 「Strange Bedfellow」のリイシューも予定されている。

Charles Stepney / Step on Step

シガゴの伝説的プロデューサー、アレンジャー、作曲家Charles Stepneyによる70年代宅録音源集。チープなヴィンテージ・リズムボックスとアナログシンセをメインにホーム・レコーディングならではの親密さを感じさせる23トラック。Angel Bat DawidやJeff Parkerなどをリリースするシガゴの名レーベルInternational Anthemのナイスワーク。

HiTech / Hitech

デトロイトの天才Omar Sの”FXHE”からリリースのゲットー・テクノ・デュオ。ハウス、トラップ、フットワークなど多彩なビートを操り夜の街をクルーズする洒脱なシティ・ミュージック。メロウなシンセもフィメール・ヴォーカルも絶妙にちゃらくならなくてそこが良い。これがきっと都会の音楽。

OMSB / Alone

think god以来、7年ぶりのフルレングス。2020年以降多くの人が考えただろう当たり前の大切さとかありふれた幸せ、不味いたこ焼きを食ったり暇持て余して公園行ったりする「One Room」の日常はそんな当たり前を特に美化するわけなく淡々と少しだけユーモラスに切り取っている。人それぞれの日常にそれぞれの孤独が転がっている、そんな当然のことを教えてくれる。

Whatever The Weather / Whatever The Weather

朝のしんとした空気には静謐なアンビエント”25℃”、ドリルンベースの“17℃”は帰りの電車で、寒くなってからはメランコリックなシンセ・トラック“10℃”が肌にあう。Loraine Jamesアンビエント名義のデビュー作はアーティスト名通り、温度や湿度を感じさせるようなエレクトロニック・ミュージックであらゆるシチュエーションで良く聴いた。渋谷CIRCUS公演も最高だった。

V.A. / To Illustrate

レゲトンにインスパイアされたクラブ・ミュージックやダウンテンポ、UKベースの変種などbpm100前後で展開される低いテンポの先鋭的エレクトロニック・ミュージックをwisdom teethがコンパイル。大阪のabentisによるアンビエントなフィールを持ったダンスホール「Bicycle」、同じモードのFactaとYushhの「Fairy Liquor」、韓国のsalamandaのメロウなダブ・ステップ「κρήνη της νύμφης」あたりが個人的には白眉。

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FEATURES REVIEWS

The Oz Tapes / 裸のラリーズ 発売記念リスニング・パーティー @渋谷WWW X

会場内BGMはMJQ。気のせいかさりげなくDUB Mixが施されてるような。お香も焚かれていい雰囲気。ステージ向かって正面の壁一面はスクリーンが張ってあって、両端には水谷孝本人のものと思われるギターとアンプが設置されている。ステージ向かって右にビグスビー付きの黒いFenderテレキャスターとギターアンプGuyatone 2200。向かって左はやはりビグスビー付きの赤いGibson SGとこちらもキャビのみ右と同じGuyatoneで、ヘッドがMarshallというセット。

MJQにフェードインする形でオープニングアクトYoshitake EXPEの演奏がスタート。エレキギターによるインストで、明快なテーマが数珠繋ぎに切れ目なく展開していく素晴らしい演奏。
どこまでも伸び続けるようなサスティーン音に我知らずうちに浸りきっていると、突然照明が激しく点滅し同時に大音量のフィードバックギターが鳴り響いた。それまでの顕微鏡を覗き込んでいたようなピースフルな雰囲気が一転、ドレによるダンテ神曲のあの世界に。軽く恐怖を感じた。地響きのような大音量ではあるけども超重低音のそれではなく、中低音に焦点の合ったボコっとした音像で、下腹部~胸のすぐ下あたりを中心に全身へ振動が響き渡って気持ちがいい。身体が揺れて思わず踊り出したくなる。
The Velvet UndergroundのQuine Tapesのような親近感と、この時点ではまだ原石の輝きというか、ならではの愛らしさと激しさの眩惑感で満ちていて、The Original Modern Loversのような瑞々しさ。凶暴でありながら素朴で懐かしい音を奏でるバンドのこの圧倒的な個性は、やはりリーダー水谷孝の資質によるものなのだろうか。曲がレコードA面最後の“白い目覚め”になると、正面スクリーンに水谷孝とバンドの写真の数々が投影されて、胸がいっぱいに。写真は過去何度となく目にしてきたものだが、とにかくかっこいい。常に気品というか可憐さみたいなものがあって、これまでも目にするたびに思ってきたことだが、やっぱりいつ見てもかっこいい。

裸のラリーズといえばノイズギター。とまずはなるけれど、同じくノイズギターと形容されるようなUSオルタナ、或いはUKシューゲイザー、そのどちらとも違うものだと個人的には思う。
特にThe Oz Tapesでは、後の’77 Liveともまた違う剥き出しのバンドの姿が収められていて、The Velvet Underground、Jimi Hendrix、60年代後期サンフランシスコのサウンドetc…、それらが渾然一体となってこちらに向かって転がってくるようなグルーヴ感がかっこいい。サイケデリアという視点から考えてみると、アシッドなロックからMJQまでを横断する開かれたセンスは、今こそ広く聴かれるべきものがあると思う。Trad Gras Och StenarとShin Jung-hyeonと並べておきたくなるこのレコードの再発レーベルの大元がLight in the Attic Recordsというのに納得だ。

本公演はリキッドライトが全編に渡ってステージ上スクリーンに映し出される演出がなされていて、これがとても素晴らしかった。繰り返すリズムと響き渡るエコーに映像空間がリンクして意識がフラクタル状に溶けていくような、そんな音楽の醍醐味がたっぷり味わえた。さらに久保田麻琴によるライブMix、会場の音が本当に素晴らしく、まるで生きているかのようなバンドサウンドで、レコードを聴いて改めてあの場の凄さを実感した。

ラスト曲でステージ左右に設置されていたギターアンプがオン。
バンド演奏のフィードバック音がもつれ重なり混じりあって回転し続ける音像がとてもかっこよかった。

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COLUMN FEATURES REVIEWS

Are You Experienced『Rくん』?

君は『Rくん』を聴いたことがある?というか体験したことがある?ないならいますぐ bandcampで買おう。黒バックにゴシック体の怪しいジャケット、匿名的なタイトル。きっと検索には引っかからないだろう。東京で活動するシンガーソングライター、ダニエル・クオン(Daniel Kwon)による変名プロジェクトである本作は2013年リリース当時、超局所的にではあるが多くの賞賛と驚きを生んだ。少なくとも僕の周りの数少ない音楽好きはそうだった。

はじめて聴いたのは立川の珍屋というレコード屋だったと思う。ハーシュノイズのような雨音、街の雑踏や波の音、サイレン、ナレーション、校内放送などが次々とコラージュされていくエクスペリメンタルで一聴して偏執的な拘りを感じるポップアルバムに思わずレコードを掘る手も止まった。録音は当時ダニエル・クオンの職場であった小学校と自宅スタジオで行われたらしい。子供の遊び声や給食放送らしき献立の紹介に合唱などあどけない小学生の声は多くの曲で聴くことが出来るし、グランドピアノやヴィブラフォン、ティンパニなどの音楽室の楽器達が本作にはよく登場する。

僕はこのアルバムに出会ってからというもののしばらくは『Rくん』の世界から抜け出せなくなってしまった、いまでもたまに聴くとやはりなんだか危うい気持ちになる。危うい気持ちというのは、あんまり深入りしちゃいけないのにどうにも抑えがきかない感じというか、つまりとにかく中毒的で気軽に覗いてはいけないものを見てしまった時の様な不思議な魅力がある。とりあえず冒頭の「Rainbow’s End」だけでも聴いてみてほしい、出来れば大きい音でヘッドフォンで。雨音のようなノイズからはじまり、囁かれる”レッツゴー、ワントゥー、レッツゴー、ワントゥー”。ダークで美しい響きを持ったメロディはもちろん、とにかく拘られた録音とミックスからは遊び心を超えた何かやばみを感じさせる。左から流れる不穏なシンセサイザーの持続音を断ち切るように唐突に入るアコギ、右から左へと侵食していく波の音、サイレン、スネアロール…ここまでくればあとはもう音に耳を任せるだけだ。もう一曲選ぶなら「Happy4ever」だろう、ここではまるで映画『インセプション』のように——脈絡のない他人の夢や脳内を漂っているかのような感覚を僅か11分でユーモラスに表現してみせる。

バンドミュージック、ヒップホップ、テクノ、ハウス…ジャンルを問わず、あるひとりのアーティストの内面や作家性が強烈に出た作品——録音、編集、ミックスをダニエル・クオンがほぼ1人で手がけた本作からは他者との交わりではないところから生まれたアート、それにしかない引力がある。ややラフな質感の穏やかなエンドロール「#9」で彼は日本語でこんな風に歌ってアルバムが終わる。

“金縛りはないよ、ほとんどないんです 頭が真っ白”

bandcampではタイトルが『Love Comedy』に変更されジャケットも差し替えられているが、$5払えばすぐに買える。異国の地の音楽室やアパートで作られたねじれたダークファンタジー、ひっそりとでいいから語り継ぎたい名作だ。

