最近エキゾってよく聞きますが正直しっくりこないものがほとんどじゃないですか。マーティン・デニー〜アーサー・ライマンなどを通過したいわゆるエキゾチカはいまや様々な文脈を経て新しいエキゾ感が生まれているように思います。ヨーロッパ各国のビートミュージックや先鋭的なジャズ作品なんかを聴いているとかつてあったエキゾシチズム=異国情緒的な感性とはまた違った新鮮なフィーリングを呼び起こさるように思うのです。ということで今回は唐突にFYOC的エキゾ特集、最近リリースのものからクラシックまで、2022年に聴くにもジャストな作品を選びました。記事中の楽曲プラスαのプレイリストは最下部に貼ってますのであわせてどうぞ。
Don the Tiger / Matanzas
Crammed Discs, 2018
バルセロナ出身、リディア・ランチやマーク・カニンガムとの共演経験もあるというギタリスト兼伊達男、Adrian De Alfonsoによるソロプロジェクト。Timmy Thomas meets Serge Gainsbourg(友人談)、もしくは「Rain Dogs」のエレクトロニクス版とも言えそうな郷愁ラテンエキゾチカ。密室的な鳴りのビートとパーカッションが肝なのはもちろん、アンビエント的感覚も内包したシンセ〜エレクトロニクスがなにより最高。本作は2018年リリースの2作目でリリースはなんとCrammed Discsから。街灯を登るお茶目な姿が見れるPVも必見。
Karabrese / Fleischchäs
rumpelmusig, 2021
スイスのプロデューサー/DJ、Sacha Winklerの2021年作「Let Love Rumpel (Part 1)」収録曲。生音+エレクトロニクスの絶妙なトラックの上にゆらゆらと彷徨うバリトンサックスとポエトリーが琴線を刺激、ふいに出てくるスナップやらリコーダー、カリンバもとてもいい塩梅。
Ramuntcho Matta / Écoute
Cryonic Inc., 1985
Don Cherryとの共演でも知られるフランスの音楽家RAMUNTCHO MATTAによる85年作。bpm100前後のアフロパーカッションにフリーフォームなサックスが被さるMarimbula , 同時代のポストパンク〜ニューウェーブとの共振も感じさせる “Ecoute… ” ” Ibu”などを収録したエスノ・アヴァンジャズの傑作。翌年リリースの『24 Hrs』もあわせて必聴です。
Mamazu / Dada
SABI, 2021
東京拠点のDJ/プロデューサーMamazuによる2019年楽曲。呪術的なパーカッションとチャントが秘境へ誘う瞑想的ダンストラック。土着的サイケデリック感高濃度なオリジナルもナイスだが、エクアドルのプロデューサーNicola Cruzによる Remixも捨てがたい。野外で爆音で聴いたら堪らないだろうなぁ。
Angel Bat Dawid / Black Family
International Anthem, 2019
シカゴ前衛ジャズシーンから現れたクラリネット奏者/作曲家による初リーダー作品『The Oracle』に収録。地鳴りの様なベースとタイトなドラムのうえを幻想的なクラリネットの旋律がふわふわと浮遊するスピリチュアル・エキゾジャズ。Sun Ra〜Alice Coltrane〜AAOCあたりを確実に継承しながらその先を感じさるモダンなプロダクションが素晴らしい。2020年『LIVE』での熱演も是非。
Bendik Giske / Cracks
Smalltown Super Sound, 2021
ロシアン・レフトフィールドテクノの才人Pavel Milyakovとの共作アルバムも素晴らしかったノルウェーのサックス奏者。アブストラクトなサックスとパーカッションの反復が生む中毒性と酩酊感、スカスカの『空洞です』をさらに解体して『World of Echo』に一晩漬けたようなミニマル・エクスペリメンタル・ジャズ。
Ultramarine / Breathing
Les Disques Du Crépuscule, 2019
90年代初頭から活動するUKエセックスの二人組による2019年作『Signals Into Space』に収録。最近のMusic From Memoryのカタログとも共振するようなバレアリック〜ダウンテンポ。過去にはロバート・ワイアット、ケヴィン・エアーズ等との共演歴もあるようで、このレイドバック感はカンタベリーからの地続きと思うと腑に落ちるものがありますね。昨年リリースのEP『Interiors』も夢見心地な最高のメロウ・エレクトロニカ。
Mike Cooper / Oceans of Milk and Treacle
Room 40, 2022
ブリティッシュ・ブルースの偉大なるギタリストにして90年代以降は実験的な音響作品を量産するマイク・クーパーの2022年最新作。ラップスティールギターが持つエキゾフィールと3種のサックスにフィールドレコーディングがコラージュされたエキゾ・アンビエント。ノスタルジックと簡単に言うのは憚られるような音世界はJon Hassellと並べても最早遜色なし。
Moondog / Snaketime Series
Moondog Records, 1956
いまあらためて聴きたいNYストリートから現れた盲目の音楽家による56年第1作目。東洋的な旋律とチャカコポ乾いたパーカッション、赤子や動物達の鳴き声までミックスされた永遠に謎めいたサウンドは何とも似つかないエキゾシチズムを纏っています。
細野晴臣 / 洲崎パラダイス
Speedstar Records, 2017
1956年の日活映画『洲崎パラダイス赤信号』からインスピレーションを得た2017年『Vu Ja De』収録曲。いまは存在しないものへの憧れから生まれるフィーリングがやはりエキゾの本質。この楽曲から漂う不気味さやいかがわしさにはその魅力の全てが詰まっているように感じます。