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COLUMN

Spirit of the Golden Juice #1, Modern Times Beer – Orderville

ビール。ひとりで飲むビール。友達と飲むビール。ソファに寝転びながら飲むビール。広いシネコンの客席でひとりぼっちで飲むビール。暑い日にベランダで飲むぬるくなったビール。かじかむ手で夜道を踏みしめながら飲むビール。あんなビール、そんなビールと音楽の話。

いつの間にか、昼は暑いくらいの陽気になってきた。いつもなら公園のベンチで缶ビールを飲んでいるところだが最近はそうもいかない。
ウィルスの不安には耐えられるけれども、それによって顕になった色々な事がどうしても頭を重くして、この陽気すら残酷に感じてしまう。
こんな日ばかりはただただ呆けてビールを片手に時計を眺めているに限る。

Modern Times Beer – Orderville

カリフォルニア州サンディエゴのブリュワリーからの一本。
最近は流行りも落ち着いてきたHazy IPA。流行を意識したのか”Dank”の表記は”Hazy”に変更になったらしい。
“Hazy”とは濁ったビールの見た目を指していて、”Dank”というのはマリファナのような風味を表すスラング。
モザイク、シムコーをはじめとした6種類のホップが使われたフルーティな香り。一口飲めば爽やかな甘みと香りが広がって、優しい苦味が鼻を抜ける。溶けてしまいそうな体がそのままソファにずぶずぶ沈んでいうようなリラックス感が楽しめる。

Girls In The Grass / Steve Hiett

ファッション誌の写真家としてキャリアをスタートし、Jimi HendrixやThe Doors、Miles Davisなど著名アーティストもカメラに収めてきた彼の唯一作『渚にて…』。そのリイシューに併せて発売された彼の未発表音源。

風通しのいいギターの音色は陽の光を浴びているような心地よさがあるけれど、空虚なリズムと共に浮かび上がる風景の海岸や街並には香りや遠鳴りすらもミュートされたような”不在”を強く感じさせる。あるべきものがそこにない、不穏なチリチリとした静けさは、今この状況におかれた街が見せた表情と重なって、ジャケットに添えられた少女達の写真のようにその世界に閉じ込められてしまいそうな、いっそそこに閉じ込められてしまいたいような、そんな気持ちにもなってくる。

エコーの靄の中に吸い込まれるような酩酊感と不安に寄りそってくれるようなビールの香りがあいまって、頭をもたげていたものを少し軽くしてくれるような気がする。
この黄金色のジュースが明日、心を燃やす血の一滴になりますように。