ちなみにCDのブックレットには大島渚をはじめとするスペシャルサンクス欄があって、作品を読み解くヒントにもなりとても面白い。

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FEATURES PLAYLIST

Forge Your Own Tapes vol.4
FYOC’s Exotica Feeling

最近エキゾってよく聞きますが正直しっくりこないものがほとんどじゃないですか。マーティン・デニー〜アーサー・ライマンなどを通過したいわゆるエキゾチカはいまや様々な文脈を経て新しいエキゾ感が生まれているように思います。ヨーロッパ各国のビートミュージックや先鋭的なジャズ作品なんかを聴いているとかつてあったエキゾシチズム=異国情緒的な感性とはまた違った新鮮なフィーリングを呼び起こさるように思うのです。ということで今回は唐突にFYOC的エキゾ特集、最近リリースのものからクラシックまで、2022年に聴くにもジャストな作品を選びました。記事中の楽曲プラスαのプレイリストは最下部に貼ってますのであわせてどうぞ。

Don the Tiger / Matanzas

Crammed Discs, 2018

バルセロナ出身、リディア・ランチやマーク・カニンガムとの共演経験もあるというギタリスト兼伊達男、Adrian De Alfonsoによるソロプロジェクト。Timmy  Thomas meets Serge Gainsbourg(友人談)、もしくは「Rain Dogs」のエレクトロニクス版とも言えそうな郷愁ラテンエキゾチカ。密室的な鳴りのビートとパーカッションが肝なのはもちろん、アンビエント的感覚も内包したシンセ〜エレクトロニクスがなにより最高。本作は2018年リリースの2作目でリリースはなんとCrammed Discsから。街灯を登るお茶目な姿が見れるPVも必見。

Karabrese / Fleischchäs

rumpelmusig, 2021

スイスのプロデューサー/DJ、Sacha Winklerの2021年作「Let Love Rumpel (Part 1)」収録曲。生音+エレクトロニクスの絶妙なトラックの上にゆらゆらと彷徨うバリトンサックスとポエトリーが琴線を刺激、ふいに出てくるスナップやらリコーダー、カリンバもとてもいい塩梅。

Ramuntcho Matta / Écoute

Cryonic  Inc., 1985

Don Cherryとの共演でも知られるフランスの音楽家RAMUNTCHO MATTAによる85年作。bpm100前後のアフロパーカッションにフリーフォームなサックスが被さるMarimbula , 同時代のポストパンク〜ニューウェーブとの共振も感じさせる “Ecoute… ” ” Ibu”などを収録したエスノ・アヴァンジャズの傑作。翌年リリースの『24 Hrs』もあわせて必聴です。

Mamazu / Dada

SABI, 2021

東京拠点のDJ/プロデューサーMamazuによる2019年楽曲。呪術的なパーカッションとチャントが秘境へ誘う瞑想的ダンストラック。土着的サイケデリック感高濃度なオリジナルもナイスだが、エクアドルのプロデューサーNicola Cruzによる Remixも捨てがたい。野外で爆音で聴いたら堪らないだろうなぁ。

Angel Bat Dawid / Black Family

International  Anthem, 2019

シカゴ前衛ジャズシーンから現れたクラリネット奏者/作曲家による初リーダー作品『The Oracle』に収録。地鳴りの様なベースとタイトなドラムのうえを幻想的なクラリネットの旋律がふわふわと浮遊するスピリチュアル・エキゾジャズ。Sun Ra〜Alice Coltrane〜AAOCあたりを確実に継承しながらその先を感じさるモダンなプロダクションが素晴らしい。2020年『LIVE』での熱演も是非。

Bendik Giske /  Cracks

Smalltown Super Sound, 2021

ロシアン・レフトフィールドテクノの才人Pavel Milyakovとの共作アルバムも素晴らしかったノルウェーのサックス奏者。アブストラクトなサックスとパーカッションの反復が生む中毒性と酩酊感、スカスカの『空洞です』をさらに解体して『World of Echo』に一晩漬けたようなミニマル・エクスペリメンタル・ジャズ。

Ultramarine / Breathing

Les Disques Du Crépuscule, 2019

90年代初頭から活動するUKエセックスの二人組による2019年作『Signals Into Space』に収録。最近のMusic From Memoryのカタログとも共振するようなバレアリック〜ダウンテンポ。過去にはロバート・ワイアット、ケヴィン・エアーズ等との共演歴もあるようで、このレイドバック感はカンタベリーからの地続きと思うと腑に落ちるものがありますね。昨年リリースのEP『Interiors』も夢見心地な最高のメロウ・エレクトロニカ。

Mike Cooper / Oceans of Milk and Treacle

Room 40, 2022 

ブリティッシュ・ブルースの偉大なるギタリストにして90年代以降は実験的な音響作品を量産するマイク・クーパーの2022年最新作。ラップスティールギターが持つエキゾフィールと3種のサックスにフィールドレコーディングがコラージュされたエキゾ・アンビエント。ノスタルジックと簡単に言うのは憚られるような音世界はJon Hassellと並べても最早遜色なし。

Moondog / Snaketime Series

Moondog Records, 1956

いまあらためて聴きたいNYストリートから現れた盲目の音楽家による56年第1作目。東洋的な旋律とチャカコポ乾いたパーカッション、赤子や動物達の鳴き声までミックスされた永遠に謎めいたサウンドは何とも似つかないエキゾシチズムを纏っています。

細野晴臣 / 洲崎パラダイス

Speedstar Records, 2017

1956年の日活映画『洲崎パラダイス赤信号』からインスピレーションを得た2017年『Vu Ja De』収録曲。いまは存在しないものへの憧れから生まれるフィーリングがやはりエキゾの本質。この楽曲から漂う不気味さやいかがわしさにはその魅力の全てが詰まっているように感じます。

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FYOC Favorite List 2021

今年はいろいろな形でFYOCに関わってくれた皆様に2021年のお気に入りの作品を選んでもらいました。ニューリリースも再発もあり、アンダーグラウンドなビート・ミュージックから映画、ドラマ、漫画までFYOCらしい独自のリストになったと思います。シーンや時代の流れとは何ら関係なく極私的に選ばれたこのリストであってもなんだか2021年を感じさせてくれるから不思議です。今年はいろんな事情もあり清々しいほどマイペースな更新になってしまいましたが、2022年に向けて色々とワクワクするような企画も準備中、とりあえずはこちらのリストでもって2021年を振り返ってみました。
このページで紹介されている作品にさらに数十曲プラスした(Spotifyにあるものだけです)プレイリストも最下部に貼ってます。正月休みの暇時間のお供にどうぞよろしくお願いします!

Dean Blunt / BLACK METAL 2

元Hype Williamsの片割れによるニューアルバムは全編に腑抜けたギターをフィーチャーしたソフトサイケデリック、もしくは異形のアシッドフォークアルバム。あらゆるものから距離を置くような孤独でくたびれた歌がなにより素晴らしい、前向きさとはかけ離れたある人にとってはとてもひたむきな音楽。

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V.A. / SPLINT

ブリストルのネットラジオ局兼インディレーベル“Noods Radio”によるコンピシリーズ第二弾。乱打されるトライバルなパーカッションにスペイン語のフィメールボーカルが乗るミュータントなラガマフィン「Azione Reazione」など、乱暴なダンスホールナンバーに痺れる一本。カセットのパッケージもイケてます。

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Eva Noxious / Anti Todo

チカーノ・フィメール・ラッパーEva Noxiousの音源をオランダのエレクトロレーベル“Bunker”がコンパイル。爆音で聴きたい粗悪なビートと意外(?)にもドリーミーでフローティンな上モノが最高に癖になるG-Funk〜Phonk。あっという間に聴き終わる、全13曲23分。

Space Africa / Honest Labour

NTSのレジデントも務めるマンチェスターのデュオ最新作。最初はダブっぽかった前作の方が好みだったけど、ディープなエレクトロニクス〜ダウンビートを聴かせる今作も聴けば聴くほど良い。アンビエントトラックであってもUKガラージ由来のざらついたストリート感があって何よりそこにグッとくる。

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DRTYWHTVNS / Aloof

“Orange Milk”からリリースされたUSのラッパー兼トラックメイカーのデビュー作。トラップ、エレクトロ、ディスコ、ハウスをミックスしたカラフルでキャッチーなサウンドながら、”資本主義の世の中でインディペンデントな音楽活動を続ける事に対する苦悩”が歌われているというギャップに2021年らしさを感じる。

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KM / EVERYTHING INSIDE

今、飛ぶ鳥を落とす勢いのプロデューサーによるアルバム。このアルバムはリリースされてから今までコンスタントに聴いていた印象なので、個人的に今年1番聴いたんじゃないかなって思います。アルバム通して心地良いんですよね。朝昼晩いつでも聴ける感じ。中でも1、3、4曲目あたりが好きでよく聴いてました。ワンマンライブにも参戦して、人生初の最前列でかなりヘッドバンギンさしてもらいました。これからの活躍にも期待大!

