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GROUP / RECORD

最近同僚におすすめしてもらって感動したレコードがこれだ。彼の薦めるレコードは毎回ハズレはないんだけど、今作を僕が詳しく知らないと言ったとき「え、マジっすか」と、半ば落胆、いやもはや軽蔑に近い反応をされたのですぐに購入した。そして、まんまと深くハマっている。レコード屋で働くのは辛いことばかりだが、こんな事があるからいまだに続けているのかもしれない。

検索するにはやっかいなアーティスト名とタイトルからして、ひしひしとアティテュードが伝わる本作は2001年佐々木敦プロデュースのレーベル「ウェザー」からリリースされた国産ポストロックの先駆的作品、として知られているらしい。なんとなく存在は知っていたが、あの界隈の音には昔から鈍感で恥ずかしながら今回のレコード化を期に初めてちゃんと聴いた。

トランペット、ソプラノ・サックス、ギター、ベース、ドラムという編成のインストゥメンタル・バンドなのだが、とにかく全ての音が感動的に気持ち良い。ゆるやかに熱を帯びていく楽曲とそれを雄弁に表現する演奏が魅力であるのはもちろん、僕は本作をミニマルテクノや優れたダブアルバムなんかと同じ感覚で聴いている。サウンドそのものにこの音楽の本質があり、そしてそれこそが本作がポストロックと括られる数多の作品から離れたところで鳴っていると感じる所以だろう。少し調べてみると録音とミックスに内田直之(LITTLE TEMPO、OKI DUB AINU BAND等)の名前を発見してなるほどと頷いた、とりわけ「Before」で聴けるふっくらとしたベースと管楽器の静謐な残響音は息を飲むほど美しい。

自宅のレコード棚を整理しながらKazufumi Kodama & Undefined「2years / 2years in Silence」のとなりに本作を並べた。アンビエントと交差する静かなダブアルバムと「RECORD」の並びが僕にはとてもしっくりくる。なにげない日常のなかで、ふとした時に聴きたくなるような、そんな一枚になるだろう。ちなみに、サブスクでも聴くことは出来るがぜひレコードで。カッティングはBasic Channelが設立したDubplates & Mastering、大きな音で鳴らして欲しい。

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The San Lucas Band / La Voz de Las Cumbres (Music Of Guatemala)

東北の田舎から東京に越してきてもう10年くらい経つが、この街の夏の暑さにはまったく慣れない。子供のころは夏の始まりといったら少し気持ちが浮き立つようなワクワクがあったものだが、いまや皆無。始まりと共にお願いだから早く涼しくなって下さいと切に願うばかりである。ちょっと飲みにいくのも、映画に出かけるのも億劫になるばかり。この熱気のなか、人が集まるところにすすんで行きたいと思えるのは異常な思考の持ち主だけだ(そう考えると毎日レコードを掘りにくる、ディガーの先輩方には頭があがらない)。まぁそんな世知辛いコンクリートジャングルに暮らすぼくの悲しき夏バテに寄り添ってくれる、素敵なレコードを見つけたので紹介する。

The San Lucas Band 「La Voz de Las Cumbres (Music Of Guatemala)」、本作はグアテマラの山村サン・ルーカス・トリマンの楽団による、葬送曲やポピュラーソングの演奏を収録した盤で初出は1975年。スイスの名門Les Disques Bongo Joeからこの度アナログリイシューされた。ディープな音楽ファンの間では密かに嗜まれていたカルトな1枚で、ジョン・ハッセルやチャーリー・ヘイデンの愛聴盤としても知られているらしい。レコードに針を落とすとまるで魂が抜けていくような腑抜けたサックスが流れ出し、フラフラともたつくドラムがそれを追いかける。アイラー、AEOC、ポーツマス・シンフォニア、コンポステラ、、、などの名前が頭に浮かぶが、なんだかそのどれとも似ているようで決定的に違う。映画版『ニシノユキヒコの恋と冒険』で少しだけ映るマヘルの演奏シーンの違和感と不思議なノスタルジー、なんとなくそれを思い出す。土着と非洗練、きっとどこにも存在しないオリジナリティ、こんな音楽をエキゾチックと呼びたい。

休日にクーラーの効いた部屋で流していると、少しだけ外の風が欲しくなる。窓をあけて、タバコを吸い、ぼーっと聴きながらだらだら過ごす、そんな夏にはちょうど良い。たまには山とかいってみるかと柄にもなく考えるが、きっと行くことはないだろう。いまのところ、2024年の個人的ベスト再発案件。これがリアルmaya ongaku、おすすめです。

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2022年アガった日本語ラップ15選

テキスト:藤井優

舐達麻 / BLUE IN BEATS

「BUDS  MONTAGE」以来2年ぶり?くらいの待ちに待ちまくったシングルがリリースされましたね。その間彼らにも色々ありましたが、この曲で全部捲った感じありません?トラックもリリックも更に進化した感じがあって堪りません!

