カテゴリー
FEATURES

舐達麻 ─ 燻らす息吹に巻かれて

きたぜ、また書かせてもらえる時が!と言っても今回は私が今まで色々なアーティスト聴いてきた中で果たしてここまでハマったアーティストはいたか…否!なアーティストについて書かせて頂きます。敬称略させて頂きますのでご理解のほど何卒。

まずはそのアーティストなんですが「舐達麻」です。そりゃもうすごい聴いてます。そんな方今ごまんといると思いますが負けないくらい聴いてます。はい。スマホのユーザー辞書で「な」って打てば出るように設定してます。あと、ミー文字とかいう自分で作れる絵文字?みたいので3人とも作ってあります。はい。

よくわかんないアピールは置いといて、さっそく。まず初めて知ったのはその時働いていたとこにいた大学生からなんですが(この子がすごい詳しいの。本当尊敬してる)なんとなしに「最近おすすめ誰かいる?」って聴いてみたら「これです!」って言ってみせられたのこれでした。

その時の衝撃ったらなかったなぁ。ということで、そこからなんでハマっていったか今から書いてくね!まず3人の声。私の中でラッパーの声って好きかそうじゃないかを判断する大部分を占めています。だからオートチューン、ダメ、ゼッタイ!って思ってました。最近まで。今はそんなことないけど使ってないアーティストの方が惹かれますね。だってラッパーは個性出してこそでしょ?声こそ個性を出す武器の1つなのにあれ使っちゃうと良くも悪くも差が無くなっちゃうのが勿体ないと思ってしまうんですよね…あくまで個人的見解ですが。オートチューンの話はまたどこかの飲み屋で管巻くとして話を舐達麻へ。


まずBADSAIKUSH。ただのハスキー声とも鼻息荒いアノお方のような声とも違う声。あれこそ武器になる声なんだよなぁ。DELTA 9 KIDの声は歯切れの良いちょい高い声で聴いていて耳心地良いし歯切れが良い分リズミカルに聴こえるから惹きつけられます。G PLANTSもちょっと高いんだけど気だるさもあって良い。曲のHOOKを歌うことも多いですが、キャラが立ってるから中毒性のあるHOOKに仕上がってて良いんですよね、これが。それぞれが唯一無二で聴いたらすぐわかる声を持っているし、尚且つそれぞれがそれぞれを邪魔してないから聴いてて違和感もない。その3人が合わさってるんだからそりゃね、もうね、ね?良くないわけないんですよ。おすすめなのが”ENDLESS ROLL”のHOOK。珍しく同じリリックを3人で回して歌うんですが同じだからこそ特徴がしっかり感じとれるので是非。

そして、ビート。このビートもその曲を判断するための重要な要素なんですがこれもまた良いものを提供してくれてるなぁと。
はじめにGREEN ASSASSIN DOLLAR。彼のことは恥ずかしながら”Flotin’ “で知ったのですが、ただただツボでした。普段R&Bも好きでよく聴いていて綺麗な曲に惹かれる習性があるんですがまさにでした。今でこそLo-fiって言葉が出てきてムーヴメントの1つになってきています。彼の曲も恐らくそれにカテゴライズされてしまうんでしょうけど、そことは一線を画す魅力があります。BADSAIKUSHのインタビューでもビート選びが重要で拘っていると仰っていました。好きなアーティストにNUJABESをあげていましたが、GREEN ASSASSIN DOLLARは俺の中で(NUJABESを)超えているとも仰っていて、もの凄い信頼関係だなって。自分が好きなアーティストって孤高の存在だったりすると思うんですが、そう言えるってことはお互いの揺るがない関係性があるからこそだと思うんですよね。こういうのってそうあることじゃないので、縁ってあるんだなぁとしみじみ思いました。またビート・アルバムをコンスタントにリリースなさっていて私もFLYING LOTUSの”YOU’RE DEAD!”以来のビート・アルバムとして聴いてます。声のサンプリングの仕方とか好きで先述通りR&Bに近いというか、聴いてて気分上がります。

そして、なんと言っても2020年7月にリリースされた最新シングル。

この曲もまた今までとは違った雰囲気を持ったビートで、歌もののサンプルが効いていてそれぞれのメンバーが思い馳せているようでどこか切なく、それでいて力強さも持っているので聴いた瞬間から耳もってかれてます。「違法大麻不法所持してる肌身離さず」だって。ここのリズム感好き。リリースされてからひたすら聴いてる毎日。