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『逃げた女』ホン・サンス監督

これまでの集大成と思えるような完成度でありつつ、新しいフェーズに入ったかのような清々しさ。ホン・サンスと言えばのズームインはあれど、物語時間軸の入れ替えや繰り返しなど無くとてもシンプル。ひとりのごく個人的な映画のようでいて、この開かれた風通しの良さは一体なんだろうと思う。寂しげな影をひきつつ明るいムードを纏う主演キム・ミニの佇まいが素晴らしい。

Patrick Shiroishi / Hidemi

ロサンゼルスの日系アメリカ人サックス奏者によるエスペリメンタル・ジャズ・アルバム。情感溢れるセンチメンタルなフレーズがミニマル・ミュージック的反復のうえで現れては消える多重録音サックスソロ作。実験的ながらもミニマルなフレーズのループは体を揺らし、ときにエモーショナルなフレーズに心まで揺さぶられます。

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Yl Hooi / Untitled

オーストラリアはメルボルンの地下で活動するアーティスト。詳細はいまいち不明。オリジナルリリースはメルボルンの良質レーベル“ALTERED STATE TAPES”のカセット音源。80年代ダブの質感をアンビエント〜バレアリック以降の感覚でD.I.Yに表現したエクスペリメンタル・ポップ。マッドなビートが気持ち良すぎる「Prince S Version」、Love Joysのメルトダウン・カバー「Stranger」などが白眉。

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『ブラック・ウィドウ』ケイト・ショートランド監督

本格アクションを織り交ぜ綴られる登場人物それぞれの距離感、そこから提示される家族像にしみじみ。シリーズものとしての制約やジャンルの枠が、創作物語を成立させていたり、テーマや表現の工夫を生んでいるのではないか。往年の70年代アメリカ映画みたいなコンパクトかつ熱い感動と重ね合わせて観てしまうのは、そうしたところからかもしれないと思う。

BLAWAN / Woke Up Right Handed EP

UKのテクノプロデューサーBLAWANがバチバチに攻め攻めなフロアボムを投下。UKベース、ブリープテクノ、インダストリアル、ポストダブステップなどなどをハードにミックス。「Under Belly」の突っ込みすぎて割れちゃった感じのシンセとか最高。

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99 Neighbors / Wherever You’re Going I Hope It’s Great

昨年リリースしたシングル「GUTS」がとにかく格好良くて気になっていた、アーティスト集団によるアルバム。ラッパー、シンガー、プロデューサーが在籍しているので、曲ごとに魅せる顔が違って、メロウだったり、妖しかったりで1枚通して楽しめるから好きでした。BROCKHAMPTONと比較されがちみたいですが、個人的には格好良ければ何でも良いので、これからも動向を追っていきます!

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『フリーガイ』ショーン・レヴィ監督

現代的な題材や当然のCG映像表現ながら、古典的なアメリカコメディ映画のような愛らしさを感じた。特にライアン・レイノルズ演じるガイとその友人である銀行警備員との間には、とても感動的なバイブレーションがあって、ラストふたりの邂逅においてルネ・クレール監督『自由を我等に』を連想し思わず涙。チャップリンやキートン映画のようにイキイキ楽しい作品。

Leslie Winer / When I Hit You – You’ll Feel It

早すぎたトリップホップ、Leslie Winerの未発曲含むアンソロジー盤。90年代初頭の香りがムンムンする無骨なビートとダンスホール由来のマッシヴなベースラインが耳と腰にグッとくる今まさに最高な音、初出曲「Roundup Ready」だけでもマスト。アートワークだけが少し残念!

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V.A. / Late Night Tales Presents Version Excursion Selected by Don Letts

1978年のジョン・ライドン初ジャマイカ渡航にジャーナリストで近年自身の音源が再発されたビビアン・ゴールドマン(著作『女パンクの逆襲 フェミニスト音楽史』12/23発売)と同行し、フィルムメーカーでTHE SLITSのマネージャーでBig Audio Dynamiteのメンバーでもあるドン・レッツ。その彼の選曲によるJoy Division曲のレゲエDUBカバー含む全曲素晴らしいコンピレーション。

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『ジャングル・クルーズ』ジャウム・コレット=セラ監督

全体の出来というか、設定、脚本等の完成度その他諸々に思う事は色々とありそうなのは確かだとしても、テンポといい美術といい個人的にかなり好み。漫画『タンタン』や小説『エルマーの冒険』を読んだ時のような気持ちになってワクワク楽しんだ。追いつ追われつが螺旋状に広がる物語構造と世界を彩る明暗のコントラスト具合にニール・ゲイマンの小説も連想した。

Brainstory / Ripe EP

今年の夏はほとんど出かけてないから大体これでトリップ、“Big Crown”オール髭面バンドの最新EP。メロウな歌ものも相変わらず素晴らしいがソファーか沈み込んでいくようなドープで陶酔的なインスト曲が堪らなく気持ち良い。サイケデリックで清々しいほどにだらしない最高の一枚。

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『ハイ・フィデリティ』

2020年のHulu作品が今年Disney+で配信されて視聴。原作小説と映画版とは違うトーンで再構成されていて、テーマの切り口などは同じNYが舞台のNetflix『マスター・オブ・ゼロ』と少し似てる。この作品ならではの劇中音楽やレコードの扱いは変わらずとても魅力的で、フランク・オーシャンはかかるし、当然のようにNumeroの再発に親しんでいるような選曲。音楽監修クエストラブ。

Awich / 口に出して

まずは姐さん、祝・武道館!今や日本のHIPHOP界で文字通り最先端にいらっしゃるAwich姐さんのシングル曲にだいぶ食らいました。いやー、格好良い!!ダブルミーニング的な内容のリリックがもう堪りません!今年は2回ライブに行かせて頂いて文句なしに最高だったし、武道館ももちろん参戦予定です。どっぷりハマってます。はい。これからも付いて行きます!

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Wool & The Pants / 二階の男

MAD LOVE Recordsと初台のギャラリーLAID BUGの共同リリース「TWIG EP」収録曲。路上から密林に迷い込んだMoondog的エキゾ・ヴォーカル・ダブ??スローかつ重心低めにクルーズするビートとロウでスモーキーなヴォーカルに高まり、アウトロのサックスで昇天する傑作曲。クールなアートワークの限定10inchは探せばまだ買えるはず。

『わたしの“初めて”日記 Never Have I Ever』

Netflixドラマ。今年シーズン2が配信されて視聴。いわゆるアメリカ学園ドラマで、突然父親を亡くしてしまった10代の主人公を中心に笑いあり涙ありの日々がテンポよく描かれる。製作総指揮がミンディ・カリング(映画『ナイト・ビフォア』でセス・ローゲンにドラッグ詰めをプレゼントしたその妻役の俳優)と知るとより納得感が高まる内容。22年シーズン3配信予定。

Tiziano Popoli / Burn The Night – Bruciare La Notte : Original Recordings 1983 – 1989

イタリアのミニマル・コンポーザー80年代の録音をまとめたコンパイル盤、リリースはRvng Intl.とFreedom To Spendのダブルネーム。ミニマルなシンセ×Roland TR909ドラムマシンによるアヴァンニューウェーブポップ、アンニュイな脱力ヴォーカル入りのIunu-Wenimoなど2021年的にジャストなサウンドも多数。

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LAYA / Bitter

2021年、個人的発掘アーティストはこれ。
ジャケットは派手なのに、曲は全然派手じゃない!音数少なめの今っぽいR&Bなんですが、HOOKが良いのと、ビジュアル含めてドンピシャだったので彼女が1番の収穫でした。昨年には「SAILOR MOON」なる曲をリリースしていたようで、ジャケットとMVがまんま過ぎて、ネタ系かな?なんて聴いてみたら意外に良くて度肝ブチ抜かれました。ひょっとしたら、ひょっとするかもなスター性を秘めてる気が…。要チェケラ!

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Snoh Aalegla / TEMPORARY HIGHS IN THE VIOLET SKIES

デビュー時からずっと好きでアルバムがリリースされる度に前のめりで聴いてるSNOH AALEGRAの最新作。リードシングルの「LOST YOU」からして格好良さがハミ出てましたが、やっぱり良かったですね。声が最高というかもうツボなんです。以前ビルボードでのライブが中止になってしまったので、いつかは生で拝みたい。

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『つつがない生活』INA

現実に寄り添いながら、現実を飛び越えるような表現。そのバランス感覚が最高。これだけ生活の匂いを感じるマンガがあるだろうか。ストレスは日常でぼとぼとと地面に落とされていく。取り除いていくことは不可能だけど、実はそれを路傍で拾い上げる事がふと救いになることもある。ラストできらめくイヤリングが象徴するようにどこかで続いていく生活がひたすら愛おしい。

http://to-ti.in/product/tsutsukatsu

澁谷浩次 / Lots Of Birds

バンドyumboのリーダー、澁谷浩次初のソロアルバム。ロバート・ワイアット『ロック・ボトム』やルーリード『コニー・アイランド・ベイビー』の隣に並べたいような、1人でこっそりと聴きたくなる親密で静かでユーモラスな11の小さな物語を収録。志賀理江子の写真を使用したアートワークも素晴らしい。

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V.A. / Wounds of Love: Khmer Oldies, Vol.1

サウンドシステム導入以前のジャマイカ音楽に焦点をあてたシリーズ『If i had a pair of wings jamaican doowop』が刺さりまくったロンドンの発掘専科Death is not the endのニューリリースは60年代カンボジアン・オールディーズ・コンピレーション。いわゆる辺境ものコンピとは一味違う、気を衒わないセレクトに感銘をうけます。何の変哲もないただの名曲l Love Only Youに涙。

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Ruth Mascelli / A Night At The Baths

ニューオリンズの No Waveパンク、Special Interestのメンバーによるインダストリアル・テクノなソロ1作目。フロア仕様のハードテクノもイカすけどトリッピーなシンセのアンビエントトラックがええ感じで良く聴いた。クールなアートワークはやっぱりStudio Tape Echo。

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Eve Adams / Metal Bird

カナダのポストパンクCrack Cloud界隈から現れたシンガーによるフォーキー・バラッド集。リンチ作品あるいはダグラス・サーク作品に漂う50年代アメリカの妖気に満ちたダークでメランコリックな一枚。Military Geniusによるサイケデリックな味付けのプロデュースも絶妙。

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『僕らのままで We Are Who We Are』

イタリア内のアメリカ、キオッジャ米軍基地で暮らすティーンとそれを取り囲む大人達との青春群像劇。眩い陽光の下を彷徨う主人公フレイザーを追い続ける陶酔的な第一話から一気に駆け抜ける全8話。大人も子供も正しさなんて分からないまま、揺らぎ続ける感情とその一瞬を焼き付けたルカ・グアダニーノの鮮烈作。最高!