DJ TATSUKI / TOKYO KIDS feat.IO & MONYHORSE

2022年のハイライトはこの曲で決まり!
トラックはもちろんのことIOもMONYHORSEもかましててブチ上がりでした。REMIXもあるけど個人的にはこっちの方がアガります。
とあるライブでIOのバースだけ本人が歌ってましたが盛り上がり方エグかったので文句なし!

OMSB / LASTBBOYOMSB

今年はOMSBの新作めちゃくちゃ聴いたなー。
色んなプレッシャーもあっただろうけど、あれ出せちゃうんだから流石ですよ。「大衆」なんて暫くこんな名曲出ないんじゃないかくらいの代物なんですが、個人的にはこの曲も好きでした。どこまでもヘッズなOMSB格好良すぎ!

OZROSAURUS / REWIND feat.ZORN

個人的永遠のヒーローOZROによる耳疑うくらい衝撃だった新曲のリリース!声とかフロウとか、もうね。格好良いですよ。本当に。しかもZORNのレーベルに参加とのことで、これからまた色々活動が見れるのかと思うと楽しみですね。もしアルバムとか出したら…期待してます!

AWICH / どれにしようかな

アルバム「QUEENDOM」も聴きましたね。ひたすらに。武道館も本当に良かったです。2〜3日思い出してニヤニヤしてたくらい余韻がありました。姐さん、アリーナ決まったらすぐ駆けつけます!

KANDYTOWN / CURTAIN CALL

2023年3月でその活動を終了する彼らによるラストアルバム、その名も「LAST ALBUM」の幕開けとなるこの曲。このマイクリレーも後少しかと思うとめちゃくちゃ寂しい気持ちが襲いかかってきます。もちろん3月の武道館、行かせていただきます!

C.O.S.A. / LEAVE ME ALONE feat.JJJ

ワンマンライブも格好良かったC.O.S.A.によるEPからこの曲を。「COOL KIDS」ももちろんだいぶ聴きましたね。こういう歌モノのサンプリングに弱いんで好きでした。ラッパーとして父親としての覚悟みたいのが感じれて沁みます。韓国ドラマのサンプリングもあったりで良いです。

ZORN / IN THE NEIGHBORHOOD

さいたまスーパーアリーナも大成功に終わったZORNによる新作から。ブレずにフッドスターを貫いてるのは相変わらずで「日本一韻踏むパパ」はパンチライン過ぎ!

ZOT ON THE WAVE / CRAYON feat.FUJI TAITO

個人的にM-1並みのイベントになってるラップスタア誕生からFUJI TAITOのこの曲が好きでした。
あの番組も色んなスターを輩出していて本当すごいなと思いますが、今年はどうなりますかねー。楽しみです!

TOKYO GAL / AS YOU ARE

こちらもラップスタア誕生に出演していたTOKYO GALの一曲。彼女の半生だと思うんですが、ミックスやシングルマザーとして生きてきた彼女が書くことで言葉の重みが感じれて良かったです。ラッパーに限らず性別は関係なくなっていると思うので、これからの活躍に期待!

WILYWNKA / KEEP IT RUNNIN’ feat. MFS

2022年に出たWILYWNKAの新作から。
参加してるMFSに絶賛どハマり中で、彼女のソロ曲も良いんですが、この曲の彼女のバースのフローが堪らない!「楽観的なMUSIC RIDER」ってなんだよ!格好良すぎ!

SOCKS / OSANPO

犬好き角刈り個性派ラッパーのEPから。
ギャグラップっぽいけどスキルフルだし、歯切れのいいラップが耳心地良いです。
動物愛、犬愛が溢れ出てる愛犬家必聴の良曲です!

¥ELLOW BUCKS / DELLA WAYA feat.CITY-ACE & SOCKS

¥ELLOW BUCKSによるアルバムから。
ギャングスタ・ラップっぽいトラックに三者三様の乗り方でカマしてる良曲。ワンマンライブ行きたかったなー。

JIN DOGG / 雨の日の道玄坂

どんなトラックでも様になっちゃうなって思ったJIN DOGGによるシングル。
ホーンなトラックが良いし、声格好良いですよね。映画の出演も決まったみたいなので、そちらも要注目です。

ELLE TERESA / BBY GIRLLL

もし僕がギャルだったらアンセムになっているであろう1曲。HOOKが良い!
「パジャマは脱いでドレスに着替えたいわ」ってパンチラインにヤラれてました!

