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FYOC Favorite REVIEWS

FYOC Favorite List 2021

今年はいろいろな形でFYOCに関わってくれた皆様に2021年のお気に入りの作品を選んでもらいました。ニューリリースも再発もあり、アンダーグラウンドなビート・ミュージックから映画、ドラマ、漫画までFYOCらしい独自のリストになったと思います。シーンや時代の流れとは何ら関係なく極私的に選ばれたこのリストであってもなんだか2021年を感じさせてくれるから不思議です。今年はいろんな事情もあり清々しいほどマイペースな更新になってしまいましたが、2022年に向けて色々とワクワクするような企画も準備中、とりあえずはこちらのリストでもって2021年を振り返ってみました。
このページで紹介されている作品にさらに数十曲プラスした(Spotifyにあるものだけです)プレイリストも最下部に貼ってます。正月休みの暇時間のお供にどうぞよろしくお願いします!

Dean Blunt / BLACK METAL 2

元Hype Williamsの片割れによるニューアルバムは全編に腑抜けたギターをフィーチャーしたソフトサイケデリック、もしくは異形のアシッドフォークアルバム。あらゆるものから距離を置くような孤独でくたびれた歌がなにより素晴らしい、前向きさとはかけ離れたある人にとってはとてもひたむきな音楽。

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V.A. / SPLINT

ブリストルのネットラジオ局兼インディレーベル“Noods Radio”によるコンピシリーズ第二弾。乱打されるトライバルなパーカッションにスペイン語のフィメールボーカルが乗るミュータントなラガマフィン「Azione Reazione」など、乱暴なダンスホールナンバーに痺れる一本。カセットのパッケージもイケてます。

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Eva Noxious / Anti Todo

チカーノ・フィメール・ラッパーEva Noxiousの音源をオランダのエレクトロレーベル“Bunker”がコンパイル。爆音で聴きたい粗悪なビートと意外(?)にもドリーミーでフローティンな上モノが最高に癖になるG-Funk〜Phonk。あっという間に聴き終わる、全13曲23分。

Space Africa / Honest Labour

NTSのレジデントも務めるマンチェスターのデュオ最新作。最初はダブっぽかった前作の方が好みだったけど、ディープなエレクトロニクス〜ダウンビートを聴かせる今作も聴けば聴くほど良い。アンビエントトラックであってもUKガラージ由来のざらついたストリート感があって何よりそこにグッとくる。

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DRTYWHTVNS / Aloof

“Orange Milk”からリリースされたUSのラッパー兼トラックメイカーのデビュー作。トラップ、エレクトロ、ディスコ、ハウスをミックスしたカラフルでキャッチーなサウンドながら、”資本主義の世の中でインディペンデントな音楽活動を続ける事に対する苦悩”が歌われているというギャップに2021年らしさを感じる。

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KM / EVERYTHING INSIDE

今、飛ぶ鳥を落とす勢いのプロデューサーによるアルバム。このアルバムはリリースされてから今までコンスタントに聴いていた印象なので、個人的に今年1番聴いたんじゃないかなって思います。アルバム通して心地良いんですよね。朝昼晩いつでも聴ける感じ。中でも1、3、4曲目あたりが好きでよく聴いてました。ワンマンライブにも参戦して、人生初の最前列でかなりヘッドバンギンさしてもらいました。これからの活躍にも期待大!

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『逃げた女』ホン・サンス監督

これまでの集大成と思えるような完成度でありつつ、新しいフェーズに入ったかのような清々しさ。ホン・サンスと言えばのズームインはあれど、物語時間軸の入れ替えや繰り返しなど無くとてもシンプル。ひとりのごく個人的な映画のようでいて、この開かれた風通しの良さは一体なんだろうと思う。寂しげな影をひきつつ明るいムードを纏う主演キム・ミニの佇まいが素晴らしい。

Patrick Shiroishi / Hidemi

ロサンゼルスの日系アメリカ人サックス奏者によるエスペリメンタル・ジャズ・アルバム。情感溢れるセンチメンタルなフレーズがミニマル・ミュージック的反復のうえで現れては消える多重録音サックスソロ作。実験的ながらもミニマルなフレーズのループは体を揺らし、ときにエモーショナルなフレーズに心まで揺さぶられます。

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Yl Hooi / Untitled

オーストラリアはメルボルンの地下で活動するアーティスト。詳細はいまいち不明。オリジナルリリースはメルボルンの良質レーベル“ALTERED STATE TAPES”のカセット音源。80年代ダブの質感をアンビエント〜バレアリック以降の感覚でD.I.Yに表現したエクスペリメンタル・ポップ。マッドなビートが気持ち良すぎる「Prince S Version」、Love Joysのメルトダウン・カバー「Stranger」などが白眉。

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『ブラック・ウィドウ』ケイト・ショートランド監督

本格アクションを織り交ぜ綴られる登場人物それぞれの距離感、そこから提示される家族像にしみじみ。シリーズものとしての制約やジャンルの枠が、創作物語を成立させていたり、テーマや表現の工夫を生んでいるのではないか。往年の70年代アメリカ映画みたいなコンパクトかつ熱い感動と重ね合わせて観てしまうのは、そうしたところからかもしれないと思う。

BLAWAN / Woke Up Right Handed EP

UKのテクノプロデューサーBLAWANがバチバチに攻め攻めなフロアボムを投下。UKベース、ブリープテクノ、インダストリアル、ポストダブステップなどなどをハードにミックス。「Under Belly」の突っ込みすぎて割れちゃった感じのシンセとか最高。

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99 Neighbors / Wherever You’re Going I Hope It’s Great

昨年リリースしたシングル「GUTS」がとにかく格好良くて気になっていた、アーティスト集団によるアルバム。ラッパー、シンガー、プロデューサーが在籍しているので、曲ごとに魅せる顔が違って、メロウだったり、妖しかったりで1枚通して楽しめるから好きでした。BROCKHAMPTONと比較されがちみたいですが、個人的には格好良ければ何でも良いので、これからも動向を追っていきます!

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『フリーガイ』ショーン・レヴィ監督

現代的な題材や当然のCG映像表現ながら、古典的なアメリカコメディ映画のような愛らしさを感じた。特にライアン・レイノルズ演じるガイとその友人である銀行警備員との間には、とても感動的なバイブレーションがあって、ラストふたりの邂逅においてルネ・クレール監督『自由を我等に』を連想し思わず涙。チャップリンやキートン映画のようにイキイキ楽しい作品。

Leslie Winer / When I Hit You – You’ll Feel It

早すぎたトリップホップ、Leslie Winerの未発曲含むアンソロジー盤。90年代初頭の香りがムンムンする無骨なビートとダンスホール由来のマッシヴなベースラインが耳と腰にグッとくる今まさに最高な音、初出曲「Roundup Ready」だけでもマスト。アートワークだけが少し残念!