『Covid 33』山本美希

いま未来の話を書くこと。たとえその未来が明るい未来でなくとも、そこにあるかもしれないかすかな希望をキャプチャーしようとすること。いまだ感染症が蔓延する2037年を舞台に創作と祈りについての短編20ページ。ランバーロール04に掲載。

http://to-ti.in/product/covid-33

『すばらしき世界』西川美和監督

人生の大半を刑務所で過ごした元ヤクザの男が、還暦を前に出所し、社会復帰のために悪戦苦闘する物語。
生活保護の実態と自己責任論、格差社会とキャンセルカルチャー、息苦しく閉塞的な現代の日本を「すばらしき世界」というタイトルでユーモラスかつ切実に描いた2021年最も心に響いた作品。

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Big Crown Records
–未来のヴィンテージサウンド

ヴィンテージやらレトロやらといったワードは耳にタコ、レコードショップに生息し音楽好きに囲まれて生きているともうちょっとげんなりするほどよく聞くワード。しかし、そんなヴィンテージなサウンドにももちろん色々とあって50’s〜60’sにただただ忠実なだけではなく(意図してか意図せずか)当時の空気感や匂い?みたいなものまで浮かびあがらせ、さらにはそれを現代的にアップデートしてしまう、「一体いつの音楽なんだ?」そんな「?」が浮かぶ不思議なヴィンテージサウンドがごくごく稀にある。そのリアルに血肉化された、ただの真似事とは一線を画すサウンドは私のようないわゆる「ヴィンテージなサウンド」に懐疑的なリスナーにとっても新鮮に響く。

アメリカのブルックリンを拠点にするインディペンデントレーベルBig Crown Recordsはまさにそんなサウンドの宝庫。現行ソウルのリリース&ディープファンクのリイシューなどで知られる名門「Truth & Soul」の消滅後、オーナーであったLee Michelsが2016年に発足して以降、玄人達(あまり使いたくないワードだが)を唸らせる数々のリリース続けている。ようやくアナログリリース(Big Crownのアナログは音いい!)されたチカーノソウルレジェンドSunny & The Sunlinersの最高カバーアルバム『Dear,Sunny』,スウィートソウルの可能性を追求するHoly Hiveの新規軸シングル『I Don’t Envy  Yerterday』,そして『Bye Bye』『Long Day』と立て続けに傑作シングルをリリースしているBrainstoryなど2021年も話題に事欠かないBig Crown Recordsの魅力をいまさらながらご紹介!ページ最下部のプレイリストとあわせてどうぞ。

Brainstory

髭と髭と髭による3人組、ブレインストーリー。まず名前が最高にイカしてる彼らはカリフォルニアのストリートから現れたBig Crown最注目のソウルバンド。 L. A.のまばゆい陽光の下鳴らされるとろけるようなスウィートソウルが中心だが、どれもどこかやるせなく情けない。『インヒアレント・ヴァイス』的煙たいサイケデリック感覚とジャズからの影響も特徴的で1stアルバム『Buck』最終曲”Thank You”なんかはサン・ラがラスカルズの”Groovin”を演奏してるかのような得体の知れなさがなんとも魅力的だ。2021年リリースのニューソング”Bye Bye”はホワイトアルバムさながらの異常なまでにぐしゃっと中域にまとまったサウンドに「バイバーイ」のコーラスが頭にこびりつく大名曲。いま一番キテるのは彼らかも。

Holy Hive

オーセンティックな”いい曲”のオンパレードに見えて、アンサンブルの可能性をひたすらに模索しているようなスウィート・フォーキー・ソウル。これだけでずっと聴いていたくなるようなファルセットボーカルと、とにかくツボを押さえまくったHomer Steinweissのドラミングは最高の一言。あえて名前を出したのは、名だたるビッグネームのバックでも叩いてる事と、Daptonesの諸作品への参加も含め、Big Crownからのリリースに共通するドラムの”良さ”がただの過去への眼差しの焼き直しにならないところ。肝な部分だなと思います。

The Shacks

マルチプレイヤーMax Shragerとシンガー&ベーシストShannon Wiseによるニューヨークの2人組。クロディーヌ・ロンジェの如きミステリアスなヴォーカルの囁きとアメリカンクラシックなバンドサウンドはいつの時代でも「生まれる時代を間違えた」と嘆くティーンに希望を与えるのに充分すぎるサイケデリックな煌めき。アップルのCMに起用されたKinksの脱力カバー”The Strange Effect”も最高だが、気怠い夏のサウンドトラック第1位はこの曲だったはずのプールサイドレゲエ”Hands in Your Pocket”や『Dear Sunny…』収録の”Smile Now , Cry Later”のカバーに滲み出る浮世離れ感がこのバンド最大の魅力だろう。

Bobby Oroza

Big Crownの伊達男、ボビー・オローサはフィンランド生まれのソウルシンガー。レコードコレクションの宇宙から飛び出てきたようなヴィンテージサウンドはまさしくBig Crownな音だが、リヴァーヴのひとつとってみても異常な説得力を持って鳴る未来のローライダー・サウンド。これは真似事ではなくオリジナル、新しさよりもさらに新鮮なのです。常につきまとう甘くディープな哀愁は同郷のアキ・カウリスマキ映画のようでもあり(劇中でも使われた)クレイジー・ケンバンドのような風情まで滲み出る、『This  Love』はEarl Sweatshirtがサンプリング。

79.5

風通しのいいグッドミュージックにESGやPatrick Adams的なNYダンスミュージックの変異性を抽出して、ぽたぽたとスポイトで少しずつ垂らして作り出したような音楽。気怠げながら暗くならない軽やかさをもつキュートさが魅力。Big Crownからは様々なジャンルのリリースがありながら、ニューヨークの土着的なストリート感覚があり、新たな視点をもたらしてくれるような音楽が多く存在していて、映画や小説で目にしたような生活の一部を覗かせてくれるように思う。

Big Crown Records HP
https://bigcrownrecords.com/

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ひっそり教えたい S.O.T.A R&B10選

テキスト:藤井優

2021年1月に観たZORN氏のライブで良い幕開けができたなぁなんて思っていましたが、世の中は相変わらずで悶々とした日々を過ごしている今日この頃の私ですが、皆さんはどうですか?悶々としてますか?

大きなお世話はこのくらいにして、新しい生活様式になり、良くも悪くも時間を持て余す中で気づいたことは、新しいアーティストは日々出続けているってこと!ということで、ここ最近で気になったR&Bの駆け出し新人から人気シンガーを中心に10個くらいあげますね。ランキングとかじゃなくて格好良いなって思ったものをただただ羅列するだけなので横目でチラッとご覧下さい。

SNOH AALEGRA / DYING 4 YOUR LOVE

もはや人気シンガーの1人になったSnoh姐さんの最新シングル。とにかく声がめちゃくちゃ好きでアルバムもよく聴いていたんですが、この曲も相変わらず良いです。ちなみに姐さんとか言いましたが同世代です。こうも違うか。。。

RINI / BEDTIME STORY

’17年くらいに出たアルバムが良くて聴いていて、いつの間にか大手レコード会社と契約しちゃって売れるの必至な彼のシングル。曲はもちろん良いんだけどMVのアニメーションのクオリティーとかも含めて最高。

DEVIN TRACY / ThinkOfYou

最近の収穫第1位がこれ。見つけた時はドヤ顔カマしました。自分に。見た目も良い。曲は1分ちょっとしかないんだけど、なんだこいつって思わせるには充分の格好良さ。「EASY」って曲も出ててそっちも良いです。

AARON CHILDS / WARRIOR

’18年くらいに見つけた「MY WAY」っていうEPが良くて要チェックしてた彼のシングル。ザ・王道の現行ソウルな感じで良いです。アフロも似合ってるし羨ましい。アルバムらしいアルバムはまだ出てないのでそっちも期待したいところ。

KIRBY / WE DON’T FUNK

アルバム「Sis.」に収録。あのお方の影響をモロに受けてるんだろうなと感じれる曲で好きです。ジャケットの写真からして気になっちゃう。というか、これが入ってるアルバム自体格好良いので気になった方は是非聴いてみて下さい。

MADISON RYANN WARD / PLAYER

見た目的にノリノリのフロア受けのR&Bなんだろうな、なんて思ったけど全然違った。アコギメインの今っぽい音少なめなトラックから始まって歌い出した瞬間耳持ってかれました。良い声してます。

rum.gold / WAITING FOR feat.JAMILA WOODS

最近出会ったデュエット曲の中でのベスト。「aiMless」に収録されてます。JAMILA WOODSは出だしから文句なしに格好良いですが、そんな彼女に喰われることなくちゃんと存在感のあるファルセットで対抗するrum.goldもさすが。

