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COLUMN

FUN THEATER THREE vol.3

1

バニシング・ポイント

リチャード・C・サラフィアン監督
@ストレンジャー

70年代アメリカ。名はコワルスキーという車の運び屋がデンバー〜サンフランシスコを15時間で、という賭けをして出発する。スピード違反で警察に追われ敷かれた包囲網が徐々に迫るも、止まらず爆走し続ける姿を描いた作品。劇中でコワルスキーが運転する車は、クエンティン・タランティーノ監督『デス・プルーフ』で登場するダッジ・チャレンジャー。

1971年公開作の4Kリマスター記念リバイバル上映ということで見てきた。
映画を映画館で見るのと、DVDやVHSあるいはインターネット配信で見るのも楽しさは変わらない。映画を見るのはいつでもどこでも楽しい。
ただ、当たり前だけれど映画館ならではの楽しみというのがやっぱりあって、『バニシング・ポイント』はまさにそれに当てはまる映画だと思う。
上映時間90分くらいで、社会における個人のリアリティに触れるような寓意的な物語。
イメージ、時間、音楽が多層に重なりつつ、全体像がコンパクトに感じるもの。
要はアメリカン・ニューシネマだったりするわけだけれど、そうした幻惑的だったり詩的なふくらみのある映画を映画館で見るのは本当に楽しい。
この感じは音楽をレコードで楽しむのと似てるとも思う。

映画と音楽でいえば、UKのプライマル・スクリームというバンドがこの映画『バニシング・ポイント』をそのままタイトルにしたアルバムを1997年に発表している。
そのアルバムからの先行シングル『コワルスキー』では、実際にこの映画から台詞がサンプリングされている。
映画からのサンプリングというアイデアは、バンドのヴォーカル担当ボビー・ギレスピーの自伝『Tenement Kid』によると、ビッグ・オーディオ・ダイナマイトからの影響によるものとのこと。
そのビッグ・オーディオ・ダイナマイトはセルジオ・レオーネ監督作品からサンプリングをしていて、引用元に選んだ映画と彼等の距離感というか、UKの音楽好きがモチーフにしたものがどちらも架空のアメリカを幻視したような映画、というのが興味深い。

コワルスキーは黄色いショベルカーを並べたバリケードに追突して自死する。
タイトルそのままに、そこであっさり映画は終わる。
炎上した車から転がるタイヤのようなゆったりとしたエンディングは、演奏を終えたバンドがはけたステージみたいな雰囲気がある。
今回とても印象に残ったのが、コワルスキーが最初から最後まで誰のことも自らは決して傷つけようとしない姿だ。
傷つけようしないだけでなく、コワルスキーは道中で出会う人々と基本的に温かい交流を持つ。
コワルスキーはみんなと同じように孤独だけれど、普通に人と話し、普通に人に親切なのだ。

2

WANDA / ワンダ

バーバラ・ローデン監督
@目黒シネマ

1970年公開のアメリカ映画。監督以外に脚本、主演もバーバラ・ローデンによるもの。日本劇場公開は初とのこと。

『WANDA』を見た後に『バニシング・ポイント』を振り返ってみると、『バニシング・ポイント』の放つロマンが良くも悪くもいっそう際立って感じる。
同時代アメリカの放浪や車の運転といったロードムービーとして共通点はあれど、『WANDA』のそれはロマンとは全くの別ものに思える。
覚めない白昼夢のようでいて、最初から最後まで醒めたまま現実でしかない。
アニエス・ヴァルダ監督『冬の旅』同様にカレン・ダルトンを引き合いに出したくなる。

序盤で主人公ワンダが、路上の売店で買うソフトクリームがとっても美味しそうだった。
この場面ではワンダがひとり取り残されてしまうのだが、ロングショットで映し出される眩しくて儚げな情景が素晴らしい。

3

エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス

ダニエル・クワン監督
ダニエル・シャイナート監督
@T・ジョイ横浜

現代アメリカでコインランドリーを経営する中国移民である中年女性が、夫を通じて多元宇宙マルチバースの存在を知ることに。経営や娘との関係に問題を抱えつつ、混沌を極め崩壊が迫る宇宙にバランスをもたらす救世主として果たして彼女は目覚めることができるのか? という物語。
第95回アカデミー賞で7部門を受賞した。

キー・ホイ・クァンが出演する映画が撮影されている……と知った時はとても驚いた。
そしてそれ以来とても楽しみにしていた作品。
というのは、S・スピルバーグ監督『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』でのキー・ホイ・クァンは自分にとって特別に印象的な存在だったから。
自分と変わらない(ように見えた)人間が、当たり前のように西洋文化の大人達の中に混じっている姿がずっと自分の中に残っている。

今作でキー・ホイ・クァンはミシェル・ヨー演じる主人公エヴリンの夫であり、マルチバースをナビゲートする役どころ。
影響元として連想してしまうウォシャウスキー姉妹監督『マトリックス』のモーフィアスのようであり、ナビ兼サポート役として考えてみると『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』の時と似た役どころでもある。
そんな彼の劇中での台詞「Be kind!!」には、この世界においての断固たる決意表明としてグッとくるものがあった。

映画が怒涛のマルチバース展開を経て収束し、微笑んでしまうラストシーン後のエンドクレジットで、ルッソ兄弟のプロデューサーとしての参加を知った。
そこで頭に浮かんだのが、ルッソ兄弟がMCU仕事以前に監督として参加していたTVドラマ『コミ・カレ‼︎(原題Community)/2009-2015』だ。
というのも、『コミ・カレ‼︎』でもマルチバースを扱ったエピソードがあるのだ。
そのエピソードはルッソ兄弟の監督によるものではないのだけど、そもそも『コミ・カレ‼︎』というドラマ自体が引用やパロディなどいわゆるネタ的な要素に満ちた自己言及性の高い作りで、『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』で描かれた多元宇宙のような、と言える現代の混沌とした世界観を反映したドラマ作品なのだ。

“Chaos already dominates enough of our lives. The universe is an endless raging sea of randomness. Our job isn’t to fight it, but to weather it together, on the raft of life.
A raft held together by those few, rare, beautiful things that we know to be predictable”
『Community』S3-4

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