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COLUMN

FUN THEATER THREE vol.1

1

「人間に賭けるな」

前田満州夫監督

1964年日活映画。シネマヴェーラで鑑賞。
ある競輪場で男が女に出会う。男は女に惹かれ追うが、女もまた別の男を追っていて……。さらにそれらをとり巻く人間模様。みんな何かにとりつかれたように追いつ追われつするも、空虚がただ広がっていくばかり。
こんな面白い映画があるとは……と驚いた。
先月DVDが発売されたようだが、そのジャケットカバーに見られる当時のセンスならではなトーンと、実際の映画の印象にはかなりギャップを感じる。
今までモダンと形容される日本映画を観ても、多かれ少なかれ泣きの要素だったり、どこかしらアナクロなものを感じることがほとんどだったし、そういうものなのかと思い込んでもいた。
そんな自分にとって、モダンな日本映画というのはこの映画こそ。
劇中ずっと充満しているクールで熱い空気は、かっこいいジャズみたいだ。
スクリーンに吸い込まれてフィルムの粒子ひとつひとつに分解されてくような快感がある。

2

「明日の夢があふれてる」

番匠義彰監督

1964年松竹映画。ラピュタ阿佐ヶ谷で鑑賞。
ある天ぷら屋が舞台のラブコメディ。主人公カップルの恋の行方と関係人物たち複数のドラマが折り重なって展開していく。高度経済成長期における日本社会の光と影がコントラスト鮮やかに反映されている。まさにタイトルに偽りなしの内容。
とにかく全てが軽い。といって軽薄ではなく、軽妙洒脱でベタついたところがないサラッとした職人さんならではの手際の軽み。
物語の芯はひと組の男女カップルながら、カップルそれぞれの家族、それぞれの友人たち、さらにそのパートナーや仕事関係者たちの様々な諸事情によるドラマが、くるくるコロコロと転がっていくのがとても楽しい。
そんな盛り沢山の情報量をなんなく一本の映像作品として成り立たせていることに感銘を受けた。
終始爽やかなトーンによる語り口が観ていてひたすら心地良い。
物語の結末も大仰な大団円として盛り上がるでもなく、とは言えしっかり感動を胸に残して映画の幕は閉じる。

3

「冬の旅」

アニエス・ヴァルダ監督

1985年フランス映画。シアター・イメージフォーラムで鑑賞。
ある冬の日の朝、畑の側溝で若い女の遺体が発見された。バックパッカーの彼女はどこから来てどこへ行こうとしていたのか? 道中で彼女が出会い関わった人々の語りによって彼女の姿が紡がれていく。
なんとなく難しい映画なのかとばかり思い込んでいたけれど、いざ映画が始まると同時にスクリーンに引き込まれ、最後まで途切れることなく夢中になって観た。とにかく面白い。
あらかじめ悲惨な結末が定まっているというのに、スクリーン上の視線はあたたかく映画ならではのユーモアも湛えている。
語り口はひたすらクールだけれども、そこに簡易で自然なやさしさを感じる。
どんより灰色の曇り空の下で流れるレ・リタ・ミツコのヴィヴィッドな音が空虚に響くのがなんともかっこいい。
今回は30年以上ぶりの日本国内上映らしいが、今年になって2ndアルバムの50周年記念盤が発売されたカレン・ダルトンの漂白感と思わず重ねてしまうものがあった。
紛れもなく傑作だと思う。

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