PRIYA RAGU / GOOD LOVE 2.0

このアーティストも最近の収穫の1人。まだ2曲くらいしかリリースしていないらしく、本当に青田買いできて良かった。体が揺れちゃうビートが良いし急に転調する感じも好きでした。今後に期待してます。

LOONY / iN CODE

「JOYRiDE」収録のこの曲。これはみんな好きでしょ、きっと。HOOKのピアノの感じとか彼女の歌い上げ方とか最高。すごいポップだしテンション上げたい時に聴いても良いと思います。

TC Alone / FLOWERS

一昨年出た「COLD」って曲にすごいハマって聴いてたんですが、最近出したシングルも良かった。綺麗な声してて羨ましいのなんの。イントロのオルガンっぽい音と声が合ってて最高です。

というわけで、いざ書き始めたらあれもこれもみたいになって収集つかなくなりそうでしたが、とりあえず選べました。改めて見ると本当に色々な人がいますね。基本的に飽き性な私が音楽をずっと聴き続けてる理由はこれも関係してるんだろうなぁ。今年もまだ見ぬ才能に出会えることを期待して!そして、今までスニーカーの記事や舐達麻さんの記事を書かせてもらったので、今年もこれに続いてなにか書けたら良いなぁ。
では、花粉と戦いながら記事ネタ探しに行ってきます。

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FEATURES INTERVIEWS

「天国へ向かう飛行機の中で書かれた詩のようなもの」
─ Interview with Eve Adams

インタビュー、テキスト :小倉 健一
English interview at the bottom of this page.

本作 Metal Bird は、Eve Adams を名乗るLAのアーティストによる新作である。おそらく本作が3作目のリリースと思われるのだが、彼女に関する情報はあまり多くはない。以前の名義と思われる Scout では Neil Young らのカバーを披露しており、フォーク〜カントリーというひとつのルーツを垣間見ることができる。ともすれば雰囲気頼り或いはアヴァン頼りになりがちなこの手において、本作の落とし所は絶妙である。プロデュースを手がけているのは、カナダより新たな時代を牽引する Crack Cloud/N0V3L のメンバーである Military Genius(彼は以前から彼女の作品によくクレジットされていた)。昨年リリースされた彼の傑作ソロ・アルバム『Deep Web』で露呈したセンスと、更なる楽曲アレンジが過去最高にハマった結果、今すぐNumeroがコンピに収録してしまいそうなオーセンティック感を持ちながらも、Cindy LeeとCaretakerをバックにつけたJulie Cruiseのようなメランコリック・フォーク・バラッドに死亡。誰にも知られず自分だけの手元に置いておきたいほどに特別な未来の(現在でも)名盤。

Interview with Eve Adams

それぞれの曲は地獄から天国へ向かう飛行機の中で書かれた詩のようなものです、暗闇から出てきて光に向かっていくような。

——— あなたのことは以前から気になっていたのですが、Googleに聞いても多くのことは教えてくれず、今回インタビューすることができ嬉しく思います。はじめに簡単に自己紹介いただけますでしょうか。

こちらこそインタヴューを受けることが出来てとても嬉しいです。ありがとう!私の名前は Eve Adams。カリフォルニアのアーティストです。

——— LA出身とのことですが、現在もLAで暮らしているのですか?

はい、そうです!

——— いつから音楽を作るようになったのでしょう。また、一人で作ることはあなたにとってどれくらい重要ですか?必須?それともそうするしかなかったから?

13才位の時に自分の部屋で音楽を作り始めました。18才で写真を勉強するためにモントリオールに引越してから、自分の曲を沢山レコーディングし始めました。これまでに自分ひとりでいくつかアルバムを制作することで、非常に多くの癒しと学びを得ることができたと思います。でも、次のアルバムはさらに手を広げて多くの人を制作に招き入れることを楽しみにしています。

——— 本作を聴いてJulie CruiseのFloating Into The Nightを想起しました。スイートで、ノスタルジックで、孤独で、少し狂気を感じるような。本作の制作にあたり何かテーマはありましたか?

ありがとうございます! はい。このアルバムは、自分自身の檻の中で過ごした3年間の遺物です。私はまるでタロットの「吊るし首の男」のように、自分が宙ぶらりんになっているみたいに感じていました。それぞれの曲は地獄から天国へ向かう飛行機の中で書かれた詩のようなものです、暗闇から出てきて光に向かっていくような。

——— 本作はMilitary Geniusがプロデュースを手がけています。あなたの作品には以前から彼の名前がよくクレジットされていますが、彼や彼が所属するCrack Cloud周辺とは以前から親交があったのでしょうか?どのような経緯で知り合ったのでしょう。

Military Geniusと私は2015年のハロウィンに、Poisson Noirというという、今はないDIYスペースで出会いました。すぐにクリエイティブなつながりができて、以来彼は私の楽曲のレコーディングとミックスを手伝ってくれています。数年前、彼がCrack Cloudのメンバーに紹介してくれました。

Extract from Eve Adams’s Instagram

——— あなたのインスタもそうですが、アートワークにも使われているモノクロの写真が印象的です。音楽と写真それぞれがお互いをよく表しているように感じます。ご自身で撮影されているようですが、あなたにとって音楽を作ることと写真を撮ることは本質的には同じですか?それともまったく別?また、好きな写真家がいれば教えてください。

ありがとう!ふたつのアートフォームは同じ根源から来ていると思います。あるアイディアは写真やビデオの形を望み、また別のアイディアは音楽の形を望むんだと思います。

——— いくつかYouToubeにあげているビデオも映画的です。好きな映画や影響を受けた映画はありますか?

ありがとう!映画で好きなのは「ブルーベルベット」、「市民ケーン」、「オズの魔法使い」、それと「デッドマン」です。

——— Scoutはあなたの以前の名義でしょうか。Neil YoungやMichael Hurley、Loretta Lynnがカバーされていました (https://eveadams.bandcamp.com/album/rawhide) 。フォークやカントリーはあなたのルーツのひとつかと思いますが、親が聴いていたりしたのですか?

モントリオールに住んでいた時に友達が、映画「アラバマ物語」からScoutというニックネームをつけてくれました。でも、モントリオールを離れた時にその名前は手放しました。

私の両親は私が育つ過程で Tom Waits や Rickie Lee Jones のような、彼らの世代の素晴らしい音楽を教えてくれました。私自身のフォーク音楽への敬愛は、14歳の時にローズボウルのフリーマーケットでボブ・ディランの「時代は変わる」を見つけたことから始まりました。私は完全に彼の音楽の虜になり、部屋の壁に彼の詩を書いたり、全ての曲を暗記したりしました。彼の音楽は若い女性であった私を完全に変え、それにより共感できる多くの詩人や映画監督を見つけることが出来ました。

——— 普段はどのような音楽を聴いていますか?最近のフェイバリットとオールタイム・フェイバリットをそれぞれいくつでも教えてください。

私は Jelly Roll Morton や、他のラグタイムピアニストの音楽を聞くのが大好きです。

でも、私のオールタイム・フェイバリットは Billie Holiday, Brian Eno, Cab Calloway, Daniel Johnston, Joni Mitchell, Laurie Anderson, The Caretaker, それに Feistです。もし無人島にアルバムを一枚だけ持っていけるなら、The Caretakerの「An Empty Bliss Beyond」を持っていくでしょう。

——— シンパシーを感じるアーティストやバンドはいますか?

私は Cab Calloway にいつも親近感を感じています。彼の音楽を聴いていると、まるで自分がコンサートの最前列にいるように感じます。いつも彼からデジャヴのような強い感覚を得ます。

——— 本作があなたにとってはじめてのアナログ・リリースになるかと思います。自分の音楽がレコードでリリースされることは少し特別だったりしますか?

ええ、もちろん!夢が叶ったようです。自分の曲をフィジカルで持つことはまるで小さな赤ちゃんを抱いているようでもあります。とても特別に感じます。

——— コロナウイルスによる脅威が未だに続いています。コロナによって何か価値観に変化はありましたか?変わったこと、変わらなかったことがあればそれぞれ教えてください。

このパンデミックによって、自分がどれだけ人々のことを気にかけているかに気付かされました。世の中がこのような状況になっているのをみていると、とても不安定になります。でも、それへの唯一の対抗策は愛を広げることと、できる限り人を助けることなんだと思います。

——— 最後に、今後の予定で何か決まっていることがあれば教えてください。

私はいま、次のアルバムと Metal Bird のビデオいくつか制作しています。

Eve Adams 「Metal Bird」

BandcampSpotify

カリフォルニア、ロサンゼルスのアーティスト、Eve Adams。彼女の音楽は「密室で繰り広げられる暴力とロマンスが同居したダークなホームドラマ的フォーク・ノワール」と評される。歌詞で描かれている牧歌的な風景と繊細な人物表現には、ミニマルでありながら深い感情を持つ文学的な感性を示している。彼女の風変わりな民話は身近でありながらもシュールで、まるで幻影に取り憑かれたような魅惑的な世界を描いている。Eve Adamsの最新アルバム「Metal Bird」はリスナーを人生の限定的空間から聴覚的な飛行へと誘い、個人的逸話を織り交ぜながら人類の時を超えた重力との戦いを描いた感動的な物語を紡ぎ出す。

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Interview with Eve Adams

Interview by Kenichi Ogura

——— I was aware of your presence from before and was interested, although Google doesn’t tell me much about you. So, I am very pleased to be able to interview you on this occasion.  At the first, can you introduce yourself briefly?