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V.A. / Late Night Tales Presents Version Excursion Selected by Don Letts

1978年のジョン・ライドン初ジャマイカ渡航にジャーナリストで近年自身の音源が再発されたビビアン・ゴールドマン(著作『女パンクの逆襲 フェミニスト音楽史』12/23発売)と同行し、フィルムメーカーでTHE SLITSのマネージャーでBig Audio Dynamiteのメンバーでもあるドン・レッツ。その彼の選曲によるJoy Division曲のレゲエDUBカバー含む全曲素晴らしいコンピレーション。

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『ジャングル・クルーズ』ジャウム・コレット=セラ監督

全体の出来というか、設定、脚本等の完成度その他諸々に思う事は色々とありそうなのは確かだとしても、テンポといい美術といい個人的にかなり好み。漫画『タンタン』や小説『エルマーの冒険』を読んだ時のような気持ちになってワクワク楽しんだ。追いつ追われつが螺旋状に広がる物語構造と世界を彩る明暗のコントラスト具合にニール・ゲイマンの小説も連想した。

Brainstory / Ripe EP

今年の夏はほとんど出かけてないから大体これでトリップ、“Big Crown”オール髭面バンドの最新EP。メロウな歌ものも相変わらず素晴らしいがソファーか沈み込んでいくようなドープで陶酔的なインスト曲が堪らなく気持ち良い。サイケデリックで清々しいほどにだらしない最高の一枚。

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『ハイ・フィデリティ』

2020年のHulu作品が今年Disney+で配信されて視聴。原作小説と映画版とは違うトーンで再構成されていて、テーマの切り口などは同じNYが舞台のNetflix『マスター・オブ・ゼロ』と少し似てる。この作品ならではの劇中音楽やレコードの扱いは変わらずとても魅力的で、フランク・オーシャンはかかるし、当然のようにNumeroの再発に親しんでいるような選曲。音楽監修クエストラブ。

Awich / 口に出して

まずは姐さん、祝・武道館!今や日本のHIPHOP界で文字通り最先端にいらっしゃるAwich姐さんのシングル曲にだいぶ食らいました。いやー、格好良い!!ダブルミーニング的な内容のリリックがもう堪りません!今年は2回ライブに行かせて頂いて文句なしに最高だったし、武道館ももちろん参戦予定です。どっぷりハマってます。はい。これからも付いて行きます!

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Wool & The Pants / 二階の男

MAD LOVE Recordsと初台のギャラリーLAID BUGの共同リリース「TWIG EP」収録曲。路上から密林に迷い込んだMoondog的エキゾ・ヴォーカル・ダブ??スローかつ重心低めにクルーズするビートとロウでスモーキーなヴォーカルに高まり、アウトロのサックスで昇天する傑作曲。クールなアートワークの限定10inchは探せばまだ買えるはず。

『わたしの“初めて”日記 Never Have I Ever』

Netflixドラマ。今年シーズン2が配信されて視聴。いわゆるアメリカ学園ドラマで、突然父親を亡くしてしまった10代の主人公を中心に笑いあり涙ありの日々がテンポよく描かれる。製作総指揮がミンディ・カリング(映画『ナイト・ビフォア』でセス・ローゲンにドラッグ詰めをプレゼントしたその妻役の俳優)と知るとより納得感が高まる内容。22年シーズン3配信予定。

Tiziano Popoli / Burn The Night – Bruciare La Notte : Original Recordings 1983 – 1989

イタリアのミニマル・コンポーザー80年代の録音をまとめたコンパイル盤、リリースはRvng Intl.とFreedom To Spendのダブルネーム。ミニマルなシンセ×Roland TR909ドラムマシンによるアヴァンニューウェーブポップ、アンニュイな脱力ヴォーカル入りのIunu-Wenimoなど2021年的にジャストなサウンドも多数。

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LAYA / Bitter

2021年、個人的発掘アーティストはこれ。
ジャケットは派手なのに、曲は全然派手じゃない!音数少なめの今っぽいR&Bなんですが、HOOKが良いのと、ビジュアル含めてドンピシャだったので彼女が1番の収穫でした。昨年には「SAILOR MOON」なる曲をリリースしていたようで、ジャケットとMVがまんま過ぎて、ネタ系かな?なんて聴いてみたら意外に良くて度肝ブチ抜かれました。ひょっとしたら、ひょっとするかもなスター性を秘めてる気が…。要チェケラ!

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Snoh Aalegla / TEMPORARY HIGHS IN THE VIOLET SKIES

デビュー時からずっと好きでアルバムがリリースされる度に前のめりで聴いてるSNOH AALEGRAの最新作。リードシングルの「LOST YOU」からして格好良さがハミ出てましたが、やっぱり良かったですね。声が最高というかもうツボなんです。以前ビルボードでのライブが中止になってしまったので、いつかは生で拝みたい。

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『つつがない生活』INA

現実に寄り添いながら、現実を飛び越えるような表現。そのバランス感覚が最高。これだけ生活の匂いを感じるマンガがあるだろうか。ストレスは日常でぼとぼとと地面に落とされていく。取り除いていくことは不可能だけど、実はそれを路傍で拾い上げる事がふと救いになることもある。ラストできらめくイヤリングが象徴するようにどこかで続いていく生活がひたすら愛おしい。

http://to-ti.in/product/tsutsukatsu

澁谷浩次 / Lots Of Birds

バンドyumboのリーダー、澁谷浩次初のソロアルバム。ロバート・ワイアット『ロック・ボトム』やルーリード『コニー・アイランド・ベイビー』の隣に並べたいような、1人でこっそりと聴きたくなる親密で静かでユーモラスな11の小さな物語を収録。志賀理江子の写真を使用したアートワークも素晴らしい。

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V.A. / Wounds of Love: Khmer Oldies, Vol.1

サウンドシステム導入以前のジャマイカ音楽に焦点をあてたシリーズ『If i had a pair of wings jamaican doowop』が刺さりまくったロンドンの発掘専科Death is not the endのニューリリースは60年代カンボジアン・オールディーズ・コンピレーション。いわゆる辺境ものコンピとは一味違う、気を衒わないセレクトに感銘をうけます。何の変哲もないただの名曲l Love Only Youに涙。

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Ruth Mascelli / A Night At The Baths

ニューオリンズの No Waveパンク、Special Interestのメンバーによるインダストリアル・テクノなソロ1作目。フロア仕様のハードテクノもイカすけどトリッピーなシンセのアンビエントトラックがええ感じで良く聴いた。クールなアートワークはやっぱりStudio Tape Echo。

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Eve Adams / Metal Bird

カナダのポストパンクCrack Cloud界隈から現れたシンガーによるフォーキー・バラッド集。リンチ作品あるいはダグラス・サーク作品に漂う50年代アメリカの妖気に満ちたダークでメランコリックな一枚。Military Geniusによるサイケデリックな味付けのプロデュースも絶妙。

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『僕らのままで We Are Who We Are』

イタリア内のアメリカ、キオッジャ米軍基地で暮らすティーンとそれを取り囲む大人達との青春群像劇。眩い陽光の下を彷徨う主人公フレイザーを追い続ける陶酔的な第一話から一気に駆け抜ける全8話。大人も子供も正しさなんて分からないまま、揺らぎ続ける感情とその一瞬を焼き付けたルカ・グアダニーノの鮮烈作。最高!

