2020年4月24日 FEMDOM ARTの巨星春川ナミオがこの世を去った。病気療養中であると話はきいていたが克服されると信じていたし、まさかこの日がこんなにも早く訪れるとは思ってもいなかった。
春川は半世紀以上にも渡ってフェティシズムや男性マゾヒズムのファンタジーを繊細な鉛筆画で表現し続けた。SM雑誌挿絵やSMアダルトビデオの表紙などに多数起用され、マニアックなファンからの支持はもとより、現在では美術界、世界中のアートコレクターやミュージシャンを熱狂させるほどである。FEMDOM (Female Dominant) ARTのとして紹介されることが多く、そのフェミニズムとの親和性も近年の再評価につながった要因の一つかもしれない。マドンナが彼の作品を所有しているのは有名な話だが、春川が世界のカルチャーに与えた影響とその功績は大きい。2016年にEric Wareheimが監督した Blonde Redhead のミュージックビデオ ‘Dripping’ で、春川作品の世界観や構図が大々的に取り入れらたのは記憶に新しい。
はじめて春川ナミオの作品を目にした時の衝撃を筆者は今も忘れることができない。見てはいけない物をみたような気がして目を背けたくなった。しかし描かれている内容と反比例するように絵肌はとても上品で、少しシュールなユーモアがあちこちに散りばめられている。穏やかな/無表情に見える豊満な体型の女性、対照的に男性は極端に小さく貧相に描かれ、背景はどこかのっぺりとしていて、まるで舞台セットのようでもある。その強烈で不可思議な春川の世界にすぐ魅了された。このマニアックな作品が多くの人に愛されるのも、エロティック/フェティッシュの枠を超えた春川ナミオ自身の人柄や思想が作品ににじみ出ているからなのかもしれない。
ひたすらファンタジーと向き合い、無数の作品を世に残した偉大な作家に敬意を評したい。心よりご冥福をお祈りします。