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FYOC Favorite PLAYLIST REVIEWS

FYOC Favorites 2022

今年もFYOCに関わってくれたみんなのフェイバリットを集めました。今回はひとまず音楽編。まぁ本当にいろいろありますけど相変わらずイケてる新譜やまだ聴いたことない復刻ものなんかを探してる時間やそれを聴いてる時間はなにより有意義です。死ぬまでどのくらいの音楽に出会えるか分かりませんが一枚でも多くの素敵なレコードに出会えますように。最近はほんと素直にそう思います。

アメリカ、イギリス、スペイン、ベルギー、ドイツ、オーストラリア、日本…世界中の音楽家達のニューリリースから知られざるマイナーガレージ復刻盤、偉大なプロデューサーの宅録発掘音源に海賊ラジオのミックステープなどなど2022年FYOCのお気に入りです。それでは年末年始の暇時間にでもぜひ。

“やりきれないことばっかりだから、レコード、レコード、レコード、レコード、レコード、レコード、レコード、レコード、レコード、レコード、レコード、レコード、レコードを聴いている、今日も” ECD「DIRECT DRIVE」

Naomie Klaus / A Story Of A Global Disease

昨年末にフランスのレーベルBamboo ShowsからカセットでリリースされていたベルギーのプロデューサーNaomie Klausによる1stアルバムをスペインのエクスペリメンタル系レーベルAbstrakceがアナログリリース。ダビーなレフトフィールド・ポップにゆるいラップが乗る「Tourism Workers (Arrival)」などはLeslie Winerに通ずるところも。

Lucrecia Dalt / ¡Ay!

コロムビア出身で今はベルリンで活動するエレクトロニック・アーティスト。夢の中を彷徨う幽幻なサウンドテクスチャーとラテンのリズム、Don the Tiger 「Matanzas」の隣に置きたい独創的なモダン・エキゾチカ。南米で撮られた2022年映画『メモリア』における記憶の旅路のサウンドトラック、もしくは架空の街に想いを馳せるスリープウォーカーの頭の中、エレクトロニクスとフォークロアのこれ以上ない完璧な融合。

Act Now / Louis Adonis/Wow Factor

メルボルンのポストパンク・バンドTotal CountrolのJames VinciguerraとF INGERSなどの活動でしられるエレクトロニクス・アーティストTarquin Manekによるコラボシングル。ダビーなリズム・プロダクションにフリー・フォームなクラリネットをフィーチャーした遊び心溢れるミュータント・テクノ・ダブ。ジャングルっぽいリズムに流れ込むSide1もいいがBasic ChannelとJohn LurieがコラボしたみたいなSide2が至高。Yl Hooiをはじめオーストラリアのアンダーグラウンドはとても面白い。

MOBBS / Untitled

NTSのレギュラーも務めるサウスロンドンのDJ/プロデューサー、2017年以来のフルレングス。粗くざらついた質感のサウンドテクスチャーをベースに真っ暗な地下で鳴るインダストリアルなダンスホール、トラップ、ドリルなど14トラック。去年がSpace Africa「Honest Lobor」なら今年の気分は間違いなくこれ。ダンスホール・リディム集「Now Thing 2」のレーベル”Chrome”からのリリース。

IC-RED / GOODFUN

最高にSickな音を届ける詳細不明のラップデュオ、アムステルダムの”South of North”からリリースされたカセット作品。チカラの抜けたダルそうなラップとアブストラクトな電子音にポストパンク的DIYサウンド、Love JoysとThe Slitsが共演したみたいな奇跡の格好良さ。なんのルールにも囚われず鳴らされた音楽からしか聴こえないクールな佇まいに加えてひとつひとつの音選びには並外れたセンスが光る。

Jabu / Boiling  Wells(Demos 2019-22)

ブリストルのアーティスト・コレクティヴ Young Echoの3人組がひっそりとリリースしたデモ音源集。この作品で鳴らされるエコーまみれの甘美なトリップホップはこんな時代にもメランコリックでドリーミーな音楽が有効であることを教えてくれる。シンプルなドラムマシンに反響して溶け合うヴォーカルとシンセサイザー、現実に向き合うためにたまには音楽に逃避するのもいい。

V.A. / Ghost Riders

Rising StormからNora Guthrieまで収録した名作コンピ「Sky Girl」やオーストラリア現行エクスペリメンタル・ダブYl Hooiのアナログリリースなどで知られる”Efficient Space”からまたしても最高コンピレーション。トワイライトなフィーリングを軸に超マイナー・フォーク~ガレージを17曲、アートワークから曲順まで拘られた丁寧な作りに感動。夏の終わりのように儚く美しい、プリミティブな録音物からしか体験し得ないムードを忍ばせた素晴らしい1枚。ラスト3曲の流れはいつ聴いてもぐっときます。

Yosa Peit / Phyton

ドイツのシンガー、プロデューサーが2020年にリリースした1stアルバムをUKのインディーレーベルFireがDLコード付のホワイトカラー・ヴァイナル仕様でリイシュー。ジャンクでロウなブレイクビーツにNeneh Cherryを彷彿とさせる妖麗なボーカルが絡む「Anthy」は必聴。