『Covid 33』山本美希

いま未来の話を書くこと。たとえその未来が明るい未来でなくとも、そこにあるかもしれないかすかな希望をキャプチャーしようとすること。いまだ感染症が蔓延する2037年を舞台に創作と祈りについての短編20ページ。ランバーロール04に掲載。

http://to-ti.in/product/covid-33

『すばらしき世界』西川美和監督

人生の大半を刑務所で過ごした元ヤクザの男が、還暦を前に出所し、社会復帰のために悪戦苦闘する物語。
生活保護の実態と自己責任論、格差社会とキャンセルカルチャー、息苦しく閉塞的な現代の日本を「すばらしき世界」というタイトルでユーモラスかつ切実に描いた2021年最も心に響いた作品。

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澁谷浩次『Lots of Birds』

“時間が限られていたことに
今になって気づいたんだ”

『限られた時間内に』

レコードの針を落とすと穏やかなピアノとヴァイヴ、そのあとに続く軽快なリズムに乗せてそんな風に歌われる。

ボソボソとしたどこかぶっきらぼうにも感じる歌声は喜怒哀楽そのどれとも似つかず、だけれども同時に全てを内包しているような不思議な魅力をはらんでいる。平熱のようでいとどこまでもエモーショナル、たとえばルー・リードやピーター・ペレット、そしてロバート・ワイアット、そんな偉大すぎるヴォーカリストまで思いだしてしまうほどだ。僕は2曲目のIt will be winter soonの歌い出しとスライドギターの始まりを聞いて鳥肌が止まらなかった、というか少し涙目になった。もうすぐ冬が来ることしか話すことがない2人、人と話さずにすむ仕事を見つけてラッキーだという主人公の静かな歌、それがなんでこんなに心に響くんだろう。

仙台を拠点に活動するバンドyumboのリーダー澁谷浩次のソロアルバム『Lots of Birds』のなかで主人公は限られた時間の中、いままで出会ってきた人達を思い出すように、失われていく記憶を日記に書き留めるように歌にしていく。いつ人生が終わるかなんて本当に分からない、最近は特によく考える。そんなことを考えながら思い出すのは昔すこしだけ働いた職場の同僚だったり、いまは連絡先も知らない知り合いやかつての恋人…走馬灯のようにゆっくりと流れていく11の曲、最終曲『あまり知られていない芸術家』を聴き終わる頃には僕はいつも曖昧な記憶の中をふらふらと彷徨っている。

“僕は大勢の芸術家と出会った
成功してる人も居るけど
ほとんどの人は
あまり知られていない”

(中略)

“そんな人たち目の前に集めて
歌を聴いてもらいたいんだ
僕の時間は限られている
誰かに思い出してもらい
全員と語り合うには”

『あまり知られていない芸術家』

1stブレスのレコードはもう中々手に入らないかもしれないが再プレスの予定もあるらしい。出来れば志賀理江子による素晴らしいアートワークと歌詞カードを見ながら向き合ってほしい作品だ。ちなみに僕はレコードもbandcampも買った。家でも移動中もこればかり聴いている。

世界中に熱心なファンを擁するyumbo(ユンボ)のリーダー/シンガーソングライター、澁谷浩次のオリジナルソロアルバム。Maher Shalal Hash Baz(マヘル・シャラル・ハシュ・バズ)のメンバーとしても知られている澁谷によりコロナ禍の東北で録音された邂逅と別離についての11の私的な物語は、この流行病の時代に普遍的に鳴り響く。

参加ミュージシャン;
澁谷浩次 (yumbo)
瀬川雄太 (subtle)
ゲストミュージシャン:元山ツトム (EDDIE MARCON)

カバーフォト:志賀理江子
デザイン:森大志郎

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REVIEWS

いまはもうないけれどここに存在しているー
今泉力哉『街の上で』

「誰も見ることはないけど 確かにここに存在してる」

冒頭のナレーションのこの言葉に尽きるだろう。『愛がなんだ』『あの頃。』などで知られる今泉力哉監督の最新作『街の上で』は「不在の証明」という難儀なテーマをノスタルジックになることを巧妙に回避し、軽やかにそしてユーモラスに表現することに成功した稀有な一本だ。

「愛がなんだ」の今泉力哉監督が、下北沢を舞台に1人の青年と4人の女性たちの出会いをオリジナル脚本で描いた恋愛群像劇。下北沢の古着屋で働いている荒川青(あお)。青は基本的にひとりで行動している。たまにライブを見たり、行きつけの古本屋や飲み屋に行ったり。口数が多くもなく、少なくもなく。ただ生活圏は異常に狭いし、行動範囲も下北沢を出ない。事足りてしまうから。そんな青の日常生活に、ふと訪れる「自主映画への出演依頼」という非日常、また、いざ出演することにするまでの流れと、出てみたものの、それで何か変わったのかわからない数日間、またその過程で青が出会う女性たちを描いた物語。

カットされた自主映画の出演シーン、留守電の応答メッセージに残されたいまはもう亡き人の声、彼女と食べるはずだったバースデイケーキ、そして日々再開発の進む下北沢の風景。それらはいま誰も見ることは出来ないけれど確かに存在しているものの象徴としてさりげなくも印象的に登場する。「不在の証明」といったが、正確にいえば「不在の存在の証明」というべきだろうか。いまはもう存在しないものをフィルムの中に残すことがこの作品のテーマのひとつであることは冒頭のナレーションからも明らかだが、本作の面白さはそれが過去(かつてあったもの)へのノスタルジックな眼差しではなく、あくまでもいまここにあるもの(誰もみることは出来ないが)として描かれていることだ。誰も見ることはないけど 確かにここに存在して”いた”のではなく誰も見ることはないけど 確かにここに存在して”いる”のである。だからこそカットされた自主映画の出演シーンはある人の中でいまも残り続け、亡き人の留守電に電話をかけることによってその人はいまも存在し、食べられることのなかった誕生日ケーキは時を経て冷蔵庫から発掘され、移りゆく下北沢の街は工事中の風景そのままがスクリーンに映される。

古着屋で働く主人公”荒川青”を中心に彼を取り巻く4人の女性達との他愛なくもどこか笑ってしまう愛すべき日常や、文化の街下北沢をに暮らす若者達の生活を少しあざといくらいのカルチャーの引用(魚喃キリコ漫画の聖地巡礼をする若い女性やヴェンダースのベスト作品を巡る男2人のカフェでの会話など)を用いて丁寧に切り取った本作はパンデミック以降、かつての当たり前が遠くに感じられる今こそより胸に響いてくる。下北沢の街をふらふらと彷徨いつづける青の暮らし、本作がスクリーンに映しだすささやかな日常はかつて”あった”ものではなくいまここに”ある”ものなのだ、きっと誰もみることはないけれど。

出演:若葉竜也、穂志もえか、古川琴音、萩原みのり、中田青渚
成田凌(友情出演)
監督:今泉力哉『愛がなんだ』
脚本:今泉力哉 大橋裕之
映画『街の上で』公式サイト:https://machinouede.com/

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『ビーチ・バム まじめに不真面目』の不真面目さ

「Fun is a Fucking Gun」、楽しく生き続けるのは本当にハードだ。やりたい事だけやってりゃあいいのに、いつのまにかやらなきゃいけない事ばかりをやっている。自由に生きるのは簡単じゃない。ましてや2021年、路上で酒を飲むことも出来ない東京に自由なんてどこにもない、あるとすればそれはハーモニー・コリンの最新作『ビーチ・バム』が映写されたスクリーンの中でだけだ。