I’m very flattered to be interviewed. So, Thank You! My name is Eve Adams and I’m an artist from California. 

——— You are from LA I heard. Do you still live in LA?

Yes, I do! 

——— When did you start making your music? Also how is it important to you to make music on your own? Is that essential? or you had no choice?

I started writing songs in my room around the age of 13. When I moved to Montreal at 18 to study photography, I began to record a lot of my music. Making my last few albums on my own offered me a great amount of healing and space to learn, but I am really excited to branch out on my next album and have more people involved in the production. 

——— I was reminded of Julie Cruise’s “Floating Into The Night” when I listened to this album. Sweet, nostalgic, lonely with a slight touch of insanity. Did you have any concept on compiling this work?

Thank you! And yes. 

This album is like a relic of the three years I spent in my own Purgatory. I felt like I was in a state of suspension, like The Hanged Man of the Tarot. Each song is like a poem written on a flight from Hell to Heaven, emerging from the darkness and heading towards the light.

——— Military Genius produces this album and he has been credited to some of your work before. Did you know him and people around Crack Cloud that he is a part of? How did you come across with them?

Military Genius and I met on Halloween 2015 at Poisson Noir, a DIY space in Montreal that is no longer around. There was an instant creative connection and he has been instrumental in helping me record and mix my music. He introduced me to the members of Crack Cloud a few years ago.

——— The photography used on artwork is impressive, as well as your instagram. I think your music and the photography represent each other well. You take photography yourself it seems. Is it same for you essentially, to create music and to take photography? or is it totally different? 

Thank you! I think the two forms stem from the same place. Some ideas just take shape in photographs or videos, and others want to be songs.

——— Some videos that you’ve released on Youtube are quite cinematic. Are there any films you like / are inspired by?

Thank you! Some of my favorites are Blue Velvet, Citizen Kane, The Wizard of Oz, and Dead Man.

——— Is “Scout” your previous artist name? Neil Young, Michael Hurley and Loretta Lynn were covered ( https://eveadams.bandcamp.com/album/rawhide )
I guess Folk and Country music are one of your musical roots. Do your parents listen to those?

My friend nicknamed me Scout when I was living in Montreal, because of the character in To Kill a Mockingbird, but I let that name go when I left that city.

My parents introduced me to a lot of great music from their generations when I was growing up, like Tom Waits and Rickie Lee Jones. My own love for folk music was born out of a trip to the Rose Bowl flea market when I was 14, where I came across “The Times They Are A-Changin” by Bob Dylan in a record bin. I became absolutely obsessed with him, writing his lyrics on my bedroom walls, and memorizing all of his songs. His music completely changed me as a young woman and led me to find so many other artists, poets, and filmmakers that resonated with me.

——— What music do you listen to daily? Can you tell us both your recent and all time favorite as many?

I love listening to Jelly Roll Morton and other ragtime pianists. But my all time favorite musicians are Billie Holiday, Brian Eno, Cab Calloway, Daniel Johnston, Joni Mitchell, Laurie Anderson, The Caretaker, and Feist.

If I had to take an album on a desert island I’d bring An Empty Bliss Beyond This World by The Caretaker.

——— Is there any artist or band you feel sympathy with? 

I’ve always felt a kinship with Cab Calloway. When I listen to his music it just feels like I’m in the front row at his show. He always gives me this strange feeling of deja-vu. 

——— It is your first vinyl release. Do you feel special that your music gets pressed on a vinyl?

Oh, of course! It’s a dream come true. Being able to hold all of my songs in a physical form is like holding a little baby. I feel very special. 

——— The threat from coronavirus is still ongoing. Are there any changes in your value and beliefs over this crisis? Please, tell us if things have and haven’t changed.

This pandemic made me realize how much I care about people. Seeing the world in such a state of crisis has been very destabilizing, but I think the only antidote is to spread love and help others as much as you can.

———At last, what are your plans for the future, if any?

 I am working on my next album as well as some music videos for Metal Bird.

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FEATURES PLAYLIST REVIEWS

50 SONGS OF 2020

1.Standing On The Corner – Angel

Angel / Standing On The Corner

フリージャズ、ヒップホップ、ソウル…あらゆる音楽を取り入れながらそのどれとも言い切れない音楽を鳴らすニューヨークのアートコレクティブSOTC。待望のニューリリースはかつてないほどキャッチーでありながらも彼ららしいコラージュ感覚とユーモラスな実験に溢れた最高の一曲。古びたマシンから流れ出したビートは宇宙を泳ぐように揺れながら時には破裂し木霊したりしてメランコリックなサックスと戯れていく、楽曲の雰囲気を見事に視覚化したメルヴィン・ヴァン・ピーブルズ出演の PVも合わせて。

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2.Tvii Son – Out of Vogue

ウクライナはキエフ発、エクスペリメンタル〜エレクトロバンドによるデビュー作から。ダークで硬質なビートと絶妙に力の抜けたLucyのヴォーカルが醸し出すなんとも言えないクールネス。ブリストルとベルリン、その両方のサウンドを独自に昇華したインダストリアル・ダブ。

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3.Parris – Soft Rocks With Socks

bpm100ぐらいで絶妙につんのめるマシンビートを軸にアブストラクトなシンセや打楽器、ユニークなベースがふらふらと現れては消えるダビーハウス。デカイ音でも延々と聴けるオーガニックで繊細な音作りが気持ちいい。今年のParrisはHarajuku GirlsとYureiも素晴らしかった。

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4.Slauson Malone – Smile #6(see page 198 and 158)

ツアー先で手に入れたアコースティックギターを全編にフィーチャーしたEP「Vergangenheitsbewältigung (Crater Speak)」収録。ギターの爪弾きにボイスサンプルがコラージュされていく前半とチープなビートとラップによる後半。実験的なフォーク作品ともヒップホップの異形とも聴こえるメランコリックなサウンドは唯一無二。

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5.Phew – The Very Ears of Morning

エレクトロニクスと声、ヴィンテージなリズムマシンによって構成された傑作「Vertigo KO」のファーストトラック。夜明けの瞬間を永遠に引き伸ばしたような圧倒的に美しいシンセアンビエント、眠気が飛びます。

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6.King Krule - Underclass

リリースは2月。その後の世界を予見するような内向性と乾きの中にある少しのメランコリー。終盤のムーディーなサックスの旋律に彼の新たな表情を感じる。

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7.Wool & The Pants / Bottom of Tokyo #3

Bottom Of Tokyo #3 by Wool & The Pants - TuneCore Japan

『Wool In The Pool』に収録のNo Wave的ファンクが大胆にリアレンジされた2020年新録曲。Sly Stone、後期CANを連想させるチルアウトなトラックの上で歌われるのは新しい意味を持った「明日街へ出よう」。緊急事態宣言期間中にリリース、印象的なアートワークは東京暮色とフランシス・ベーコンのアトリエのコラージュ。

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8.Aksak Maboul – C’est Charles

ベルギーのアヴァンポップ・レジェンドによる40年ぶりの新作「Figures」。本曲は往年の名作感をまったく感じさせない現代的なサウンドとビートを持った2020年のアートロック。

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9.Model Home – Faultfinder

Throbbing Grisle meets MF Doomとは言い得て妙。今年一番ドープなビートと変調された癖になるライム、アートワークと共鳴するような粒子の荒いサウンドは中毒性かなり高めです。Warp傘下Diciplesからのリリース。

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10.Pavel Milyakov – Odessian Dub

Pavel Milyakov - Odessian dub

モスクワのテクノ・アーティストButtechnoことPavel Milyakovによる幻想的なアブストラクトダブ。不明瞭な旋律の電子音と重たいビートのコントラスト、真夜中の霧深い街を彷徨い歩くような美しいサウンドスケープ。ウクライナ・オデッサの街に捧げられているらしい。ふらふら歩くには丁度いいサウンドトラック。

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11.Frank Ocean – Dear April

結局”Dear April””Cayendo”の2曲のみだった2020年のフランク・オーシャン。Acoustic ver.というだけあってシンプルな伴奏のみの楽曲だがフィンガリングノイズにまで徹底されたアンビエンスと圧倒的な歌声、これだけで何にも変え難い凄みがある。

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12.JPEGMAFIA – living single

90年代アンビエントテクノ的なシンセ、音数の少ないビート、最高のタイトル。あっという間に終わってしまうが、寝るにはまだ早いなと思わせてくれる。

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13.Puma & The Dolphine – Supermarket

Amazon Music - Puma & The DolphinのSupermarket - Amazon.co.jp

ブルガリアの気鋭プロデューサーによる快楽的アフロ・エレクトロニクス。ポコポコしたリズムマシーンとエキゾなウワモノの絡みはまるでカメルーンの伝説Francis Bebay。アルバムタイトルは「Indoor Routine」。

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14.Pearson Sound,Clara! – Mi Cuerpo

PEARSON SOUNDと、スペインのPRR!PRR!コレクティヴのCLARA!による最高のベースチューン。徐々に盛り上がるスペイン語のチャントがやばい脳内フロアキラー。部屋で踊りましょう。

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15.Playboi Carti – M3tamorphosis

2020年の終わり、待望のリリースとなったCartiのニューアルバムから。90年代メンフィスラップのカセットテープを想起させるざらついた音像が衝撃的。

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16.Burial,Four Tet,Thom Yorke – Her Revolution

幻想的なピアノループと淡々と脈打つビート、トム・ヨークの歌声がこんなにも伸びやかに感じられるのはいつぶりか。2020年の終わりに届けられた9年ぶりのコラボレーションにして名曲。

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17.Liv.e – SirLadyMakemFall

「 F.R.A.N.K」(2017)の頃にあったローファイソウルの面影を残しつつ理想的な進化を続けるダラス出身のシンガー Liv.e(読みはリヴ)。オルガルのループとSlyishなビートが身体をゆらすいなせなレディソウル。

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18.Haim – Los Angels

冒頭のサックスとドラムだけでもう最高。ラップ〜R&B以降のサウンドを当たり前に取り入れながらルーツである70年代西海岸の香りまで漂わせるしなやかなグルーヴと開放感、ヴィンテージなだけじゃない楽器の鳴りも素敵!