Rosalia / Motomani

フラメンコ、レゲトン、バチャータ、R&B、ヒップホップ、、、、をアヴァンギャルドに折衷したエキセントリックな超ポップアルバム。サンプルにも使われたBurialをはじめ、Arthur Russellなんかの意外なとこまで古今東西ジャンルレスな影響元をぶち込んだ変態的センス炸裂のプレイリストと併せて聴くと楽しさ倍増。ミニマルなフレーズの反復と魔法のチャント「Chicken Teriyaki」,Frank Ocean風バラード「Hentai」など、こんなイカれた音楽が世界中で聴かれているなんて最高だしアートワークもやばい。

V.A. / Pause for the Cause : London Rave Adverts 1991-1996, Vol.1~2

世界各地に埋もれたオブスキュアな音源を発掘&リリースするロンドンのレーベルDeath Is Not The End。本作は、90年代にロンドンの海賊ラジオで流れていたアンダーグラウンドなレイヴパーティの告知CMをミックスした超マニアックな内容。当時のロンドンクラブミュージックシーンの熱気を追体験できる最高のドキュメント。

V.A. / Pure Wicked Tune: Rare Groove Blues Dances & House Parties, 1985-1992

Death Is Not The Endからもう一作。本作は、80年代中頃から90年代初頭にサウス~イースト・ロンドンの小規模なダンスパーティーでプレイされていたDIYなカセット音源をコンパイルしたミックステープ。ソウルやファンクなどのレアグルーヴをサンプリングし、サイレンやトーストを加えレゲエマナーに仕上げた独自のサウンドは、新たなジャンルの誕生を予感させるものだったが、90年代初頭のクラブ・ミュージックの台頭の中で埋もれてしまったそう。UKのサウンドシステムカルチャーの隠れた一面を窺い知れる貴重な音源集。

Dawuna / EP1

ブルックリンのシンガーDawuna、2021年「Glass Lit Dream」も良かったけどこの最新EPも相当やばい。鼓膜の内側にグッとくるくぐもった音質のインナー・ソウル・バラードを3トラック、前作からあったビートの実験性を残しながらもNearly Godの内省とD’Angeloの官能を同時に感じさせるようなメロディとボーカル、無二の存在感。

Slauson Malone / for Star(Crater Speak)

我らがSlauson Maloneの2022年ニューEP。各楽器が去勢されたように静かなアンサンブルを奏でるSmile #8 (Je3’s Eextendedd Megadance Version for Star)(see page 182) 、Loren Connorsまで想起させるダークなアンビエント・ノイズSsmmiillee ##55の2曲を収録。マッドな質感を残しながらもタイトル通りのスピリチュアルな展開に次作への期待も高まるばかり。

Beyonce / Rennaissance

先行シングル「BREAK MY SOUL」が出た時から興奮しっぱなしだったけどアルバム冒頭Kelman Duran参加&Tommy Wrght Ⅲサンプルの「IM THAT GIRL」でブチ上がり、「ARIEN SUPERSTAR」まで息継ぎ出来ませんでした、かっこよすぎ。Kendrick LamarのDuval Timothy参加の新作でも思ったけどアンダーグラウンドと結びつきながらも圧倒的な作家性と表現のスケール感を崩さないバランス感覚はさすがとしか。

quinn / quinn

Standing On The Corner、Slauson Maloneをフィバリットに挙げる17歳のラッパー/プロデューサー。絶妙な音の汚し方に脱臼したようなギター、変調したボイスサンプルのコラージュなどSOTCライクな要素は至るところに。しかし本作のハイライトは「been a minute」や「some shit like this」で聴けるロウなボーカルと内省的な胸をうつメロディにこそきっとある。

Babyfather , Tirzah / 1471

Dean Bluntの別名義Babyfather、Tirzahと DJ Escrowをフィーチャーしたニューソング。突然止まったり、つんのめったりするバグを起こしたワンループにTirzahのドリーミーなヴォーカルか乗るわずか104秒の素晴らしいUKソウル。Dean Blunt名義でリリースされたアコースティックな新曲「death drive freestyle」も要チェック、こっちは歌声が滲みる。

Quelle Chris / Deathfame

デトロイトのヒップホップ・プロデューサー/ラッパーによる7作目。「Feed The Heads」、「Cui Prodest」あたりの埃っぽいローファイなビートとダビーなサウンド・プロダクション、「King in Black」のスクリューされたトリップホップ、Sun Raのヴォーカル曲のようなピアノ小曲「How Could They Love Something Like Me?」など、いわゆるオルタナティブと形容されるヒップホップ作品にはやや食傷気味だった自分にも相当刺さった。Pink Siffu、Navy Blue参加。

Warm Currency /  Returns

シンプルであることはとても重要、例えばギターひとつとっても和音を鳴らすのか短音で弾くのかそれだけでも大きく違う。シドニーのデュオWarm Currencyのデビューアルバムで展開される極限まで削ぎ落とされた静謐なフォーク・ミュージックは生活音や自然音を効果的にコラージュしリスナーにあらゆる情景を浮かばせる。この研ぎ澄まされた静けさはKali Malone、もしくはMaxine Funkeやalastair galbraithのファンにも届くだろう。