次に7SEEDS。DJ BUNとKIC.(KICK DA FRESH)の2人での名義ですが、私が知ったのはこの曲でした。

好きな曲の1つなんですが、BADSAIKUSHの有名なパンチラインがあるのもこの曲ですね。でも魅力はそれだけではなく散々話題になっている元ネタもその1つ。未だに何が使われているかわかっておらず逆再生で使っている(?)ことがわかっているくらい。でも、私が思うにわかったところでそのネタのベストな使い方はこの曲で正解を出してると思うんですよ。だからこそこんなに話題になるわけだし。これに限って言えば同ネタ使うのってかなりハードルが高い気がするなぁ。なのでこのビートメイク・センスに脱帽して謎のままでいいんじゃないかなって思います。歌もののサンプリング最高!KIC.も動画サイトに2曲ほど音源がアップされていますが、こちらもビートにギターの生音が合わさった曲で特に”én”が好きです。というかどっちも相当良いです。もちろん、DJ BUN名義、7SEEDS名義でアルバムもリリースなさっていて、これももれなく最高です。

そして音の殺し屋SAC。この方の曲で1番好きなのがこれ。

あのSCARSを支えているだけあって、もう最高です。出だしからやられてます。こんなに夏の終わりのような寂しい雰囲気なのに舐達麻のリリックが乗ると全然違うように感じます。前を見据えて俺らの先は明るいと言うBADSAIKUSH。ただ息をするだけで終わるなんて虚しいと言うDELTA 9 KID。限界なく満開に咲くことを歌うG PLANTS(ヴァースの始まり方が好きすぎて…夏)3人の言葉が強いので寂しいだけではない立ち止まらず前に向かっていく名曲だと思っています。この曲のフィジカルがないので7インチ・レコードでもCDシングルでもどんな形でも良いので待ち望んでる今日この頃の私です。是非お願いしまーーーす!(いきなりのサマーウォーズ風で。)

最後にNAICHOPLAW。APHRODITE GANG所属のビート・メーカーです。

他のビート・メーカーとはちょっと違う危うさと言うか妖しさがあると思います。私が彼の作った曲で好きな曲は”POT HEAD”です。ピアノのループが綺麗でシンプルだけど印象的な曲だなぁと。G PLANTSの有名なパンチラインもこの曲ですね。
というか、この曲パンチラインの応酬というか個人的に耳に残る言葉が多いです。D BUBBLESのヴァースの始まり方だったり、DELTA 9 KIDの「癖になる」からの「アムステルダム」のリズミカルな言い方だったり。1stアルバムには契とかESTETIKAとか人気曲もありますが中でも特に聴いてる曲はこれです。

ということで、長くなりましたが個人的舐達麻の魅力の1つ、ビートでした。SACは別としても彼らのレーベルAPHRODITE GANGにこれだけ格好良いビート・メーカーがいるってことが良いですよね。しかもお互いに刺激し合って高め合っているのが曲からも伺えて、その「より良いものを作ることへの妥協の無さ」が様々な人を魅了することへと繋がっているんでしょう。

そして音楽に対する姿勢。インタビューでも2019年の12月に行なったライブの際にもBADSAIKUSHは芸術をすることへの自身の考えを仰っていました。誰でも何かを作ることをした方がいい、と。自分の精神状態を絵を描くとか詩を書くという何かを作り出すという形で吐き出すことによって人として成長することに繋がっていく。上手くいくことなんて滅多になくてスランプな時がほとんどだけど、それを基本のこととしてそれでも自分が納得するまで続けていく。このことを自身の身をもって体現していく彼らの真っ直ぐな姿勢こそ人を魅了する力なんだと思いました。ちなみにそのライブを観に行かせて頂きましたが、多分終始瞬きなんてしてないと思うな。それぐらい脳裏に焼き付けときました。一部ですが、ちょうどそのMCもありますので、こちらも是非。

リリックの内容や生い立ち、結成のきっかけなどはインタビュー記事を読んで頂ければ。むしろ読んで頂きたい!なんだかんだ言っても本人たちの言葉が1番なのでここでは書かないことにします。

最後に、これは要望というか切望というか願いですが、D BUBBLESの復活を是非とも。もちろん今の3人でも充分に曲の内容的にもビジュアル的にも仕上がってきているのは重々承知の上ですが、1stアルバムを聴いていると、もしD BUBBLESが今再加入して、GADや7SEEDSのビートで4人でマイクリレーしたら…とか考えるとワクワクしません?なぜって?D BUBBLESって言葉の乗せ方も上手ですしパンチラインとかかなりあると思うんですよね。個人的に。思いません?どう?だめ?状況が状況ですし本人たちにしか知り得ないことなので外野がどうのこうの言ったところで簡単にはいかないことだとはわかっています。でも、いつの日か4人でのマイクリレーをライブや音源で聴ける日をただのファンとして楽しみにしています。もし4人になったら…考えるだけでニヤニヤが。