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19. Anthony Moore – Stitch in Time

40年の時をこえようやくオフィシャルリリースされた75年のお蔵入りアルバム「OUT」の冒頭曲。イントロの拍からして変だが一聴するとキャッチーなモダンポップにしか聴こえないのがすごい。

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20.Holy Tongue – Misinai

たしかにこれはLiquid Liquid、23skidooあたりが好きな人間は避けては通れない音。トライバルなパーカションとポストパンクの実験精神が邂逅したオルタナティヴダブ。

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21.Eddie Chacon – Trouble

チープな打ち込みとシンセによる自主AOR的なサウンドをアンビエント〜ニューエイジ再評価以降のセンスにまとめあげたのはきっとJohn Carroll kirbyの手腕だろう。「お前は悩みの種を増やすだけ」と繰り返し歌われる頭抱え気味なメロウソウル。

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22. Adrianne Lenker – zombie girl

都市から離れた山小屋でアナログ機材のみを使い録音されたソロ作。アコースティックギターとか細い声、遠くから聞こえる鳥のさえずり。喧騒から離れた場所で孤独と向き合うことによって生まれたシンプルだからこそ心をうつフォーク作品。

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23.Ryu Tsuruoka – Omae

横浜生まれのメロウな手口のシンセ歌手(トークボクサー)、ムードにこだわる音楽家。
PPUからのリリースとなったシングルは危険な甘さのトークボックス・バラード。アーバンとかメロウとかそういう言葉はここまで艶っぽい音楽にだけ使われるべき。

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24.坂本慎太郎 – ツバメの季節に

2020年後半にリリースされたシングル4曲はどれも素晴らしかったが「何年経って元に戻るの?」の歌い出しからはじまる本曲ほどいまの空気をキャプチャーした曲はなかったように思う。

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25.Moor Mother –  Forever Industries  A

とにかくたくさんのリリースがあった2020年のMoor Mother。サブポップからリリースの本曲はスウェーデンのビートメイカーOlof Melanderとの共作。

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26.Dirty Projectors – Overlord

ギター、ベース、ドラムのシンプルな楽曲に彩りを与えているのは各楽器の鳴りを完璧に捉えたMIXとDPらしい鮮やかなコーラスワーク。懐古的にならざる得ないバンドサウンドが多い中、本曲の独創性は際立って聴こえる。

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27.Holy Hive – Hypnosis

HOLY HIVE - Hypnosis

2020年も素晴らしいリリースを続けたBig Crownから。抑制が効きながらドラムスティックのワンストロークまでもが目の前に浮き上がってくるような、風通しのよいSweet Soul。

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28.Flanafi – Inner Urge

アメリカのAvant PopデュオPulgasのギタリスト、Simon Maltinesによるソロプロジェクト。ディアンジェロ、スライへの偏愛をプログレッシヴな感性でコーティング、この変態性は聴けば聴くほどくせになる。

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29.NENE – 慈愛

妖怪(!)を題材にした傑作ソロ「夢太郎」からのPV曲、歌い出しはいきなり「おばけが見える」。内面の揺らぎを描写した歌詞とスペイシーなシンセによるスピリチュアルなトラックが新鮮なまさに新境地の一曲。

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30.Military Genius – L.M.G.D.

Military Genius / Deep Web

カナダのポストパンクClack Cloudのメンバーによるソロ。ダークなアンビエントにまみれたアルバムの中では異色のダウンテンポなコールドファンク。

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31.Jabu,Sunun – Lately Dub

lazer_fennec's collection

ブリストルサウンドを更新し続けるクルーYoung echoのメンバーによる平熱のUKソウル。7inchB面に収録のSununによるとろとろのダヴバージョンが真夏の室内に最適でした。

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32.DJ CHARI & DJ TATSUKI – JET MODE feat. Tyson, SANTAWORLDVIEW, MonyHorse & ZOT on the WAVE

とにかくキャッチーなフロウとビート!一度聞いたらもう「おれらとめられね」って歌ってるしいつの間にか無限リピートして聴いている。

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33.テニスコーツ – さべつとキャベツ

Changing / Tenniscoats - Minna Kikeru

黄倉未来によるヒプノティックなビートにまず驚かされるが重要なのは何よりそのリリック。「あいつ」への直球の怒りといつのまに自分を侵食していく病気、たくさんのユーモアを交え歌われる気高く美しいテニス流プロテストソング2020。

Minnakikeru

34.NAYANA IZ – WALKING

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35.keiyaA – Way Eye

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36.Tohji – Oreo

Tohji – Oreo Lyrics | Genius Lyrics

いま踊れる曲を作ることに対する違和感をSNSで表明していたように新曲は90sテクノを彷彿とさせるアンビエントトラック。Oreoとチェリオがマントラの様にならぶリリックも面白い。

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37.Jon Bap – Help

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38.Hiiragi Fukuda – Vivian Girl

アルバム『Raw-Fi』冒頭曲。無機質なビートとラフなギターの生々しさがいい塩梅で同居したトラックにぼそぼそと呟かれる歌。淫力魔人よ助けて…デカダンな雰囲気とベッドルーム的内向性をあわせもった不思議な魅力。

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39.Lizette & Quevin – Talk To Me

Talk To Me - Lizette & Quevin

BrainstoryのKevin Martinと陶芸家のLizetteによる、60-70年代に活動したチカーノ・ソウル・バンド、Sunny & Sunliners のカバー。このカサカサした温かい音像とメロディーは誰もがやられてしまうのではないでしょうか。

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40.Navy Blue – Ode2MyLove

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41.Lil DMT ,  Lil N1P – COMO SOY

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42.BLACK NOI$E – The Band (feat.Live.e)

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43.Cindy Lee – Heavy Metal

Cindy Lee - Heavy Metal

埃がかったギターのイントロから、壊れかけのオルゴールのようなガールズポップスサウンド。墓場の運動会に流れていそうな音楽。

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44.石原洋 – formula

石原洋/formula

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45.Childish Gambino – 42.26

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46.redveil – Campbell

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47.John Cale –  Lazy Day

ガタガタ揺れたリズムと不安を煽るような調子外れな鍵盤がなぜか心地よく、隙間から覗くように現れる対比的なパートと合わせてこの状況下にしっくりきた最高のチルアウト・ソング。ピンクの髪もキュート。

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48.Vula Viel – My Own Skin

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49.山本精一 – フレア

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50.TOXOBAM – shabby function

狂気のコラージュに忙しないカットアップ、オモチャ箱じゃなくて新宿の裏路地の汚ねえゴミ箱をひっくり返したようなシティ・ミュージック for フリークス。夜に聴くと眠れなくなる。

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FEATURES REVIEWS

SEX, DRUG & FEMINISM
アーヴィン・ウェルシュ著『トレインスポッティング』

“あいつは押さえつけるのと殴るのは同じだ、暴力には違いないって言った。俺はその理屈に納得がいかない。おれはただ、引き留めたかっただけだ。話がしたかっただけだ。
レンツにこの話をしたら、キャロルの言うとおりだって意見だった。俺と一緒にいたいかどうか、キャロルには決める自由があるって言う。けど、それだってでたらめだろう。おれは話がしたかっただけなんだから。フランコは俺の味方だった。男と女ってのは理屈じゃない。俺たちはレンツにそう言ってやった”

引用元:アーヴィン・ウェルシュ著/池田真紀子訳『トレインスポッティング』

1993年にイギリスで出版されたアーヴィン・ウェルシュによる小説『トレインスポッティング』。1996年にダニー・ボイル監督によるこの小説を原作とした映画が公開。2017年には同監督による映画の続編も公開された。

『トレインスポッティング』と言えばまずはとにかくドラッグ。そして映画における素晴らしいキャスティングや90年代ブリット・ポップのグループが参加しているオリジナル・サウンドトラック。一般的に知られているイメージと言うとこんなところだろうか。

一般的にと言ってそのイメージが間違っているわけでもなく、実際に作中の登場人物達は基本的にドラッグを調達して摂取することに終始右往左往してばかりいる。
物語の舞台は1980年代後期イギリスのエディンバラで、20代中頃の薬物中毒者たちが中心の日常系ドラマだ。
日常系だけにドラマに大きな起伏はあまりないのだが、この作品の特徴として語りの構造がある。
映画では主観による語りは俳優ユアン・マクレガー演じる主人公のマーク・レントンのみだが、小説ではエピソードごとに語り手が変わる。
様々な語り手による複数の視点がキャラクターの人間性と関係性に奥行きを生み、一見他愛無いエピソードも常にどこか余韻を残すのだ。