Big Thief / Dragon New Warm Mountain I Believe in You

フォーク・ミュージックの歴史を無意識的に受け継いでいるかのような軽やかさとリアルな生活と地続きのサウンド。人間同士の繋がりがまだバンド・ミュージックにおいて魔法を起こし得るのだと教えてくれる真ん中に集まったミニマムなバンド・アンサンブル、それとは一転90年代初頭のニール・ヤングのようにハードなギターとレヴォン・ヘルムさながらのタイム感を持ったドラミングが印象的な来日公演も素晴らしかった。

Sam Esh / Jack Of Diamonds/Faro Goddamn

アメリカのアウトサイダー・ギタリストSam Eshの音源集、オリジナルは90年代にリリース2本のカセットテープ。とにかく乾ききったサウンドとあまりにプリミティブな演奏が衝撃的なストリート・ブルース。荒々しくかき鳴らされるワンコードの反復と独自の言語(?)のハウリングによる異形のミニマル・ミュージック。

Born Under A Rhyming Planet / Diagonals 

Plus 8 から90年代前半にシングルを数枚リリースしている Jamie Hodge による未発音源集。恥ずかながらはじめて存在を知りましたがもう最高の音しかつまっていないピュアでソウルフルな電子音楽、スウィングするドラムマシンによるジャズテクノ「Menthol」「Fate」「Hot Nachos with Cheese~」、微睡みのダウンテンポ「Siemansdamm」、繊細なリヴァーヴ処理とシンセが煌めくコズミックな「Handley」、エクスペリメンタルなビートとアンビエントな雰囲気を纏った「Intermission」など全曲最高。

Valentina Magaletti / A Queer Anthology of Drums

Al WottonとのHoly Tongueの新作も素晴らしかった打楽器奏者、デジタルオンリーだった2020年作がアナログリリース。ヴィブラフォンやトイピアノ、フィールド音を絡めながら打楽器のインプロヴィゼーションを展開する密林的エクスペリメンタル・パーカッション作品。呪術的な反復はときにMoondogやCanまで想起させる、いま一番刺激的なサウンドを届けてくれるパーカッショニスト。

CHIYORI × YAMAAN / Mystic High

メンフィス・ラップとアンビエント、ありそうで意外となかった最高の組み合わせ。音の快楽性に加えてポップな歌メロもあって年始はこれと宇多田ヒカル「BADモード」、Cities Aviv「MAN PLAYS THE HORN」ばかりリピート。とりわけ本作のアンビエント的メロウネスとメンフィス・ラップ由来のチープな質感による気持ちよさは中毒的。

V.A. / SUBLIMINAL  BIG  ECHO

今年1番のサイケデリックな音盤!ジャパニーズ・アンダーグラウンド音楽家11組がDUBをテーマに持ち寄った脳みそトロける12トラック。Hair Stylisticsの超ドープなスロー・ダブからTOXOBAMへの流れがいつ聴いても最高。TOXOBAM「HOT GOTH」のリリースで知られる”SLIDE MOTION”から。

Hallelujahs / Eat Meat, Swear an Oath

ラリーズのオフィシャル・リリースは事件だったが日本のサイケデリック・ロックにおいてはこれも忘れちゃいけないはず、ハレルヤズ86年作実に25年ぶりのリイシュー。Galaxie 500をはじめとするスローなサイケデリック・ギターロックに先んじて鳴らされたいま聴いても新鮮な楽曲達。フィジカルでは手に入れづらい状態が続いていただけに嬉しい再発です。リリース元は日本のアンダーグラウンド音楽を多数リリースするアメリカのBlack  Editionsで来年はWhite Heaven 「Strange Bedfellow」のリイシューも予定されている。

Charles Stepney / Step on Step

シガゴの伝説的プロデューサー、アレンジャー、作曲家Charles Stepneyによる70年代宅録音源集。チープなヴィンテージ・リズムボックスとアナログシンセをメインにホーム・レコーディングならではの親密さを感じさせる23トラック。Angel Bat DawidやJeff Parkerなどをリリースするシガゴの名レーベルInternational Anthemのナイスワーク。

HiTech / Hitech

デトロイトの天才Omar Sの”FXHE”からリリースのゲットー・テクノ・デュオ。ハウス、トラップ、フットワークなど多彩なビートを操り夜の街をクルーズする洒脱なシティ・ミュージック。メロウなシンセもフィメール・ヴォーカルも絶妙にちゃらくならなくてそこが良い。これがきっと都会の音楽。