ハーモニー・コリンは19歳でラリー・クラークの名作『KIDS』の脚本を執筆し、90年代のカルト・クラシック『ガンモ』で監督デビュー、一躍ポップカルチャーのアイコンに。一時は精神を病みメインストリームから退くも、春休みの遊ぶ金欲しさに強盗をはたらく女子大生を鮮烈に描いた『スプリングブレイカーズ』で衝撃の帰還。近年も彼からの絶大な影響を感じる『mid 90s』(監督のジョナヒルは本作にも出演)のヒットや、Travis Scott『JACKBOYS』のアートワークなどポップの最前線で異彩を放ちつづけている。そんな彼が50歳を目前にして世に送りだしたのは超自由奔放な生粋のアウトロー詩人ムーンドッグを描いたストーナー・ムービー『ビーチ・バム』だ。

主人公ムーンドッグは若き日に出版した一作の詩集により称賛を集めるも、その後は酒、ドラッグ、女に溺れるかつての天才詩人。周りからは才能を無駄にするななんて言われているが本人はまったく気にも留めず、謎の富豪妻の金で豪遊しまくりハイになって街の酒場を転々としている。しかし、その妻の交通事故死により金も豪邸も車も一気に失いホームレス状態に。とここまで話すとまるで彼がこの後すこし人生を省みたりしそうだが、そんな安易なことにはならないのがハーモニー・コリン。その後もホームレス達とかつての豪邸をめちゃくちゃに破壊し、父を想う真面目な娘に入れられた更生施設も脱走、ついには車椅子の老人を暴行して金を奪ったりとやりたい放題。

たった80ページほどしかなかったという脚本にはストーリーらしきストーリーはなく、ハイなまま煌めく街を自由に彷徨いつづけるムーンドッグをカメラはひたすら追いかける。ギャスパー・ノエ監督作品などで知られるブノワ・デビエによる、その陶酔的な眩さは最近だとルカ・グアダニーノ『We are who we are』エピソード1の陽光を少し思い出したりもするが、それとは似て非なるものであり終始ストーンなムーンドッグが見ている幻惑的なマイアミの風景そのものだ。そしてその映像をより魅力的に見せる音楽のセレクトも当然素晴らしく、ジェリー・ラファティ、スティーヴン・ビショップ等のヨットロック度高めの70sヒットから大胆なキュアーやヴァン・モリソンの使い方までこれもまたムーンドッグの頭の中を覗かせるかのようにほとんど途切れなく流れていく。

どこまでもだらしなく無責任でアンモラル、実在したら間違いなく社会からはじき出されるアウトロー、だが底抜けに明るくポジティブ、そして何にも制約されず自由に人生を謳歌するムーンドッグはこの世界でだけは幻のように輝いている。あまりに窮屈で不自由な世界に暮らす私たちはそんな彼の姿をどのように観るのだろう。この映画でハーモニー・コリンが描いた「不謹慎さ」「不真面目さ」「無意味さ」はかつてあったユートピアとしての世界、失われいく楽園としての映画に捧げられたレクイエムなのかもしれない、だからこそいままでのコリン作品にあった不穏さは姿を消し、お下劣なユーモアとナンセンスで応えてみせた。『ポンヌフの恋人』如く馬鹿みたいにぶち上がる花火と夜空を舞う札束、そのあまりの美しさと儚さにそう感じざるを得ない。

友人間では最大のヒーローと崇められるマシュー・マコノヒーの歴代最低興行収入、Rotten Tomatoesでは異例の超低評価。その理由を是非劇場で確認してほしい。

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FEATURES PLAYLIST REVIEWS

50 SONGS OF 2020

1.Standing On The Corner – Angel

Angel / Standing On The Corner

フリージャズ、ヒップホップ、ソウル…あらゆる音楽を取り入れながらそのどれとも言い切れない音楽を鳴らすニューヨークのアートコレクティブSOTC。待望のニューリリースはかつてないほどキャッチーでありながらも彼ららしいコラージュ感覚とユーモラスな実験に溢れた最高の一曲。古びたマシンから流れ出したビートは宇宙を泳ぐように揺れながら時には破裂し木霊したりしてメランコリックなサックスと戯れていく、楽曲の雰囲気を見事に視覚化したメルヴィン・ヴァン・ピーブルズ出演の PVも合わせて。

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2.Tvii Son – Out of Vogue

ウクライナはキエフ発、エクスペリメンタル〜エレクトロバンドによるデビュー作から。ダークで硬質なビートと絶妙に力の抜けたLucyのヴォーカルが醸し出すなんとも言えないクールネス。ブリストルとベルリン、その両方のサウンドを独自に昇華したインダストリアル・ダブ。

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3.Parris – Soft Rocks With Socks

bpm100ぐらいで絶妙につんのめるマシンビートを軸にアブストラクトなシンセや打楽器、ユニークなベースがふらふらと現れては消えるダビーハウス。デカイ音でも延々と聴けるオーガニックで繊細な音作りが気持ちいい。今年のParrisはHarajuku GirlsとYureiも素晴らしかった。

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4.Slauson Malone – Smile #6(see page 198 and 158)

ツアー先で手に入れたアコースティックギターを全編にフィーチャーしたEP「Vergangenheitsbewältigung (Crater Speak)」収録。ギターの爪弾きにボイスサンプルがコラージュされていく前半とチープなビートとラップによる後半。実験的なフォーク作品ともヒップホップの異形とも聴こえるメランコリックなサウンドは唯一無二。

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5.Phew – The Very Ears of Morning

エレクトロニクスと声、ヴィンテージなリズムマシンによって構成された傑作「Vertigo KO」のファーストトラック。夜明けの瞬間を永遠に引き伸ばしたような圧倒的に美しいシンセアンビエント、眠気が飛びます。

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6.King Krule - Underclass

リリースは2月。その後の世界を予見するような内向性と乾きの中にある少しのメランコリー。終盤のムーディーなサックスの旋律に彼の新たな表情を感じる。

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7.Wool & The Pants / Bottom of Tokyo #3

Bottom Of Tokyo #3 by Wool & The Pants - TuneCore Japan

『Wool In The Pool』に収録のNo Wave的ファンクが大胆にリアレンジされた2020年新録曲。Sly Stone、後期CANを連想させるチルアウトなトラックの上で歌われるのは新しい意味を持った「明日街へ出よう」。緊急事態宣言期間中にリリース、印象的なアートワークは東京暮色とフランシス・ベーコンのアトリエのコラージュ。

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8.Aksak Maboul – C’est Charles

ベルギーのアヴァンポップ・レジェンドによる40年ぶりの新作「Figures」。本曲は往年の名作感をまったく感じさせない現代的なサウンドとビートを持った2020年のアートロック。

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9.Model Home – Faultfinder

Throbbing Grisle meets MF Doomとは言い得て妙。今年一番ドープなビートと変調された癖になるライム、アートワークと共鳴するような粒子の荒いサウンドは中毒性かなり高めです。Warp傘下Diciplesからのリリース。

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10.Pavel Milyakov – Odessian Dub

Pavel Milyakov - Odessian dub

モスクワのテクノ・アーティストButtechnoことPavel Milyakovによる幻想的なアブストラクトダブ。不明瞭な旋律の電子音と重たいビートのコントラスト、真夜中の霧深い街を彷徨い歩くような美しいサウンドスケープ。ウクライナ・オデッサの街に捧げられているらしい。ふらふら歩くには丁度いいサウンドトラック。