本当に最後は好きなリリックでお別れ。

Ladies & Gentleman お待ちかね
聞き逃すな これが噂のあれ
点と線繋ぐも行方は不明
煙のよう 残る匂いだけ

カテゴリー
FEATURES INTERVIEWS

Interview with Wool & The Pants

インタビュー、テキスト :村瀬翔

2019年ワシントンD.C.のインディ・レーベル“PPU”からリリースの1stアルバム『Wool In The Pool』が P-VINE から CD としてリリースされた。もはやこんな枕詞は不要かもしれないが坂本慎太郎の2019年ベストディスクのひとつに選ばれ ele-king の年間ベストランキングでは2位という高評価を得た本作、ソウル / ファンクを基盤としながらも Trap や Down Tempo / Leftfield まで通過した現代的なジャンル解釈とオルタナティヴな音楽性は「インディ」や「アンダーグラウンド」という言葉が形骸化した日本音楽シーンのなかで一際異才を放つ素晴らしい作品だ。

“Bottom Of Tokyo” や “Just Like A Baby Pt.3” で聴けるクールなファンクネスとミニマリズム、ホルガ―・シューカイが2019年にトラップに興じたような “Wool In The Pool”、じゃがたら “でも・デモ・DEMO” のリリックに新たな解釈を浮かび上がらせた “Edo Akemi”、最終曲 “I’ve Got Soul”は乾いた裏拍のギターに Sun Ra が鍵盤を添えたかのようなあまりに甘美なダブ。ソウル、ヒップホップ、ポストパンク、ダブ… 様々なジャンルの影響を感じさせながらも、そのどれとも似つかないオリジナルなサウンドをデビュー作ながら既に獲得している。

原体験としてのヒップホップから Sly & The Family Stone に始まり、CAN、じゃがたら、SAKANA、Standing On The Corner、Frank Ocean、Suicide、Albert Ayler に Giuseppi Logan、さらには Robbie Robertson から戸張大輔まで登場する以下の対話をもってしても彼らの音楽の底に流れるなにかはつかむことは出来ない。でもだからこそ、そのなにかに触れようとするだれかの手がかりになる事を期待して、ヴォーカルとすべての楽曲を手掛ける徳茂悠に話を聞いた。

Wool & The Pants
東京を拠点に活動する、德茂悠 (gt/vo)、榎田賢人 (ba)、中込明仁 (dr) による3人組。2019年ワシントン D.C. のレコードレーベル PPU (Peoples Potential Unlimited)よりデビュー LP をリリース。

Wool & The Pants のデビュー作はワシントンD.C.の名門レーベル “PPU” によって発見された。アメリカのオブスキュアなブギーからエストニアのシンセファンクまで発掘し、熱心なディガー達から絶大な信頼を集めるレーベルから日本の現行アーティストの作品がリリースされたことはそれだけでも大きな事件だった。そのリリースの経緯はどのようなものだったのだろうか。

——— はじめに今作の経緯を聞かせて欲しいんですけど、そもそも一年前ぐらいは 1st アルバムじゃないっていう認識でしたよね。

徳茂:そうですね。でもどっちでも大丈夫です。

——— 収録曲に関しては基本的に PPU 側がコンパイルしたんですか?

徳茂:全曲送って欲しいって言われたので全曲送って、その中からPPUが選びました。最初に収録曲が送られてきた時は、正直微妙でしたね。この曲入れるんだ、みたいな。

——— 曲順に関しては要望は出したんですか。

徳茂:伝えました。この曲じゃなくて別の曲を使って欲しいとか。採用されませんでしたけど(笑)

——— じゃあ、ある程度 PPU の意向が採用された形なんですね。

徳茂:そうです。それで収録曲が決まった後に PPU のサイトに1分くらいのティーザーというか試聴サンプルがあがって、それを聴いたら意外といいぞって。MIX もいいし。

——— MIX はすごい良いですよね。バンドで録音されてる曲と宅録の曲が違和感なくアルバムとしてちゃんと並んでいて。

徳茂:違和感なくつながってて驚きました。アルバムとか意識せずに一曲ずつ作ってたので、それを PPU が良い感じに一つの作品にまとめてくれたのはありがたかったですね。

——— じゃあ、PPU のコンパイル力はやはりすごかったんですね。

徳茂:そうですね。自分で選曲してたらこういう感じにはなってなかったと思います。曲を作ってた時は、やりたいことが全然出来てないって思ってたんですけど、できてないものが集積して別のものが出来てたっていうか(笑)
それに気づくきっかけになったと思います。

——— 曲順に関しては特に重要に思えるのが最後の2曲 “Edo Akemi “ と “I’ve Got Soul” ですよね。

徳茂:この2曲は自分も入れるつもりでした。

——— あの2曲で終わらせようと思ってました?