小説は全7章を構成する43本のエピソードが連なりひとつの物語になっていて、映画はそのうちの10本程度のエピソードに映画オリジナルのエピソードを加え再構成したもの。
物語の大筋は小説と映画に違いはあまりなく、アンダーワールドの”Born Slippy”が流れる映画のラストシーンも内容自体は小説と変わらない(ちなみにこのシーンにあたる小説でのエピソードタイトルは”Station to Station”で、これはアーヴィン・ウェルシュが最も愛するレコードのタイトルでもある)。

小説と映画の脚本を比較してみると、映画前半までは登場人物の整理や時系列を入れ替えたりといった作劇上の演出はあれど、各エピソード内容は小説にほぼ忠実。
映画中盤の折り返しで、マーク・レントンが病院に担ぎ込まれ実家の自室で薬物禁断症状によってバッドトリップするシーンから最後のエピソードまでを映画は小説にはないオリジナルの展開を織り交ぜて進んでいく。

映画内容を俯瞰してみると、世間一般における『トレインスポッティング』のイメージというのは映画の薬物体験シーンの影響が大きいのだろう。それらのシーンが観客の目を引き強く印象に残るのはやはり事実だと思う。

しかし、薬物云々のあれこれをひとまず横に置いてみれば、絶望と希望でがんじがらめになった人間ドラマがひたすら繰り広げられているに過ぎないことがわかる。
例えば、他の映画でいうと『If もしも….』(’68/リンゼイ・アンダーソン監督)、『さらば青春の光』(’79/フランク・ロッダム監督)、『ウィズネイルと僕』(’87/ブルース・ロビンソン監督)といった作品と『トレインスポッティング』を並べてみたくなる。
または、昨今の欧米コメディ映画やネット配信コメディ・ドラマと並べてもしっくりくる。

『トレインスポッティング』は単にドラッグや音楽をファッションとして扱ったサブカル作品ではなく、普遍的な収まりの悪い人間愛に溢れた作品であって、その根底にあるのはあらゆる個人の尊厳に対するクリアな眼差しだ。
そして、それはそのまま著者アーヴィン・ウェルシュによる問題提起になっている。


#1 SEX

上記画像は映画『トレインスポッティング』の宣伝広告で、左から2人目の人物の名前はダイアン。
主要キャラクターである他の男4人と違って、小説では登場するエピソードは1つのみというキャラクターだ。
さらに、この画像内で彼女と直接の接点があるのは1人だけで、そう知って見るとこの並びのバランスは少し不思議に思える。

ダイアンはマーク・レントンがワンナイトラブを求めて訪れたクラブで出会う女性で、彼はダイアンをひと目見て彼女に特別な感情を覚える。
と、これだけなら普通のよくあるボーイ・ミーツ・ガールの展開を予想しそうになるが、『トレインスポッティング』ではそうならない。
この話が面白いのは終始ダイアンのペースで物事が進むところで、この2人の関係性において主導権を握っているのが男のレントンではなくダイアンなのだ。
レントンを見定め選んで同意をとりセックスの体位を指示し行為を終えた瞬間に去るよう命じるダイアンに対し、レントンはただ戸惑うのみ。なんとか男らしさを取り戻そうと妄想を試みるも、翌朝に衝撃の事実を知ってそれもあっさり砕け散る。
ダイアンは15歳ということがわかるのだ。
マーク・レントンは26歳。
重度のヘロイン中毒者が自分のした事に縮み上がる(イギリスにおける性交渉の法的同意年齢は16歳以上)。

『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(’19/クエンティン・タランティーノ監督)にもこれと似た状況になりえる場面があったが、こうした描写はただの配慮というものなどではなく、キャラクターと作品に奥行きを与えている。
このダイアンの場合にしても、宣伝広告からは添え物ヒロインと思われても不思議ではないけれど、実際はそうではなく、一見ありがちなエピソードが視点の位置が少し変わることで現実社会の歪さが浮かび上がるという、『トレインスポッティング』ならではのエピソードだ。

ところで、映画『トレイスポッティング』には仰向けのままマーク・レントンが床に沈み込んでいく有名なシーンがあるが、それと正反対のシーンがあるのがNetflixオリジナルドラマ『セックス・エデュケーション』で、シーズン1の最終エピソードで主人公が仰向けのまま文字通り天に昇っていく。
『セックス・エデュケーション』も『トレイスポッティング』と同じくイギリス作品で、こちらはドラッグではなくセックスをモチーフの中心に繰り広げられる青春群像劇だ。


#2 DRUG

『トレインスポッティング』はドラッグを通して社会の裏側を暴く、といった実録物のような作品ではない。アーヴィン・ウェルシュはドラッグを取り巻く人間模様を描くことで、今を生きる個人が抱える閉塞感や抑圧感といったものを映し出す。また、ドラッグに限らず、性暴力、性差別、人種差別や階級格差といったものから男の嫉妬…、といった社会では無いとされる様々なものを言語によって可視化する。

もし、ドラッグに纏わる社会的イメージを強く持ったままの頭でこの作品を捉えようとすると、こうした点が見えにくくなるかもしれない。
確かに、映画で登場人物がヘロインの摂取及びトリップする数々のシーンは怖いもの見たさの欲望を満たすのに良く出来た見世物になっていて、その点は素晴らしい。
そして、フランシス・ベーコンの絵画を色彩設計の参考にしたというヴィジュアル・イメージも独特の不穏な世界観を表現することに成功している。
それだけに、そういったある意味表面的な事象に隠れてしまって、原作の小説で描かれていることが見落とされがちのように思う。
宣伝のポップな展開と話題性が相まって、一括りにドラッグ関連の話、といった曖昧な作品像に留まっている原因のように思う。
しかし、漫画『スキップとローファー』のジャンキー版とでも言いたくなるくらいに、人間と人間の関係性が常に水平な目線で描かれているコメディドラマが『トレインスポッティング』なのだ。

あえて一括りにドラッグ関連ということで連想してみると、『仁義の墓場』(’75/深作欣二監督)のヘロインが増幅するドローン感と焦燥感を体現する渡哲也、芹明香、田中邦衛の不気味なまでの凄みが忘れられない。


#3 FEMINISM

“いったいどうして怒ってる? 「月のものの最中だから」という陳腐な答えが頭に浮かびかけたが、バーにあふれる笑い声に違和感を覚えて店内を見回した。それは、ただおかしくて笑ってる声ではなかった。
リンチに加担する暴徒の笑い声。
こんなこと、予想しろって言うほうが無理だーーー レントンは思った。わかってたらやらなかったよ”

引用元:アーヴィン・ウェルシュ著/池田真紀子訳『トレインスポッティング』

次の2つのツイートはアーヴィン・ウェルシュ本人のもの。

著書である『トレインスポッティング』やその続編『ポルノ』を読むと、この発言が特に突発的なものではないことがわかる。
そもそも、走ったり飛んだり沈み込んだりと何かと大忙しなイメージの主人公マーク・レントンだが、小説では性差別的な発言をする仲間を軽蔑し、時には諌めようとする人間なのだ。大抵、友人であるシック・ボーイの屁理屈にやりこめられるのだが。
また、別の仲間からはマスキュリニティお決まりの侮蔑表現として”男娼”呼ばわりをされたりしていて、もし男性によるホモソーシャルの為の教科書のようなものがあれば、その例文にぴったりのエピソードで満載だ。

映画ではこうした点の反映はレントンのキャラクター造形の雰囲気だけに留まり、具体的なエピソードとしては語られない。
その意味で映画続編の『T2』(’17/ダニー・ボイル監督)は正しく前作映画の延長線上にある作品と言える。
というのも、映画『T2』は小説『トレインスポッティング』の続編『ポルノ』が基本的なストーリーの骨子になってはいるのだが、前作映画にあったダイアンのようなエピソードはなくなっていて、映画としてはホモソーシャルの悲哀と黄昏といった感じの作品になっている。

現実ではホモソーシャルの網から抜け出すというのは到底不可能な事に思える、というのが個人的な今の正直な気持ちだ。
それだけに『トレインスポッティング』一作目のラストシーンは、ふいに清々しい気持ちを一瞬でも感じさせてくれるものだった。
一作目でホモソーシャルから抜け出ることに成功したレントンは、続編『ポルノ』でもやはり向こう側に抜け出るのだが、小説とは異なるラストシーンの映画『T2』におけるレントンに解放感はなく、もがいているように見えてしまった。

『トレインスポッティング』の主人公はそれまでのがんじがらめでいた世界から抜け出て外へ向かう。
映画『お嬢さん』(’16/パク・チャヌク監督)もアート的な背徳感とエンタメ的なサスペンス要素が同居した作品で、やはり主人公が新天地を目指す仄かに明るいエンディングで映画が終わる。こちらも小説を原作にしている作品だ。

“新聞紙の上にうんちをするのは大変だった。トイレはほんとせまくて、かがむのも一苦労だから。それにグラハムが何か怒鳴ってた。ゆるいうんちをどうにか少し取った。それを生クリームと混ぜてミキサーにかけ、できあかったものをチョコレート・ソースと合わせてソースパンで温める。その特製ソースをデザートのプロフィトロールにかけた。おいしそう。上出来だわ!”

引用元:アーヴィン・ウェルシュ著/池田真紀子訳『トレインスポッティング』