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11.Frank Ocean – Dear April

結局”Dear April””Cayendo”の2曲のみだった2020年のフランク・オーシャン。Acoustic ver.というだけあってシンプルな伴奏のみの楽曲だがフィンガリングノイズにまで徹底されたアンビエンスと圧倒的な歌声、これだけで何にも変え難い凄みがある。

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12.JPEGMAFIA – living single

90年代アンビエントテクノ的なシンセ、音数の少ないビート、最高のタイトル。あっという間に終わってしまうが、寝るにはまだ早いなと思わせてくれる。

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13.Puma & The Dolphine – Supermarket

Amazon Music - Puma & The DolphinのSupermarket - Amazon.co.jp

ブルガリアの気鋭プロデューサーによる快楽的アフロ・エレクトロニクス。ポコポコしたリズムマシーンとエキゾなウワモノの絡みはまるでカメルーンの伝説Francis Bebay。アルバムタイトルは「Indoor Routine」。

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14.Pearson Sound,Clara! – Mi Cuerpo

PEARSON SOUNDと、スペインのPRR!PRR!コレクティヴのCLARA!による最高のベースチューン。徐々に盛り上がるスペイン語のチャントがやばい脳内フロアキラー。部屋で踊りましょう。

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15.Playboi Carti – M3tamorphosis

2020年の終わり、待望のリリースとなったCartiのニューアルバムから。90年代メンフィスラップのカセットテープを想起させるざらついた音像が衝撃的。

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16.Burial,Four Tet,Thom Yorke – Her Revolution

幻想的なピアノループと淡々と脈打つビート、トム・ヨークの歌声がこんなにも伸びやかに感じられるのはいつぶりか。2020年の終わりに届けられた9年ぶりのコラボレーションにして名曲。

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17.Liv.e – SirLadyMakemFall

「 F.R.A.N.K」(2017)の頃にあったローファイソウルの面影を残しつつ理想的な進化を続けるダラス出身のシンガー Liv.e(読みはリヴ)。オルガルのループとSlyishなビートが身体をゆらすいなせなレディソウル。

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18.Haim – Los Angels

冒頭のサックスとドラムだけでもう最高。ラップ〜R&B以降のサウンドを当たり前に取り入れながらルーツである70年代西海岸の香りまで漂わせるしなやかなグルーヴと開放感、ヴィンテージなだけじゃない楽器の鳴りも素敵!

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19. Anthony Moore – Stitch in Time

40年の時をこえようやくオフィシャルリリースされた75年のお蔵入りアルバム「OUT」の冒頭曲。イントロの拍からして変だが一聴するとキャッチーなモダンポップにしか聴こえないのがすごい。

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20.Holy Tongue – Misinai

たしかにこれはLiquid Liquid、23skidooあたりが好きな人間は避けては通れない音。トライバルなパーカションとポストパンクの実験精神が邂逅したオルタナティヴダブ。

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21.Eddie Chacon – Trouble

チープな打ち込みとシンセによる自主AOR的なサウンドをアンビエント〜ニューエイジ再評価以降のセンスにまとめあげたのはきっとJohn Carroll kirbyの手腕だろう。「お前は悩みの種を増やすだけ」と繰り返し歌われる頭抱え気味なメロウソウル。

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22. Adrianne Lenker – zombie girl

都市から離れた山小屋でアナログ機材のみを使い録音されたソロ作。アコースティックギターとか細い声、遠くから聞こえる鳥のさえずり。喧騒から離れた場所で孤独と向き合うことによって生まれたシンプルだからこそ心をうつフォーク作品。

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23.Ryu Tsuruoka – Omae

横浜生まれのメロウな手口のシンセ歌手(トークボクサー)、ムードにこだわる音楽家。
PPUからのリリースとなったシングルは危険な甘さのトークボックス・バラード。アーバンとかメロウとかそういう言葉はここまで艶っぽい音楽にだけ使われるべき。

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24.坂本慎太郎 – ツバメの季節に

2020年後半にリリースされたシングル4曲はどれも素晴らしかったが「何年経って元に戻るの?」の歌い出しからはじまる本曲ほどいまの空気をキャプチャーした曲はなかったように思う。

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25.Moor Mother –  Forever Industries  A

とにかくたくさんのリリースがあった2020年のMoor Mother。サブポップからリリースの本曲はスウェーデンのビートメイカーOlof Melanderとの共作。

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26.Dirty Projectors – Overlord

ギター、ベース、ドラムのシンプルな楽曲に彩りを与えているのは各楽器の鳴りを完璧に捉えたMIXとDPらしい鮮やかなコーラスワーク。懐古的にならざる得ないバンドサウンドが多い中、本曲の独創性は際立って聴こえる。

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27.Holy Hive – Hypnosis

HOLY HIVE - Hypnosis

2020年も素晴らしいリリースを続けたBig Crownから。抑制が効きながらドラムスティックのワンストロークまでもが目の前に浮き上がってくるような、風通しのよいSweet Soul。

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28.Flanafi – Inner Urge

アメリカのAvant PopデュオPulgasのギタリスト、Simon Maltinesによるソロプロジェクト。ディアンジェロ、スライへの偏愛をプログレッシヴな感性でコーティング、この変態性は聴けば聴くほどくせになる。

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29.NENE – 慈愛

妖怪(!)を題材にした傑作ソロ「夢太郎」からのPV曲、歌い出しはいきなり「おばけが見える」。内面の揺らぎを描写した歌詞とスペイシーなシンセによるスピリチュアルなトラックが新鮮なまさに新境地の一曲。

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30.Military Genius – L.M.G.D.

Military Genius / Deep Web

カナダのポストパンクClack Cloudのメンバーによるソロ。ダークなアンビエントにまみれたアルバムの中では異色のダウンテンポなコールドファンク。

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31.Jabu,Sunun – Lately Dub

lazer_fennec's collection

ブリストルサウンドを更新し続けるクルーYoung echoのメンバーによる平熱のUKソウル。7inchB面に収録のSununによるとろとろのダヴバージョンが真夏の室内に最適でした。

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32.DJ CHARI & DJ TATSUKI – JET MODE feat. Tyson, SANTAWORLDVIEW, MonyHorse & ZOT on the WAVE

とにかくキャッチーなフロウとビート!一度聞いたらもう「おれらとめられね」って歌ってるしいつの間にか無限リピートして聴いている。

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33.テニスコーツ – さべつとキャベツ

Changing / Tenniscoats - Minna Kikeru

黄倉未来によるヒプノティックなビートにまず驚かされるが重要なのは何よりそのリリック。「あいつ」への直球の怒りといつのまに自分を侵食していく病気、たくさんのユーモアを交え歌われる気高く美しいテニス流プロテストソング2020。

Minnakikeru

34.NAYANA IZ – WALKING

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35.keiyaA – Way Eye

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36.Tohji – Oreo

Tohji – Oreo Lyrics | Genius Lyrics

いま踊れる曲を作ることに対する違和感をSNSで表明していたように新曲は90sテクノを彷彿とさせるアンビエントトラック。Oreoとチェリオがマントラの様にならぶリリックも面白い。

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37.Jon Bap – Help

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38.Hiiragi Fukuda – Vivian Girl