OMSB / Alone

think god以来、7年ぶりのフルレングス。2020年以降多くの人が考えただろう当たり前の大切さとかありふれた幸せ、不味いたこ焼きを食ったり暇持て余して公園行ったりする「One Room」の日常はそんな当たり前を特に美化するわけなく淡々と少しだけユーモラスに切り取っている。人それぞれの日常にそれぞれの孤独が転がっている、そんな当然のことを教えてくれる。

Whatever The Weather / Whatever The Weather

朝のしんとした空気には静謐なアンビエント”25℃”、ドリルンベースの“17℃”は帰りの電車で、寒くなってからはメランコリックなシンセ・トラック“10℃”が肌にあう。Loraine Jamesアンビエント名義のデビュー作はアーティスト名通り、温度や湿度を感じさせるようなエレクトロニック・ミュージックであらゆるシチュエーションで良く聴いた。渋谷CIRCUS公演も最高だった。

V.A. / To Illustrate

レゲトンにインスパイアされたクラブ・ミュージックやダウンテンポ、UKベースの変種などbpm100前後で展開される低いテンポの先鋭的エレクトロニック・ミュージックをwisdom teethがコンパイル。大阪のabentisによるアンビエントなフィールを持ったダンスホール「Bicycle」、同じモードのFactaとYushhの「Fairy Liquor」、韓国のsalamandaのメロウなダブ・ステップ「κρήνη της νύμφης」あたりが個人的には白眉。

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The Oz Tapes / 裸のラリーズ 発売記念リスニング・パーティー @渋谷WWW X

会場内BGMはMJQ。気のせいかさりげなくDUB Mixが施されてるような。お香も焚かれていい雰囲気。ステージ向かって正面の壁一面はスクリーンが張ってあって、両端には水谷孝本人のものと思われるギターとアンプが設置されている。ステージ向かって右にビグスビー付きの黒いFenderテレキャスターとギターアンプGuyatone 2200。向かって左はやはりビグスビー付きの赤いGibson SGとこちらもキャビのみ右と同じGuyatoneで、ヘッドがMarshallというセット。

MJQにフェードインする形でオープニングアクトYoshitake EXPEの演奏がスタート。エレキギターによるインストで、明快なテーマが数珠繋ぎに切れ目なく展開していく素晴らしい演奏。
どこまでも伸び続けるようなサスティーン音に我知らずうちに浸りきっていると、突然照明が激しく点滅し同時に大音量のフィードバックギターが鳴り響いた。それまでの顕微鏡を覗き込んでいたようなピースフルな雰囲気が一転、ドレによるダンテ神曲のあの世界に。軽く恐怖を感じた。地響きのような大音量ではあるけども超重低音のそれではなく、中低音に焦点の合ったボコっとした音像で、下腹部~胸のすぐ下あたりを中心に全身へ振動が響き渡って気持ちがいい。身体が揺れて思わず踊り出したくなる。
The Velvet UndergroundのQuine Tapesのような親近感と、この時点ではまだ原石の輝きというか、ならではの愛らしさと激しさの眩惑感で満ちていて、The Original Modern Loversのような瑞々しさ。凶暴でありながら素朴で懐かしい音を奏でるバンドのこの圧倒的な個性は、やはりリーダー水谷孝の資質によるものなのだろうか。曲がレコードA面最後の“白い目覚め”になると、正面スクリーンに水谷孝とバンドの写真の数々が投影されて、胸がいっぱいに。写真は過去何度となく目にしてきたものだが、とにかくかっこいい。常に気品というか可憐さみたいなものがあって、これまでも目にするたびに思ってきたことだが、やっぱりいつ見てもかっこいい。

裸のラリーズといえばノイズギター。とまずはなるけれど、同じくノイズギターと形容されるようなUSオルタナ、或いはUKシューゲイザー、そのどちらとも違うものだと個人的には思う。
特にThe Oz Tapesでは、後の’77 Liveともまた違う剥き出しのバンドの姿が収められていて、The Velvet Underground、Jimi Hendrix、60年代後期サンフランシスコのサウンドetc…、それらが渾然一体となってこちらに向かって転がってくるようなグルーヴ感がかっこいい。サイケデリアという視点から考えてみると、アシッドなロックからMJQまでを横断する開かれたセンスは、今こそ広く聴かれるべきものがあると思う。Trad Gras Och StenarとShin Jung-hyeonと並べておきたくなるこのレコードの再発レーベルの大元がLight in the Attic Recordsというのに納得だ。

本公演はリキッドライトが全編に渡ってステージ上スクリーンに映し出される演出がなされていて、これがとても素晴らしかった。繰り返すリズムと響き渡るエコーに映像空間がリンクして意識がフラクタル状に溶けていくような、そんな音楽の醍醐味がたっぷり味わえた。さらに久保田麻琴によるライブMix、会場の音が本当に素晴らしく、まるで生きているかのようなバンドサウンドで、レコードを聴いて改めてあの場の凄さを実感した。