徳茂:曲順までは考えてなかったです。でも “Bottom Of Tokyo” はあんま入れたくなかったですね。カセットの2曲目に “Bottom Of Tokyo” のデモが入ってるんですけど、そっちの方がいいと思ってました。でも完成したアルバムを通して聴くと、流れ的に入れて良かったのかなって今は思います。

——— ファーストアルバムという認識でないというのは、すごく長いスパンで録音されたものが一作にコンパイルされている事も関係しているんですよね?

徳茂:大学生の時に録ったものも入ってますし、これが1stアルバムっていうほど計画的に作ってないんですよね。けど別に1stアルバムって言ってもらっても大丈夫です。

——— “Wool In The Pool” は入れたかったですか。

徳茂:そうですね。あの曲は Frank Ocean の “Provider” が出たころに作ったんですけど、それに近い雰囲気の曲を作りたくて。全然なってないですけど(笑)“Edo Akemi” はもうちょっと前に作りましたね。

——— あの曲もそんなに古いんだ。

徳茂:古いです。“I’ve Got Soul” と “Edo Akemi” は同じ時期ですね。この2曲はダブっぽいとか言われますけど、あの頃はそんなにダブにハマってなかったし、どっちかっていうとエスノっぽい感じを意識してた気がします。

No Wave的なコールドファンク“Bottom Of Tokyo”で幕を開けるA面は「林マキ / それだけのこと」をサンプリングしたインスト”Soredake”で終わり、レコードを裏がえすとドープなシンセ音と共にトラップ風の “Wool In The Pool” が流れ出す。『Wool In The Pool』の収録曲からは様々な音楽の要素を感じることは出来るが、そのリファレンスは白いスモークの中にまみれ分かりやすさを拒否するかの様に漂っている。そのオリジナリティは一聴した途端に影響源が露わになる数多のソウル系バンドとは一線を画すものだ。彼らは様々なジャンルやアーティストに影響を受けながらもそこには独自の解釈とアプロ―チがある。最大のルーツであるヒップホップとアルバム収録曲の話題はメンフィスラップのカセットテープから SAKANA の作品にまで及んだ。

——— Wool & The Pants の音楽はいろいろな影響を感じるんですけど、「この曲のインスピレーションは多分これなんだろうな」っていう分かりやすい参照点を持った楽曲はそんなにないですよね。

徳茂:ないですね。そういうことはしてないので。

——— ひとつ大きな影響としてスライ( Sly Stone )はあるんだろうけど、かと言ってこの曲すごいスライだなって曲も実はほとんどない。

徳茂:スライはかなり好きなので影響は受けてますけど、あくまで音の触りとか声の距離を参考にしているだけで、曲の構造とかは真似してないですね。

——— 影響源にスライもあればCANもあって….。 でもCANの中の隅っこの部分というか、ニュアンスの部分を汲み取りたいという風に感じ取れますが、そういう感覚はありますか。

徳茂:どれも部分部分で影響を受けてるって感じです。一番はヒップホップですけど。

——— ではその德茂さんの一番重要な原体験、音楽的なルーツとしてのヒップホップ、それのどういった部分から最も影響を受けたんでしょう?

徳茂:マインドですかね。そもそも楽器の素人が人の曲をサンプリングして自分の曲にしたとこから始まってるじゃないですか。それであんなドヤ顔でジャケ写撮って(笑)そういうマインドからの影響はあります。その時の自分ができる範囲でかっこいい曲を作るっていう。思いつき先行で。ヒップホップに限らず、突然ダンボールとか Der Plan とか Suicide とか面白い音楽やってる人たちってそんな感じですよね。

——— たしかに Suicide なんてまさにそうですよね。

徳茂:そういうマインドで僕もいきなり機材買って、何も分からない状態で色々やってみてたので。

——— そういう DIY というか独学みたいなやり方で自分なりにやれることが増えていって、更新されていく。試行錯誤してやっていくなかで、ほんとは正しくないやり方で覚えたりとか、そういうことが作る音楽に影響しているってことはあると思いますか?