アルバム『Raw-Fi』冒頭曲。無機質なビートとラフなギターの生々しさがいい塩梅で同居したトラックにぼそぼそと呟かれる歌。淫力魔人よ助けて…デカダンな雰囲気とベッドルーム的内向性をあわせもった不思議な魅力。

bandcamp

39.Lizette & Quevin – Talk To Me

Talk To Me - Lizette & Quevin

BrainstoryのKevin Martinと陶芸家のLizetteによる、60-70年代に活動したチカーノ・ソウル・バンド、Sunny & Sunliners のカバー。このカサカサした温かい音像とメロディーは誰もがやられてしまうのではないでしょうか。

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40.Navy Blue – Ode2MyLove

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41.Lil DMT ,  Lil N1P – COMO SOY

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42.BLACK NOI$E – The Band (feat.Live.e)

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43.Cindy Lee – Heavy Metal

Cindy Lee - Heavy Metal

埃がかったギターのイントロから、壊れかけのオルゴールのようなガールズポップスサウンド。墓場の運動会に流れていそうな音楽。

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44.石原洋 – formula

石原洋/formula

bandcamp

45.Childish Gambino – 42.26

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46.redveil – Campbell

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47.John Cale –  Lazy Day

ガタガタ揺れたリズムと不安を煽るような調子外れな鍵盤がなぜか心地よく、隙間から覗くように現れる対比的なパートと合わせてこの状況下にしっくりきた最高のチルアウト・ソング。ピンクの髪もキュート。

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48.Vula Viel – My Own Skin

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49.山本精一 – フレア

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50.TOXOBAM – shabby function

狂気のコラージュに忙しないカットアップ、オモチャ箱じゃなくて新宿の裏路地の汚ねえゴミ箱をひっくり返したようなシティ・ミュージック for フリークス。夜に聴くと眠れなくなる。

bandcamp

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REVIEWS

好きっていう気持ち / おぼろげナイトクラブ
坂本慎太郎

A面に針を落とすと、もぞもぞとトレモロがかったような音と乾いた箱鳴りドラム。続いて変声子供声の合いの手から虫声とスティール・ギターが重なり寄り合わさっていく。というと、ソロ以降の総決算てんこ盛りサウンドのようだが、実際の音像は大仰さとは正反対の素朴な佇まいで、押し付けがましさやわざとらしさといったものは相変わらず一切無い。
T.rex~Princeを引き合いに出したくなる独特の軽み、あるいは地に足ついた異形のポップセンスが素晴らしい。といって、ギンギラにギラついたものではなくて、日向ぼっこしてるような優しい音だ。

B面ではさらに穏やかな様子を見せてくれる。波のように繰り返し寄せては消えるグルーヴに骨抜きにされて、目の前の景色がモアレ状に崩れ落ちてしまいそう。ストップモーション・アニメで表現されていた情報量がギュッと凝縮されたような音像だ。それでいて音数が増えることもなく、ふっと抜けるゆるい開放感が気持ち良い。
歌を象る言葉の選びと並びとリズムもさりげなく凄い。コーラスかけあい部分「~だね」にはグッときた。この声の主が人格を持った生き物として本当に存在しているかのようだ。

生き物といえば、これまでMV等ではお馴染みのキャラクターがレコードのジャケットに登場している。
つかず離れずの間柄だけど会えばいつも人懐っこくて知らない間に頼りにしている、子供の頃に夢見た最高の友達のような生き物。水木しげる『河童の三平』の向こうで手を振るタヌキのような愛らしさ。小舟でたどり着いた場所では死者もいきものも皆入り混じって歌い揺れ踊り続けている…
見て触って聴いて妄想が膨らむレコードならではのレコードだ。

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FEATURES REVIEWS

SEX, DRUG & FEMINISM
アーヴィン・ウェルシュ著『トレインスポッティング』

“あいつは押さえつけるのと殴るのは同じだ、暴力には違いないって言った。俺はその理屈に納得がいかない。おれはただ、引き留めたかっただけだ。話がしたかっただけだ。
レンツにこの話をしたら、キャロルの言うとおりだって意見だった。俺と一緒にいたいかどうか、キャロルには決める自由があるって言う。けど、それだってでたらめだろう。おれは話がしたかっただけなんだから。フランコは俺の味方だった。男と女ってのは理屈じゃない。俺たちはレンツにそう言ってやった”

引用元:アーヴィン・ウェルシュ著/池田真紀子訳『トレインスポッティング』

1993年にイギリスで出版されたアーヴィン・ウェルシュによる小説『トレインスポッティング』。1996年にダニー・ボイル監督によるこの小説を原作とした映画が公開。2017年には同監督による映画の続編も公開された。

『トレインスポッティング』と言えばまずはとにかくドラッグ。そして映画における素晴らしいキャスティングや90年代ブリット・ポップのグループが参加しているオリジナル・サウンドトラック。一般的に知られているイメージと言うとこんなところだろうか。

一般的にと言ってそのイメージが間違っているわけでもなく、実際に作中の登場人物達は基本的にドラッグを調達して摂取することに終始右往左往してばかりいる。
物語の舞台は1980年代後期イギリスのエディンバラで、20代中頃の薬物中毒者たちが中心の日常系ドラマだ。
日常系だけにドラマに大きな起伏はあまりないのだが、この作品の特徴として語りの構造がある。
映画では主観による語りは俳優ユアン・マクレガー演じる主人公のマーク・レントンのみだが、小説ではエピソードごとに語り手が変わる。
様々な語り手による複数の視点がキャラクターの人間性と関係性に奥行きを生み、一見他愛無いエピソードも常にどこか余韻を残すのだ。

小説は全7章を構成する43本のエピソードが連なりひとつの物語になっていて、映画はそのうちの10本程度のエピソードに映画オリジナルのエピソードを加え再構成したもの。
物語の大筋は小説と映画に違いはあまりなく、アンダーワールドの”Born Slippy”が流れる映画のラストシーンも内容自体は小説と変わらない(ちなみにこのシーンにあたる小説でのエピソードタイトルは”Station to Station”で、これはアーヴィン・ウェルシュが最も愛するレコードのタイトルでもある)。

小説と映画の脚本を比較してみると、映画前半までは登場人物の整理や時系列を入れ替えたりといった作劇上の演出はあれど、各エピソード内容は小説にほぼ忠実。
映画中盤の折り返しで、マーク・レントンが病院に担ぎ込まれ実家の自室で薬物禁断症状によってバッドトリップするシーンから最後のエピソードまでを映画は小説にはないオリジナルの展開を織り交ぜて進んでいく。

映画内容を俯瞰してみると、世間一般における『トレインスポッティング』のイメージというのは映画の薬物体験シーンの影響が大きいのだろう。それらのシーンが観客の目を引き強く印象に残るのはやはり事実だと思う。

しかし、薬物云々のあれこれをひとまず横に置いてみれば、絶望と希望でがんじがらめになった人間ドラマがひたすら繰り広げられているに過ぎないことがわかる。
例えば、他の映画でいうと『If もしも….』(’68/リンゼイ・アンダーソン監督)、『さらば青春の光』(’79/フランク・ロッダム監督)、『ウィズネイルと僕』(’87/ブルース・ロビンソン監督)といった作品と『トレインスポッティング』を並べてみたくなる。
または、昨今の欧米コメディ映画やネット配信コメディ・ドラマと並べてもしっくりくる。