ラスト曲でステージ左右に設置されていたギターアンプがオン。
バンド演奏のフィードバック音がもつれ重なり混じりあって回転し続ける音像がとてもかっこよかった。

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Slauson Malone / for Star (Crater Speak)

あぁこれは最高の音だ。再生すると聴こえてくるサーフェイスノイズ、そして奥からは丸みを帯びたベースにアナログな質感のシンセサイザーとボイスサンプル。それらの完璧な鳴り、汚れ具合と配置、ただそれだけで何にもかえ難い魅力がある。Slauson Malone 久しぶりのEPに収録の 「smile #8 」にはまずそのサウンドの生々しさやられてしまった。前作ではアコースティックギターを多用していたが今回はベース、ということなのだろうか?とにもかくにも主旋律を奏でるベースギターのミュートされた絶妙な軋みはもうそれだけで充分気持ちが良い。前作からの変化といえばレコードのクラックルノイズが全編でなっていることも大きい。BurialといいCaretakerといいレコードノイズに魅了される人達の音楽に共通してある幽玄な仄暗さは2曲目のssmmiillee ## 55にたっぷりとつまっている。BurialはもちろんLoren Connorsまで想起させるノイズにまみれた甘美なダークアンビエントは間違いなく彼の新しいスタイルになるだろう。即完売だった12inchの再プレスを熱望!!これはレコードで聴きたいよね。

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Are You Experienced『Rくん』?

君は『Rくん』を聴いたことがある?というか体験したことがある?ないならいますぐ bandcampで買おう。黒バックにゴシック体の怪しいジャケット、匿名的なタイトル。きっと検索には引っかからないだろう。東京で活動するシンガーソングライター、ダニエル・クオン(Daniel Kwon)による変名プロジェクトである本作は2013年リリース当時、超局所的にではあるが多くの賞賛と驚きを生んだ。少なくとも僕の周りの数少ない音楽好きはそうだった。

はじめて聴いたのは立川の珍屋というレコード屋だったと思う。ハーシュノイズのような雨音、街の雑踏や波の音、サイレン、ナレーション、校内放送などが次々とコラージュされていくエクスペリメンタルで一聴して偏執的な拘りを感じるポップアルバムに思わずレコードを掘る手も止まった。録音は当時ダニエル・クオンの職場であった小学校と自宅スタジオで行われたらしい。子供の遊び声や給食放送らしき献立の紹介に合唱などあどけない小学生の声は多くの曲で聴くことが出来るし、グランドピアノやヴィブラフォン、ティンパニなどの音楽室の楽器達が本作にはよく登場する。

僕はこのアルバムに出会ってからというもののしばらくは『Rくん』の世界から抜け出せなくなってしまった、いまでもたまに聴くとやはりなんだか危うい気持ちになる。危うい気持ちというのは、あんまり深入りしちゃいけないのにどうにも抑えがきかない感じというか、つまりとにかく中毒的で気軽に覗いてはいけないものを見てしまった時の様な不思議な魅力がある。とりあえず冒頭の「Rainbow’s End」だけでも聴いてみてほしい、出来れば大きい音でヘッドフォンで。雨音のようなノイズからはじまり、囁かれる”レッツゴー、ワントゥー、レッツゴー、ワントゥー”。ダークで美しい響きを持ったメロディはもちろん、とにかく拘られた録音とミックスからは遊び心を超えた何かやばみを感じさせる。左から流れる不穏なシンセサイザーの持続音を断ち切るように唐突に入るアコギ、右から左へと侵食していく波の音、サイレン、スネアロール…ここまでくればあとはもう音に耳を任せるだけだ。もう一曲選ぶなら「Happy4ever」だろう、ここではまるで映画『インセプション』のように——脈絡のない他人の夢や脳内を漂っているかのような感覚を僅か11分でユーモラスに表現してみせる。

バンドミュージック、ヒップホップ、テクノ、ハウス…ジャンルを問わず、あるひとりのアーティストの内面や作家性が強烈に出た作品——録音、編集、ミックスをダニエル・クオンがほぼ1人で手がけた本作からは他者との交わりではないところから生まれたアート、それにしかない引力がある。ややラフな質感の穏やかなエンドロール「#9」で彼は日本語でこんな風に歌ってアルバムが終わる。

“金縛りはないよ、ほとんどないんです 頭が真っ白”

bandcampではタイトルが『Love Comedy』に変更されジャケットも差し替えられているが、$5払えばすぐに買える。異国の地の音楽室やアパートで作られたねじれたダークファンタジー、ひっそりとでいいから語り継ぎたい名作だ。

ちなみにCDのブックレットには大島渚をはじめとするスペシャルサンクス欄があって、作品を読み解くヒントにもなりとても面白い。

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Cities Aviv / MAN PLAYS THE HORN