徳茂:影響してると思います。ギターに関しても基本は短音で弾いてて、あとは自分で見つけたコードしか弾いてないです。なので、その音のコードなら別にちゃんとした抑え方があるとか言われますけど、ちゃんと音出てるしいいかみたいな。

——— 職業作曲家とは真逆のポジションですね。

徳茂:そうですね。頼まれてもうまく作れそうにないので。音楽で飯を食うのは難しそうですね。

——— 少しアルバムの収録曲について聞かせてもってもいいですか。まずは話す機会も多いとは思いますが “Bottom Of Tokyo” について。

徳茂:“Bottom Of Tokyo” は大学のころに書いた曲ですね。もともとはもうちょっとメロディが普通の歌ものっぽい感じでした。いまの編曲が出来たのは2016年くらいだったと思います。

——— でもあの曲は何バージョンもありますよね。

徳茂:かなりありますね。

——— ちょっと前に配信になった “Bottom Of Tokyo #3” が3バージョン目ですか?シングルバージョンとテープに収録されたものと。

徳茂:一応録音してあるのは。だけどバンドでやってるのはもっと色んなバージョンがあります。

——— 最近では Wool & The Pants の代名詞的な曲になりつつありますけどバンドを象徴する様なサウンドの曲ではないですよね。

徳茂:そうですね。ああいう No Wave / ポストパンク的な曲はあれぐらいしかないんで。

——— アルバムを通して聴くとたしかに異質な曲ですよね。1曲目にしか入りえないというか。

徳茂:他の曲からあの曲に繋ぐのは難しそうですね。ライヴだと中盤にやったりしてますけど。

——— 最終曲 “I’ve Got Soul” はどうですか? Wool & The Pants はダブからの影響について言われることもありますけどあの曲はかなりかわったタイプのダブですよね。ギターは裏ではいってくるんだけど普通のレゲエみたいにはのれないしエフェクトがあるわけでもないし。

徳茂:鍵盤が表に入ってるから、変な感じがするんじゃないですかね。

あれは最初エスノなファンクみたいなのを意識してて、そこに坂本龍一の“千のナイフ”みたいな鍵盤を入れたイメージで作ったはずです。

——— バンド編成のライブでこの曲を演奏しているのを観たことはあるんですが。

徳茂:やってますね。もともと鍵盤は入ってなかったんですけど、なんか面白くなかったので、あとから鍵盤とギターソロを加えて今のかたちになりました。

——— じゃあ Young Marble Giants のジャズファンクバージョンといわれた “Just Like A Baby Pt.3” はどうでしょう。

徳茂:この曲は、SAKANA の『夏』ってアルバムにジープって曲があって、ギターでベースラインを弾いてるんですよね。その曲の影響が結構ありますね。あとはテレヴィジョンがツインギターでやってる感じをギターとベースでやってみたかったんです。

——— アルバムに入れたかったと言っていた “Wool In The Pool” はどうでうすか。あまり語られていない曲のようにも感じますけど。

徳茂:この曲は、さっきも少し話しましたけど Frank Oceanの “Provider” に触発されつつ、メンフィスラップのカセットに収録してそうな感じをイメージして作りました。PPUの人にはララージっぽいって言われましたけど。一応トラップぽいビートにしたつもりです。

彼らのライブを見たことがある人なら周知のことかもしれないが Wool & The Pants のライブは極端にシンプルでミニマルだ。ギターとベースとドラムと声、そのどれにもエフェクトはなく足元には何の機材も置かれていない。音源でリリースされている曲もほぼすべての楽曲が別アレンジで演奏される。そんな彼らのライブにおける影響について聞いてみると音源からは想像が出来ないアーティストの名前も聞くことが出来た。

——— ライブについて少し聞かせてください。Wool & The Pants は音源とライブは完全に別物ですよね。 徳茂さんの中で音源とは別にバンド編成のライブに影響を与えてるものってなにかありますか?

徳茂:Duke Ellington の『Money Jungle』は3人編成ってとこも含めて影響受けてます。全然違いますけど。いつかあんな感じにやれたらいいなって思います。

——— あのバンドサウンドに影響受けて最終到達点にしたいというのは、アンサンブルとして3人それぞれの別のことをやってるように聴こえるけどグルーヴが生まれる感じというか….