『トレインスポッティング』は単にドラッグや音楽をファッションとして扱ったサブカル作品ではなく、普遍的な収まりの悪い人間愛に溢れた作品であって、その根底にあるのはあらゆる個人の尊厳に対するクリアな眼差しだ。
そして、それはそのまま著者アーヴィン・ウェルシュによる問題提起になっている。


#1 SEX

上記画像は映画『トレインスポッティング』の宣伝広告で、左から2人目の人物の名前はダイアン。
主要キャラクターである他の男4人と違って、小説では登場するエピソードは1つのみというキャラクターだ。
さらに、この画像内で彼女と直接の接点があるのは1人だけで、そう知って見るとこの並びのバランスは少し不思議に思える。

ダイアンはマーク・レントンがワンナイトラブを求めて訪れたクラブで出会う女性で、彼はダイアンをひと目見て彼女に特別な感情を覚える。
と、これだけなら普通のよくあるボーイ・ミーツ・ガールの展開を予想しそうになるが、『トレインスポッティング』ではそうならない。
この話が面白いのは終始ダイアンのペースで物事が進むところで、この2人の関係性において主導権を握っているのが男のレントンではなくダイアンなのだ。
レントンを見定め選んで同意をとりセックスの体位を指示し行為を終えた瞬間に去るよう命じるダイアンに対し、レントンはただ戸惑うのみ。なんとか男らしさを取り戻そうと妄想を試みるも、翌朝に衝撃の事実を知ってそれもあっさり砕け散る。
ダイアンは15歳ということがわかるのだ。
マーク・レントンは26歳。
重度のヘロイン中毒者が自分のした事に縮み上がる(イギリスにおける性交渉の法的同意年齢は16歳以上)。

『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(’19/クエンティン・タランティーノ監督)にもこれと似た状況になりえる場面があったが、こうした描写はただの配慮というものなどではなく、キャラクターと作品に奥行きを与えている。
このダイアンの場合にしても、宣伝広告からは添え物ヒロインと思われても不思議ではないけれど、実際はそうではなく、一見ありがちなエピソードが視点の位置が少し変わることで現実社会の歪さが浮かび上がるという、『トレインスポッティング』ならではのエピソードだ。

ところで、映画『トレイスポッティング』には仰向けのままマーク・レントンが床に沈み込んでいく有名なシーンがあるが、それと正反対のシーンがあるのがNetflixオリジナルドラマ『セックス・エデュケーション』で、シーズン1の最終エピソードで主人公が仰向けのまま文字通り天に昇っていく。
『セックス・エデュケーション』も『トレイスポッティング』と同じくイギリス作品で、こちらはドラッグではなくセックスをモチーフの中心に繰り広げられる青春群像劇だ。


#2 DRUG

『トレインスポッティング』はドラッグを通して社会の裏側を暴く、といった実録物のような作品ではない。アーヴィン・ウェルシュはドラッグを取り巻く人間模様を描くことで、今を生きる個人が抱える閉塞感や抑圧感といったものを映し出す。また、ドラッグに限らず、性暴力、性差別、人種差別や階級格差といったものから男の嫉妬…、といった社会では無いとされる様々なものを言語によって可視化する。

もし、ドラッグに纏わる社会的イメージを強く持ったままの頭でこの作品を捉えようとすると、こうした点が見えにくくなるかもしれない。
確かに、映画で登場人物がヘロインの摂取及びトリップする数々のシーンは怖いもの見たさの欲望を満たすのに良く出来た見世物になっていて、その点は素晴らしい。
そして、フランシス・ベーコンの絵画を色彩設計の参考にしたというヴィジュアル・イメージも独特の不穏な世界観を表現することに成功している。
それだけに、そういったある意味表面的な事象に隠れてしまって、原作の小説で描かれていることが見落とされがちのように思う。
宣伝のポップな展開と話題性が相まって、一括りにドラッグ関連の話、といった曖昧な作品像に留まっている原因のように思う。
しかし、漫画『スキップとローファー』のジャンキー版とでも言いたくなるくらいに、人間と人間の関係性が常に水平な目線で描かれているコメディドラマが『トレインスポッティング』なのだ。

あえて一括りにドラッグ関連ということで連想してみると、『仁義の墓場』(’75/深作欣二監督)のヘロインが増幅するドローン感と焦燥感を体現する渡哲也、芹明香、田中邦衛の不気味なまでの凄みが忘れられない。


#3 FEMINISM

“いったいどうして怒ってる? 「月のものの最中だから」という陳腐な答えが頭に浮かびかけたが、バーにあふれる笑い声に違和感を覚えて店内を見回した。それは、ただおかしくて笑ってる声ではなかった。
リンチに加担する暴徒の笑い声。
こんなこと、予想しろって言うほうが無理だーーー レントンは思った。わかってたらやらなかったよ”

引用元:アーヴィン・ウェルシュ著/池田真紀子訳『トレインスポッティング』

次の2つのツイートはアーヴィン・ウェルシュ本人のもの。

著書である『トレインスポッティング』やその続編『ポルノ』を読むと、この発言が特に突発的なものではないことがわかる。
そもそも、走ったり飛んだり沈み込んだりと何かと大忙しなイメージの主人公マーク・レントンだが、小説では性差別的な発言をする仲間を軽蔑し、時には諌めようとする人間なのだ。大抵、友人であるシック・ボーイの屁理屈にやりこめられるのだが。
また、別の仲間からはマスキュリニティお決まりの侮蔑表現として”男娼”呼ばわりをされたりしていて、もし男性によるホモソーシャルの為の教科書のようなものがあれば、その例文にぴったりのエピソードで満載だ。

映画ではこうした点の反映はレントンのキャラクター造形の雰囲気だけに留まり、具体的なエピソードとしては語られない。
その意味で映画続編の『T2』(’17/ダニー・ボイル監督)は正しく前作映画の延長線上にある作品と言える。
というのも、映画『T2』は小説『トレインスポッティング』の続編『ポルノ』が基本的なストーリーの骨子になってはいるのだが、前作映画にあったダイアンのようなエピソードはなくなっていて、映画としてはホモソーシャルの悲哀と黄昏といった感じの作品になっている。

現実ではホモソーシャルの網から抜け出すというのは到底不可能な事に思える、というのが個人的な今の正直な気持ちだ。
それだけに『トレインスポッティング』一作目のラストシーンは、ふいに清々しい気持ちを一瞬でも感じさせてくれるものだった。
一作目でホモソーシャルから抜け出ることに成功したレントンは、続編『ポルノ』でもやはり向こう側に抜け出るのだが、小説とは異なるラストシーンの映画『T2』におけるレントンに解放感はなく、もがいているように見えてしまった。

『トレインスポッティング』の主人公はそれまでのがんじがらめでいた世界から抜け出て外へ向かう。
映画『お嬢さん』(’16/パク・チャヌク監督)もアート的な背徳感とエンタメ的なサスペンス要素が同居した作品で、やはり主人公が新天地を目指す仄かに明るいエンディングで映画が終わる。こちらも小説を原作にしている作品だ。

“新聞紙の上にうんちをするのは大変だった。トイレはほんとせまくて、かがむのも一苦労だから。それにグラハムが何か怒鳴ってた。ゆるいうんちをどうにか少し取った。それを生クリームと混ぜてミキサーにかけ、できあかったものをチョコレート・ソースと合わせてソースパンで温める。その特製ソースをデザートのプロフィトロールにかけた。おいしそう。上出来だわ!”