2018年『Some Rap Songs』を最大公約数に連なるエクスペリメンタルな作品群にはMIKEやNavy Blueを筆頭にグッとくるタイトルも多かったが、ここ最近はやや食傷気味だった。そんな中聴いたメンフィスのラッパー Cities Avivのニューアルバム『MAN PLAYS THE HORN』は確かに2018年以降のアンダーグラウンド・シーンとの連なりを感じさせながらも一線を画すオリジナリティ溢れるサウンドが刺激的な一枚だ。

グリッチなサンプルとアブストラクトなビートこそ先述のシーンからの流れを感じさせるもののそこにアンビエント〜ダウンテンポ的なまどろみとメンフィスラップ、ヴェイパーウェイヴ風のざらついた質感をコラージュしたストレンジな音像はどこか懐かしくも近未来的で時代や地域性にクエスチョンマークが浮かぶ未知のサウンド。深海のようなサウンドスケープが印象的な12分間にわたるドリーミーなダウンテンポ「SMOKING ON A BRIGHTER DAY」、リヴァーヴまみれのトリップホップといった趣きの「STREET LAND ON ME」「THE FINAL SPARK」あたりの内省とメロウネスも魅力的だし、「THE SUN THE MOON THE SPA」や「BLEUS TRAVELER」はだらしない昼下がりに最適なドープでサイケデリックなソウルサンプルが美しくとにかく心地よい。

気がつけば快楽的な音楽をのうのうと楽しめるような世界じゃなくなってしまったけれど、こういう時こそ逃避的な音楽は必要だ。一日中スマートフォンと見つめあっても埒があかない。直視出来ない世界と向き合うためにも全26曲82分(デラックス版は35曲115分!)、たまにはレッツトリップといきましょう。

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Mystic High / CHIYORI × YAMAAN

これはめちゃくちゃ気持ちいい!!Hip Hop〜ソウルシンガー CHIYORIとプロデューサーYAMAANによるメンフィスラップとアンビエントにインスパイアされた初の共作アルバム。 

アンダーグラウンドなメンフィスラップ特有のローファイ&チープな質感と浮遊感のあるアンビエント的シンセがどこまでもミスティックハイな気分にされてくれる快楽音楽。80年代のマイナーなシンセウェイヴやPPUが発掘する様なブギー&ソウル、90年代にひっそり作られた宅録テクノ(そしてもちろんメンフィスのアングラなカセット)などで聴けるある人にとっては最高に気持ちいい音、そんなサウンドをひたすら追求したような清々しさと音楽愛に溢れた一枚。初期ワープを想起させるインスト”Intro”にはじまり、全サウナーのアンセムになり得る快楽度数MAXのチルトラック”水風呂”、ミスティックなムードを持った秘境系アンビエントR&B”Nature”、Gラップとアンビエントのありそうでなかっな邂逅”すごい”など散歩にも家聴きにも森林浴にもジャストな全10トラック。クールなアートワークにビデオまで最高です。

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『かけ足が波に乗りたるかもしれぬ』菅野カラン

「狂ってる?そうね世界がね フフッ」

なんとも不敵な笑みで教師が課した俳句40句の創作という夏休みの宿題。主人公の桜子と瑞穂はそんな狂った課題に辟易としながらもある方法でクリアしようとする。それは5文字と7文字のテキトーな言葉が書かれた色違いの付箋をランダムにひくというもの。しかし当然そんな方法ではすぐには上手くいかず、2人は旅に出れば俳句が出来るはず!と思い立ち、家庭の事情から離れて暮らす桜子の母のもとへと家出をはかる。

10時間の道中も2人は俳句を作りつづける。はじめはなんの意味ももたなかった言葉の羅列は母親のもとに近づくにつれ少しずつ意味を持ち始め、3つの付箋から偶然に生まれていた俳句はやがて2つの付箋になり、そして目的地にたどり着く頃にはオリジナルの一句が完成する。真似事から始まった俳句が車窓から見える風景の移り変わりとともに、少しずつ変化していく。その移り変わりはまるでミニマルテクノのようにさりげなく、創作の喜びに気づく彼女達の感情が見事に表現されている。なにかを作ることの面白さや感動、それに出会った瞬間のきらめきが最高純度で描かれているのだ。

象徴的な長い橋や深い森、暗く長いトンネルを抜け、その先に待っている母親。何日いてもいいよという母親に対して、桜子は凛とした横顔ですぐに帰ることを告げる。理不尽なおばあちゃんや話を聞いてくれないおとうさん、そんな厳しい日常にあえて帰ろうとする桜子。世界はいつも狂ってる、きっと狂ってない世界なんてどこにもないのかもしれない。だけど桜子は俳句と出会い、風景はどんな風にも変えることが出来ると知った。ひと夏の少女達の成長譚を通して、表現することの根っこにあるものまで描いてみせた、音楽、映画、漫画、文学…あらゆるアートに人生を救われたことのある全ての人に届いてほしい作品です。

第80回ちばてつや賞佳作受賞作
「かけ足が波に乗りたるかもしれぬ」 コミックDAYS