徳茂:バランスがいいですよね。アヴァンギャルドになりすぎない、ギリギリ崩壊しないグルーヴで、かつポップでスイングしてる感じがいいなって。楽器は違いますけど僕らと同じ3ピースだし、こういうタイトなグルーヴに惹かれます。

——— 以前、工藤冬里さんのギターソロの話をした時も同じような話になりましたよね。

徳茂:工藤冬里さんのギターは Giuseppi Logan のサックスっぽいですよね、見た目の雰囲気も含めてローガンっぽいですし。

——— 工藤礼子『夜の稲』の1曲目、あのギターソロはびっくりしました。

徳茂:一番好きなギターソロかもしれないですね。あの合わせるところと外すところの塩梅が絶妙で。アイラーだともっと外しますよね。Giuseppi Logan 的だと思います。
ギターだとあとは、Robbie Robertson の “King Harvest (Altermate Performanceの方)” の最後のギターソロは好きですね。The Bandの2ndはヒップホップっぽくて好きです。

——— The Band を聴いてヒップホップみたいだっていうのもなかなか面白いですよね。

徳茂:でも結構いると思いますけどね。よくサンプリングされてますし。2ndに一時期凄いハマりました。Garth Hudson の鍵盤もあんまり前に出てこないから、ほぼギター、ベース、ドラム、歌って感じで。影響受けましたね。

——— ライブに関して面白いのはほぼ全ての曲がまったく別のアレンジで演奏されてるってのもすごいですよね。

徳茂:“Bottom Of Tokyo” 以外は全部違いますね。

——— 音源を聴いてライブに来た人はほとんど知らない曲っていう。でも歌詞を聴いたら「あっこの曲だったんだ」ってなる。

徳茂:そうですね。でも、音源とライヴでは聴かれる環境が違うので、編曲が変わるのはそんなに珍しいことじゃないと思います。

『Wool In The Pool』のオリジナリティ溢れるサウンドはそれだけでも十分にキラーだが、この作品をより際立たせているのはきっと特徴的な日本語のフロウとヴォーカル、そしてリリックだろう。自分の声を嫌いと彼は話すがそのコンプレックスは自分の声を生かすサウンドを見つけ出すことやヒップホップへの回帰によって少しずつ解消されているようだ。スライの『暴動』はあの声とあのサウンドだからこその面白さがあり、細野晴臣の作品群も同様にどちらかだけでは生まれ得ない魅力がある。

——— Wool & The Pants はリリックもすごく面白いんですけどその言葉の乗せ方がとても特徴的ですよね。坂本慎太郎さんが JET SET 年間ベストの記事でそれについて言及していて、そういえばこれまで意外と誰も指摘してなかったことだなと思いました。

徳茂:歌い方に関してもヒップホップの影響が大きいと思います。歌がうまくないやつでも自分の声をいかした言葉のはめ方ができればいいっていうか。

——— 細野さんの音楽を参照するバンドはたくさんいるけどあの声とフロウが一体となった時の感じは誰も到達出来てない気はしますよね。

徳茂:細野さんの声は羨ましいですよね。ふくよかな低音で、スッと耳に入ってくるじゃないですか。僕の声は低音というよりはこもってるだけで、聞き取りづらいのでかなり嫌でしたね。けどラッパーにはこもった感じの声の人多いなって気付いて、Method Manに救われましたね。「こもってる」感じの声って、ヒップホップ的には「スモーキー」とか「ドープ」とか良い意味に変わってくるじゃないですか。だから歌い手としてはいい声じゃないけど、 “イル” なんじゃないかって(笑)

——— ではそのヴォーカルに対するコンプレックスみたいなものから自分の声をそんな風にプラスに捉えられる様になったのは何かきっかけがあったんですか?

徳茂:当時のバイト先の先輩がライブ観に来てくれて、終わったあとに「戸張大輔に声似てる」って言われたんですよ。戸張大輔に似てるなら色々やりようあるかもって思ったんですけど、しばらくして全然似てねぇって気付いて(笑)あの人って歌めちゃくちゃ上手いですよね、声のこもった感じもたぶん録音環境によるもので、低音ですけど通る声だと思うんですよ。

——— 戸張大輔は地声がこもってるわけじゃないんですよね。

徳茂:たぶんそうだと思います。あの人も細野さんと一緒で低くてふくよかな声で。それにめちゃくちゃ歌が上手いじゃないですか。井上陽水に歌い方が似てると思うんですよね。だから僕とは全然違いますね。

——— ライターの松永さんもなにかで言ってましたよね。

徳茂:3年くらい前、ライブを観にきてくれた時に言ってましたね。あの時は声にディレイをかけられてたので、それでだと思います。けどあの頃にはもう今に近い感じの歌い方になってましたね。『暴動』の頃のスライに影響受けた感じの。声の距離が近くて、低い声で歌う感じに。

——— そのマイクの近さというか、声の距離みたいな点で一番最初に意識したのは何だったんですか?