引用元:アーヴィン・ウェルシュ著/池田真紀子訳『トレインスポッティング』
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REVIEWS

Medhane / Cold Water

ニューヨークのラッパーMedhaneがハイペースで作品をリリースしている。
2019年11月の『Own Pace』、今年2月の『FULL CIRCLE』、そして5月の暮れにリリースされたのが本作『Cold Water』。

アトランタのラッパー Future が2014年から2015年にかけてリリースした『Monster』 『Beast Mode』『56 Nights』の3作連続リリースに影響をうけたと本人は語っているが、3作目となる本作『Cold Water』はそのリリースの最後を飾るにふさわしい最も充実した作品となった。

Medhaneはブルックリンを拠点に活動する23歳のラッパーでいま最も注目すべきシーンのひとつ「NYアンダーグラウンド~ Standing on The Corner 界隈」のメンバーとの交流も多い。特に Slauson Malone とはユニット Medslaus 名義でのリリースやお互いの作品のプロデュースや客演などかなりの交友関係がある。

Medhane & Slauson Malone Discuss Their Influences, Why They Won’t Sign to a Major Label

本作にも N.Y アンダーグラウンド内外から多彩なゲストが参加している。今年3月に傑作「Forever,Ya Girl」をリリースしたばかりのシンガー keiyaA、King Klure が Edgar The Beatmeker 名義でプロデュースした「Can’t Slip」(これも傑作だった、)も記憶に新しいロンドンのラッパーJadasea、この辺りを掘ってる人間ならもはや説明不要だろうNavy Blue, Maxoなどなど。

このメンツを細い糸でつないでいるのは結局「Some Rap Songs」なんだと思うのだけれどMedhaneもやはりEarlの作品と共に語られることが非常に多く、最近だと友人であるMIKEあたりと共鳴するシンプルなジャズ、ソウルのサンプルが中心のアブストラクトなトラックが特徴的なサウンド。ただこの作品をそれ以上のものにしているのはで自身のメンタルヘルスやトラウマと向き合い、それらにイラつきながらも迷路のなかで葛藤し出口を探そうとするリリックにある。

ひとまず日々スケボーやサイクリングに勤しむ彼のInstagramをフォローし、Navy が参加した「TRS」のリリックをGENIUSでぜひ読んでみてほしい。

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REVIEWS

『 Feeding Back 』David Todd 著

“ついでに言っておけば、ギターだけ持っていた訳ではない” 水谷孝

2012年発行。
“オルタナティヴ”なギタリストのインタビュー集。

何がどうオルタナティヴかと言えば、Lenny Kaye(初っ端登場でおお、となる)、James Williamson(The Stooges:Raw Power)、Tom Verlaine (こうしたインタビューに答えてるのは結構珍しいのでは)…という掲載ギタリストを見れば、ギターという楽器に特別深入りせずともある種の音楽好きには自然に伝わるものがあるのでは、と思う。

さらにMichael RotherとLee Ranald(ここでThurstonではないのがわかってると言うかたまたまなのか)、Richard ThompsonとJohnny Marr、という並びを見るだけで感じ入るものがあったりする。

本を開くと序章でまずRobert Quineについて語られる。The Stoogesから端を発しSonic Youthのようなバンドへと受け継がれていく連なりがあり、そのパイプラインの中心にいるのがRobert Quineなのだと。
広く深い視点で俯瞰して見た時に浮かび上がる系譜のような、音楽的影響下で相互関係にあるバンドやそのギタリスト達。
ジャンルではなく”オルタナティヴ”という言葉の意味のまま、それらにブラックライトを当てること。
これがこの本のキモというか、著者のコンセプトらしい。

J MascisやJohn Fruscianteといったそのままジャンルのオルタナティヴとして知られているギタリストも登場するが、この本がいわゆるロックギターヒーローを扱ったものとは違った個性的なものになっているのはそんなコンセプトによって編まれているからだろう。

また、この本の特筆すべきことのひとつがギタリスト栗原道夫のインタビューが掲載されていること。
主にBorisとDamon&Naomiのかけもち世界ツアーをしていた時期のインタビューになる。
この本とは別になるが、彼が過去に在籍していたWhite Heavenの1st LP再発元のインタビュー( https://www.blackeditionsgroup.com/michio-kurihara-interview )を併せて読むとより一層イメージが深まるのではないだろうか。

Rainbow – Live at the Starlite, Edmonton 2010 / BORIS with Michio Kurihara

Live Radio3, TVE2 / DAMON & NAOMI feat. MICHIO KURIHARA

AMAZON: https://www.amazon.co.jp/Feeding-Back-Conversations-Alternative-Guitarists/dp/161374059X

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REVIEWS

The King Of The Endicott / Gary Wilson

The King Of The Endicott / Gary Wilson [ CLEOPATRA ] 2019

へんちくりんなメガネ、身体に巻き付けた紙テープ、ぶら下がったマネキンの首…
彼の名前にくっついてる枕詞を何とか避けたかったが、もはやこう言うしかない。“アウトサイダー・アーティスト”にして“ウィアード・ポップの鬼才” Gary Wilson。彼の2019年作が100枚限定でLPリリースされる。

1977年に発表された彼の代表作『 You Think You Really Know Me 』については、Beck や Ariel Pink らが彼からの影響を公言している事もあり、既に広く人が知るところとなっている。

Groovy Girls Make Love At The Beach / Gary Wilson

揺らぐエレピの薄皮の下で蠢くような不穏なアンサンブル。一方で軽やかなリズムと転がり回りじゃれつくような調子はずれのボーカル。多様なジャンルをないまぜにしながら何処にも属することのない楽曲は彼の奇天烈なイメージとは裏腹に緻密に計算されているように感じる。それは夢の中や、分岐した異なる時間だけに存在する現実から少しズレたパラレル・ワールドの中で演奏されているような音楽だ。

そして今作は、そんな彼が永い夢から醒めて寝ぼけているような、いつもとは違ったイメージを感じられる興味深い一枚。
公園にひとり佇んでみたり、雨の夜を歩いてみたり、半歩軸をずらして見えた世界に懐かしさを感じながらも、彼が歌にしてきた “Groovy Girls” 達に後ろ髪を引かれている。でも彼女たちはどこかに姿を消してしまったらしい。どこか寂しげな王様の後ろ姿が目に浮かび、軽やかなピアノの音がその落ちた影を際立たせている。

ちなみに、あたかも彼の心境に変化や覚醒があったかのように書いたが、別段そういうわけでもなさそうで、同じ年には R. Stevie Moore との共作も発表しているし、今年もいつも通り作品をリリースしている(こっちは未聴)。活動復帰後のほぼ毎年のリリースは止まる事はなさそうだ。

Walking In The Rain Tonight / Gary Wilson

2016年惜しまれながらも閉店したニューヨークのレコード店 OTHER MUSIC のドキュメンタリー映画トレイラー。本編では、Gary Wilson のインストアライブの映像やスタッフのエピソードも。

ジャズトリオ時代の演奏:Another Galaxy / The Gary Wilson Trio