2018年『Some Rap Songs』を最大公約数に連なるエクスペリメンタルな作品群にはMIKEやNavy Blueを筆頭にグッとくるタイトルも多かったが、ここ最近はやや食傷気味だった。そんな中聴いたメンフィスのラッパー Cities Avivのニューアルバム『MAN PLAYS THE HORN』は確かに2018年以降のアンダーグラウンド・シーンとの連なりを感じさせながらも一線を画すオリジナリティ溢れるサウンドが刺激的な一枚だ。
グリッチなサンプルとアブストラクトなビートこそ先述のシーンからの流れを感じさせるもののそこにアンビエント〜ダウンテンポ的なまどろみとメンフィスラップ、ヴェイパーウェイヴ風のざらついた質感をコラージュしたストレンジな音像はどこか懐かしくも近未来的で時代や地域性にクエスチョンマークが浮かぶ未知のサウンド。深海のようなサウンドスケープが印象的な12分間にわたるドリーミーなダウンテンポ「SMOKING ON A BRIGHTER DAY」、リヴァーヴまみれのトリップホップといった趣きの「STREET LAND ON ME」「THE FINAL SPARK」あたりの内省とメロウネスも魅力的だし、「THE SUN THE MOON THE SPA」や「BLEUS TRAVELER」はだらしない昼下がりに最適なドープでサイケデリックなソウルサンプルが美しくとにかく心地よい。
気がつけば快楽的な音楽をのうのうと楽しめるような世界じゃなくなってしまったけれど、こういう時こそ逃避的な音楽は必要だ。一日中スマートフォンと見つめあっても埒があかない。直視出来ない世界と向き合うためにも全26曲82分(デラックス版は35曲115分!)、たまにはレッツトリップといきましょう。