徳茂:ヒップホップ以外だと、マッシブアタックの曲に参加してたホープ・サンドヴァルの声ですかね。

——— それはどの作品の時の?

徳茂:『Heligolando』に入ってる “Paradice Circus” って曲です。18〜19歳くらいの頃に聴いてうわってなりましたね。一切加工されてない声がめちゃくちゃ近いとこで鳴ってて。

Warm Inventions も聴いたんですけどちょっと違うんですよ。遠いし加工されちゃってて。マッシブアタックってやっぱ声の録音にはかなりこだわってるんだと思います。毎回色んなゲスト呼ぶじゃないですか。それぞれの声がベストになるようにミックス/マスタリングしてるんだと思います。

——— かなり加工してるものも多いですよね。

徳茂:結構ボーカルに空間系のエフェクトかけたりしてますよね。けどあの曲は一切加工されてなくて、耳元で歌われているような感じで。自分の曲でも声の距離は結構気にしてますね。多少キーが外れてても声の感触が良ければOKって感じで。マッシブアタック以外だとスライの “Just Like A Baby” とか。King Krule も一番好きなのは 弾き語りの方の “Perfect Miserable” ですね。

——— それはソノシート(最新作『Man Alive!』に付属)収録されていた方のバージョン?

徳茂:そうです。『Hey World!』ってショートムービーでこの曲を歌ってるシーンがあるんですけど、めちゃくちゃいいですね。最近だと Caleb Giles の “Wondering” も好きです。向こうのラッパーってそういうの分かってる人多いですよね。Travis Scott もそうだし、A$AP Rocky も Earl Sweatshirts もそうですよね。ラッパーってそこがかなり重要だと思うので、声のバランスは歌う人よりうまいんじゃないですかね。

———— ヴォーカルというか声に関していえば例えばジョン・レノンも自分の声が大嫌いだったみたいな逸話が多く残ってるじゃないですか。

徳茂:らしいですね。ソロだと大体加工されてますもんね。僕はジョン・レノンの声好きですけど。
基本的にイヤホンとかヘッドホンで聴いたときに、いい感じに聴こえる声が好きですね。

——— スピーカーでは聴かないんですか?

徳茂:スピーカーで聴くことはほぼないです。それだといま話してたようなタイプの曲は、良さが半減しちゃうので。自分の曲を作る時も、最後までアウトプットで確認しないでマスタリングまで終わらせてます。ていうかそもそもモニタースピーカー持ってないんです。

——— なるほど。徳茂さんが影響を受けてる音楽って、バンドというかグループが極端に少ないじゃないですか。ロックもあったとしてほとんどソロで、それはなんでなんだろうって思ってたんですけど、声の録音やヴォーカルの話を聴いてるとなんとなくわかった気がしますね。

徳茂:ソロだと声の比重が大きいですよね。バンドだと各楽器の出番を作ったりするじゃないですか。

——— それっていうのは表現としてパーソナルなもののほうが好きってことなんですかね。

徳茂:そうですね。こういう声の距離とか音質のものって結果としてパーソナルなものが多い気がします。

——— リリックに関してなんですが Wool & The Pants の歌詞は内向的なものが多いんだけれど、ただただ内側に向かう訳ではなくて外の世界への視線を感じるものが多いですよね。

徳茂:内向的だとは思ってないですけど、内面を書いてる曲は多いですね。でも内面には外の状況が影響してるはずなんで、どっちって事もないと思います。歌詞に関しては、本の影響ですね。宇野浩二とかアリス・マンローとかミシェル・ウエルベックとか好きです。

——— 徳茂さんが影響を受けている日本の音楽、じゃがたら、SAKANA、ECD… その辺の日本の音楽からはリリックの面でも影響は受けてるんですか。

徳茂:リリックは影響受けてないですね。歌詞を書く時はあんま考えすぎないようにしてます。

——— それこそフロウが重要なわけですね。

徳茂:歌い方に関しては。江戸アケミさんの “アジテーション” のルーズな感じとか、『夏』の頃のポコペンさんの歌い方とかは影響受けてると思います。

——— ブルースや演歌みたいに言われたくないって話してた事がありましたよね。

徳茂:ブルースとか言われますけど、全然違うと思いますね。ハウリン・ウルフとかフェントン・ロビンソンとかブルース自体は好きですけど、自分のバンドの音がブルースだとは思わないです。

——— 日本のシーンのなかでどこにも行けない感じ、居場所のない感じというのはいままでにも話してくれたと思うんですけど、、

徳茂:どこに居ても居心地悪いですね。いま居心地いい人なんていないと思いますけど。

『Wool In The Pool』のサウンドやリリックについて大袈裟に語る事を出来るだけ避けようとしたが(すでに多くで言われているように)この作品はじゃがたら、フィッシュマンズ、坂本慎太郎やECDなどの名前を引き合いに出さずにはいられない、それはこの作品が日本のオルタナティヴ・ミュージックにおける最良の系譜に位置することの何よりも明白な証拠だろう。

“Edo Akemi” から続く最終曲 “I’ve Got Soul”、そのざらついたサウンドを「夜の果て」でイヤホンから耳にするとき、それはまるで “都市生活者の夜”、“ナイトクルージング”、“Night Walker” や “つぎの夜へ” にはじめて触れた時のあの感覚を思い起こさせる。是非聴いてみてほしい。


ウール・イン・ザ・プール [CD]
Wool & The Pants / P-VINE

カテゴリー
FEATURES REVIEWS

ダンシングホームレス – tHe dancing Homeless

今年3月に公開されたドキュメンタリー映画『ダンシングホームレス』。路上生活者達で構成されたダンス集団の活動を追ったこの作品は一部の映画ファンや映画誌から高い評価を得るもののコロナウイルスによる劇場の臨時休館と共に公開は打ち切られた。

しかしどうやら6月1日からの再上映が無事決定したらしい、その後どのくらいの期間上映されるのかは分からないが少しでも多くの人に本作が届くことを期待しここに監督からのコメントを紹介する。

「『マラノーチェ』以来、G・V・サントが成就したストリート・キッズとの脱力的共振」と評された東京の路上風景、カメラが捉える彼らの息遣いを是非感じて欲しい。

ドキュメンタリー映画『ダンシングホームレス』公式サイト


DIRECTOR’S STATEMENT

監督:三浦 渉

東京に住む私たちの生活からは、ホームレスの姿は見えない。私は本作で、大都市・東京に住むホームレスたちの姿をしっかりと見せたかった。それは日本社会を写す鏡でもあるからだ。
そしてその上で踊ることが彼らと他者、そして社会との唯一の接点になっているだけではなく、路上生活を経験した身体から生まれる踊りの魅力をしっかりと描きたかった。彼らの踊りは、何よりも彼らが”生きている証”であるからだ。

ただ私は「なぜ自分がホームレスにならないのか?」「彼らと私との違いは何なのか?」、この疑問を抱えながら撮影を続けていた。そしてその答えは、出演者の一人、平川と話すうちに明らかになった。彼は父親に虐待され、逃げるように家を出た。そして他のメンバーも、同じように親との問題を抱えていた。あるものは親と死に別れ、あるものは親を拒絶し、あるものは親に生き方を強制された。彼らには、親という存在がないのだ。だからこそ路上に出るハードルが低い。そこが彼らと私の絶対的な違いだと気づいた。
そんな彼らがこのグループの主宰者・振付師のアオキ裕キと出会い、踊りを始めた。グループには、”人に危害を加えない”以外ルールはない。踊りも各々から生まれたものが全て。無断で本番を休んでも構わない。アオキは言う「社会のルールがいいですか?」と。アオキは、彼らのあるがままを受け入れ、踊りに昇華する。この映画は、ホームレスにまで落ちぶれた彼らが、ようやく”本来の自分”を受け入れてくれる”父”と出会う物語でもあるのだ。

そして映画のラストに繰り広げられるダンスシーンの作品名は”日々荒野”。これはこの映画の裏テーマでもある。
主宰者のアオキはこの”日々荒野”の発想を、高層ビル群に囲まれた公園で思いつく。そしてその場所は、母親の胎内のような場所だったと語る。日本では、古来より山自体を神と崇めてきた。山に登拝することは、神の胎内に入り、そして生まれ変わることを意味する。
親と断絶し、ホームレスにまでなり、毎日が荒野のような人生を歩んできた彼ら。この映画のラストを飾る”日々荒野”のダンスシーンは、彼らが踊ることで生まれ変わる儀式なのだ。

このドキュメンタリーは、彼らが踊ることで社会復帰していく様を描くような、ありがちな物語ではない。
家族も財産もすべてを失ったホームレスたちが、唯一残された身体と、圧倒的な熱量で、彼らにしかできない肉体表現を追求する。
そして最後には生まれ変わる、今までにない”再生”を描いた物語だ。